認知症であっても本人の意思確認は必須です|認知症の人の意思決定支援ガイドラインまとまる

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聞き手:小板橋律子=日経メディカル

 

厚生労働省による「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」が、このほどまとまった。これは、認知症を対象にその意思を尊重するためのプロセスを示した初のガイドラインで、2017年度老人保健事業推進費等補助金事業で作成されたもの。

厚生労働省の建物の写真。

同事業の実施責任者で、ガイドラインを取りまとめた中京大学法科大学院教授の稲葉一人氏に、その意義や影響を聞いた。


いなば かずと氏の写真。

日本は、障害者の権利や意思、選好を尊重することを定めた「障害者の権利に関する条約」を2014年に批准しています。すなわち、認知症であっても本人の自己決定を尊重すること、意思決定を支援すべきことを国が国民に求めているのです。

 

とはいえ、どのように意思決定を支援すればいいかを示したガイドラインはこれまでありませんでした。そのため、厚生労働省の事業として、認知症の人の意思決定支援の方法、また法的・倫理的な観点について検討し、その成果として今回のガイドラインをまとめました。

 

ガイドラインの内容は、英国の意思決定能力法(The Mental Capacity Act 2005)を参考にしています。

 

医療や介護の現場では、認知症患者本人の意思を確認するという考えはこれまであまり一般的ではなかったでしょう。また、生物学的(医学的)に善かれと思うことの提供ばかりが注目されていたと思います。

 

しかし、本人の意思に沿わなければ、医学的に善かれと思われる介入であっても、本人のQOLは下がります。「本人の意思に沿うことが本人のQOLを高める」との認識を新たに持つことが重要です。

 

今回のガイドラインでは、本人のQOLを高めるための基本的な考え方として、早期から多職種で介入して本人の意思を確認し、その意思に沿った対応を行う重要性を示しています。

 

もちろん、早期からの介入ができず、本人の意思を確認できないケースもあるはずで、現場の困った状況への答えになっていない場合もあるでしょう。

 

今後、現場のニーズに沿った改訂は必要と考えています。が、まずは、本人の意思を尊重するとはどのようなことなのか、立ち止まって考えるきっかけとしてほしいと考えています。

 

我々は言葉だけでなく、表情や動作を介して意思を表明しています。これは認知症の人でも同じです。その表情や動作が拒否のサインなのか、それとも反射的に動いただけなのか、毎回、考えながら関わること、それが本人の意思を尊重することにつながります。

 

例えば、点滴を抜管してしまう認知症患者はこれまでは困った患者とされ、拘束した上で点滴を継続していくのが当然とされていたかもしれません。

 

しかしこれからは、たまたま抜けてしまっただけなのか、それとも本人が「抜いた」のか考え、本人が抜いたのであれば、嫌がっているのか否かを含め、その理由を考え、嫌がっていると判断した場合は、嫌がらないやり方を検討したり、中止も選択肢とすべきでしょう。

 

また、食事介助時に患者が顔をしかめても、これまでは口から栄養を取ることの医学的なメリットにばかり注目し、無理に食べさせることもあったでしょう。

 

しかし、これからは、患者が顔をしかめたら、「食べたくない」という意思表示なのか、が痛いなど苦痛の原因が他にないかなど、その理由を考えることが求められるのです。

 

ガイドラインに沿えば家族とのトラブルは減る

今回のガイドラインは、本人の意思を最大限尊重することを求めており、本人の意思の尊重が、必ずしも生物学的な最善と合致しないという場面も出てくるでしょう。

 

その結果、本人が亡くなられ、家族が納得せずに訴訟になったらどうなるのか、懸念される方もいることでしょう。

 

私は、ガイドラインに沿って本人の意思を確認することと、家族を支援者として巻き込むことで、家族とのトラブルは少なくなると考えます。

 

今回のガイドラインが求める、本人の意思を最大限尊重することは倫理的・法的なルールに沿っています。

 

ですから、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」と同様に、医療現場を守ることになると思います(関連記事「終末期の治療差し控え・中止に警察は介入しない」

 

ただ、家族については、残念ですが、時に患者の意思を阻害することもありますし、本人の意思を尊重した結果、転倒などが起こった場合には、家族から苦情が出るといったトラブルが想定されます。

 

今回のガイドラインの策定の過程において、家族の位置付けには多くの議論がありました。しかし最終的には、「家族も本人の意思決定支援者である」と記載することにし、同時に家族への支援も必要としました。

 

つまり、本ガイドラインは、本人の意思を尊重するとともに、家族も本人の意思決定の支援者として巻き込むことが必要としています。となれば、家族にもしっかりと説明すべきことは言うまでもありません。

 

このような支援により、トラブルも訴訟も、そもそも起こらなくなると考えています。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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