「生保は後発品」に賛成も、実際ごねられたら…|医師4177人に聞いた「改正生活保護法に賛成?反対?」
【日経メディカルAナーシング Pick up!】
生活保護法の改正によって、この10月から生活保護を受給している患者に対して、医師が医学的知見に基づき「後発医薬品を使用できる」と認めた場合は、原則として後発品を使用することになった。
この制度改正について、日経メディカルOnlineは医師会員4177人を対象に10月8日~14日にアンケートを実施。制度改正への賛否や現場への影響などを聞いた。
生活保護受給者への後発品の使用は従来、医師や薬剤師などの努力義務とされていた。
しかし10月以降は、院外処方であれば医師が先発品を指定し、処方箋に「後発品への変更を認めない」と明記しない限り、薬局では生活保護受給者に後発品が調剤される。
医師が一般名処方を行った際も、「後発品を使用できると認めた」と見なされるため、薬局では後発品を調剤することになる。患者が先発品を希望した場合は疑義照会を行うしかない。
ただ、(1)後発品の薬価が先発品より高いか同じ場合、(2)医療機関や薬局に後発品の在庫がない場合──については、例外として先発品を使用してもよいとされている。
これらの制度改正に対して、「賛成」と答えた医師は全体の75.9%。
「どちらとも言えない」は19.9%、「反対」は4.2%にとどまった(図1)。
図1 今回の生活保護法改正に賛成ですか、反対ですか?(n=4177) |
アンケートの自由記述には、「生活保護受給者は税金で暮らしている以上、後発品を使うのは当然」(30歳代病院勤務医、耳鼻咽喉科)、「法律のバックアップができたので、患者への説明をしやすくなった」(60歳代病院勤務医、循環器内科)といった制度改正への好意的な意見が多く書き込まれた。
一方、「貧乏人は麦を食えと言われているような法改正。お上の差別意識は昔から変わらない」(60歳代診療所勤務医、一般内科)、「生活保護受給者に義務付けるのなら、その前に公務員に義務付けるべきだ」(30歳代病院勤務医、眼科)などと、生活保護受給者に限定して使用できる薬剤を制限したことに対して、嫌悪感を示す声もあった。
「ごねられたら先発品」vs「頑として後発品」、数は拮抗
今回の法改正では、医師が一般名処方をするなど、「先発品でも後発品でもどちらでもいい」と判断すれば、自動的に生活保護受給者には後発品が使用されることになる。
在庫がない薬局に処方箋を持ち込むなどの“抜け道”はあるものの、どうしても先発品が欲しい生活保護受給者は、基本的に医師に先発品の銘柄指定を求めるしかない。
アンケートでは、実際の診療の場面で、医学的知見から後発品で十分だと思われる生活保護受給者から「先発品を出してくれ」と言われた場合、どう対応するかを聞いた(図2)。
図2 後発品で十分だと思われる生活保護受給者から「先発品を出してくれ」と言われたら、どう対応しますか?(n=4177) |
「言われれば先発品を指定して処方する」と答えた医師は19.6%、「患者が強くごねたら先発品を処方する」とした医師は28.2%だった。両者を合わせると47.7%で、「それでも後発品を処方する」とした医師(42.9%)をわずかに上回った。
「制度自体はいいと思うが、ごねられた場合はトラブルを恐れて先発品を処方するだろう。彼らには時間があるので、延々文句を言って無理を通してくる」(30歳代病院勤務医、小児科)という声のように、いざ患者に先発品の使用を強く求められたら従わざるを得ないという現場の実情も見え隠れする。
これに関連して、自由記述では「制度を変えるのは簡単だが、実際にそれで患者からごねられるのは現場の人間。結局、対応が現場任せになっている」(40歳代病院勤務医、泌尿器科)、「『原則』というような表現が“ごね得”を生むので、どうせなら強制力を持たせるべき」(40歳代病院勤務医、整形外科)といった、あいまいな制度への批判も見られた。
厚生労働省は、10月1日に「生活保護法による医療扶助運営要領について」(1961年9月30日厚生省社会局長通知、社発第727号)を改正し、医療機関や薬局における制度の説明を受けても、なお先発品の使用を希望する患者に対しては、「福祉事務所において説明する」という文言を追加している。
後発品の使用について生活保護受給者とトラブルが生じそうになったら、こうした機関に早めに相談するのも手だ。
「時間外にタクシーで乗り付け、睡眠薬を要求」
アンケートを実施した10月8日~14日の時点で、10月の制度改正以降に「患者から先発品を要求された」のは4.7%、「薬局から要求(疑義照会)された」のは1.9%、「患者からも薬局からも要求された」のは0.9%と少数だった(図3)。
とはいえ今後、制度改正が浸透していくことで、医療機関でのトラブルが新たに発生する可能性はあるだろう。
図3 生活保護を受給する患者、もしくは生活保護受給者の処方箋を受けた薬局から「先発品を指定してほしい」と要求された経験は、この10月以降ありますか?(n=4177) |
自由記述では、今回の制度改正への意見に加えて、生活保護受給者への医療全般についての意見も寄せられた。
多かったのは、生活保護制度を悪用しようとする一部の問題患者への不満だった。
「無料なのをいいことに、患者が減った時間外の夜間を狙って、病院の救急外来にタクシーで乗り付け、軽症なのに多くの湿布や睡眠薬を要求する人がいる」(30歳代病院勤務医、脳神経外科)などの振る舞いもあるようだ。
一方、「健康を害して本当に働けず、やむを得なく生活保護になっている人も多い。生活保護の問題は十把一絡げに語るべきではない」(50歳代病院勤務医、一般内科)といった声もあった。
以下に、アンケートの自由記述欄に記載された制度改正や生活保護受給者への医療全般についての意見を掲載する。
「生活保護は原則、後発品」という今回の改正について
【賛成】
● 遅きに失した感はありますが、非常に良い政策だと思います。行政の指導・法の規定という錦の御旗があるので、ごねる患者には「自治体の担当者の了承を得てこい」と突っぱねることが可能になりました。(40歳代診療所勤務医、一般内科)
●問題ないです。生活保護受給者に関わらず、抗癌剤や抗凝固薬など生命機微に関わるもの以外は全員、原則後発品でよいと思います。(30歳代病院勤務医、脳神経内科)
●法改正には賛成だが、できればほぼ全ての後発品でオーソライズドジェネリック
(有効成分だけでなく、原薬、添加物、製法などが先発品と同一である後発品)を作ってほしい。それがあれば、かなり強く後発品を指定できる。(70歳代開業医、消化器内科)
【反対】
● 後発品を強制的に使わせることが国の財政上本当に必要であれば、たかだか数パーセントの生活保護受給者に対してではなく、全患者に施行すべき。生活保護受給者に限定する理由が分からない。(50歳代診療所勤務医、産科・婦人科)
●基本的人権の侵害であり、憲法違反の疑いがある。厚労省や財務省の官僚や公務員、政治家こそ最初に後発品限定にすべきであろう。(60歳代開業医、耳鼻咽喉科)
●特定の背景の患者さんに対して、使用できる薬剤を制限することに法的妥当性を与えるというのは、何かしらの権利の侵害にはならないのでしょうか。薬剤の変更などを説明したり、納得されない患者さんの説得に労力を取られる現場のことも考えていただけるとありがたいです。(30歳代病院勤務医、一般内科)
【どちらとも言えない】
●これからも生活保護受給者と持ちつ持たれつの開業医は、希望通り先発品を出して丸く収めていくのだろう。本気でやるなら、先発品を希望する生活保護受給者に対して一部負担金を求めるくらいしないと。(40歳代病院勤務医、消化器内科)
●先発品と後発品の薬価を同じにするだけでいいのに。変なもめ事を誘発するような改正で、あきれている。(50歳代病院勤務医、リハビリテーション科)
●医療費をできる限り抑えるという政府の方針に異論はありませんが、最後の責任を現場に負わせるやり方は承服できません。現場で「先発品を使え」とすごまれたり、危害を加えられかねないリスクを背負わせるのは納得できませんし、そうなるのであれば、先発品を使わざるを得ません。(30歳代診療所勤務医、一般内科)
生活保護受給者への医療全般について
●生活保護受給者が多い地域で診療をしていたことがあるが、彼らは生活保護を特権のように振りかざす。夜間当直の時間帯にタクシーで訪れ、鎮痛薬の処方をせがむ患者に、近くのドラッグストアが遅くまでやっていたので、そこで購入するよう勧めたのだが、「タクシー代も薬代もタダなので病院に来た方がいい」と言われて、反論できなかった記憶が鮮明に残っている。(40歳代病院勤務医、泌尿器科)
●医療費負担がゼロというのは明らかに間違っていて、幾らかは負担してほしいと思っていますが、もし料金の一部を負担させるようになると、ごねて払わない生活保護受給者が出てきて現場が疲弊するでしょう。とても難しい問題です。(40歳代病院勤務医、精神科)
●20人ほどの生活保護受給者を診ているが、9割は無料なのを恥じているようで正直、気の毒に思う。ただ1割は『無料で当然だ』と開き直り、態度も尊大。謙虚になってほしい。(50歳代開業医、一般内科)
●どこまでが最低限の医療なのだろう。年金受給者で治療費を支払えないために高額な注射薬の使用を断念することがあるのに、生活保護受給者にその注射を使うことにはすごく抵抗がある。(40歳代病院勤務医、眼科)
●当院に紹介される生活保護受給者は、既によく分からない病名がたくさん付いて薬価の高い先発品を大量に処方されていることが多い。高い新薬ばかり処方して、生活保護受給者を食い物にして、自分のところだけ儲かればいいと考えている開業医や民間の中小病院を嫌というほど見る。そちらを是正しないと、医療費を抑えることはできないでしょう。(40歳代病院勤務医、脳神経内科)
●以前、生活保護の方を広く受け入れている病院におり、そのわがままな態度や役所との対応に疲弊しました。これがきっかけで開業を決意し、生活保護診療の届け出はしていません。親しい近隣の開業医の先生も同じ考えのようです。(60歳代開業医、一般内科)
●生活保護受給者が受診すると、その後に「医療要否意見書」なるものを書かされるが、全然活用されているように思えない。どの程度の就労が可能か書く欄に、毎回「通常の就労が可能」と記載をしているのに、ずっと生活保護受給者のままである人が多い。というか、就労するようになった人をほぼ見たことがない。「医療要否意見書」は我々の書類記載の負担にもなっているので、活用されていないとモチベーションが下がる。(40歳代病院勤務医、泌尿器科)
調査概要 日経メディカルOnline医師会員を対象にウェブアンケートを実施。期間は2018年10月8日~14日で、回答者数は4177人。内訳は、病院勤務医69.8%、開業医15.2%、診療所勤務医13.0%など。集計対象者の内訳は、20歳代2.1%、30歳代14.7%、40歳代25.7%、50歳代35.6%、60歳代18.6%、70歳代2.8%、80歳以上0.6%など。 |
<掲載元>
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