無痛分娩と和痛分娩 |いまさら聞けない!ナースの常識【23】
毎日の業務の中で触れているけど、『いまさら聞けない』ことってありませんか?
知っているつもりで実は説明できない基礎知識や、ちょっと気になるけど調べるほどでもないな、なんてこと。
そんな看護師の素朴な疑問を、元看護師ライターがこっそり教えます。
Vol.23 無痛分娩と和痛分娩
ここ数年、無痛分娩や和痛分娩など新しいスタイルを取り入れたお産が流行の兆しをみせている。こういった新しいスタイルは、産科クリニックや個人病院などからスタートし、広がりを見せている。
侮ってはいけない出産時の痛み
分娩に伴う痛みを和らげることによって、分娩に対する恐怖心や痛みなどのストレスを軽減させ、分娩の遅延を予防したり、母体自身がパニックになったりしないように、と考えられたのが無痛分娩や和痛分娩といった分娩方法だ。
まず、超基本的なこととして、出産に伴う痛みについておさらいしてみる。
出産する時の痛みは、主に子宮の収縮や産道が広がる時の刺激によるもの。臨床的にみると、子宮が収縮と弛緩をくり返すことによっておよそ10分間隔の規則的な陣痛が起こり、ほぼ同様のタイミングで子宮頸管が徐々に軟化し開大していく。
この頃から、母体は強い痛みを感じる。この収縮と弛緩は、大きく広がった子宮壁が、再び元のサイズまで戻るための動きである。子宮壁はおよそ10か月かけて非妊娠時の7cm程度から肺や胃を押し上げるほどまで大きく広がった状態から、胎児と胎盤を押し出して元に戻る。そのため、痛みは甚大で、ときには失神することもあるほどだ。
無痛分娩と和痛分娩の違い
実は、無痛分娩と和痛分娩にはガイドラインなどの明確な取り決めがない。どちらも分娩時の痛みを和らげて、恐怖や痛みといったストレスを軽減することが目的であるため、日本でもほぼ同義語として使われていることが多い。
ただし、実際にどのような方法で痛みを和らげているのかは、医療機関によって違いがある。
例えば、麻酔ガスや点滴による麻酔薬投与で痛みをやわらげることを「和痛分娩」と呼ぶところもあれば、陣痛開始前後から分娩までの間、ラマーズ法やソフロロジー法などの呼吸法や、リラクゼーション効果のある陣痛室の構造などの全体を指して「和痛分娩」と呼ぶところもある。また、麻酔ガスや、点滴による麻酔薬投与で痛みをやわらげることを「和痛分娩」と呼ぶところもある。
いずれにしても、その名称からは痛みが全くなくなるようなイメージが沸くが、実際は全く痛みを感じないわけではなく、あくまで「痛みを和らげるもの」である。以下、詳しく説明していこう。
『硬膜外麻酔』による無痛分娩
無痛分娩は英語ではobstetrical analgesiaと表記され、『産科麻酔』と同義でもある。中でも、麻酔科が主体となる『硬膜外麻酔』を行うことが増えてきている。
硬膜外麻酔とは外科の開腹手術などでも用いられる麻酔法。大部分の出産で何らかの痛み止めの処置が行われている欧米では、最も一般的な方法だ。
この方法では、まず背中から硬膜外に細いチューブを挿入する。そこから母体の様子に合わせて、麻酔薬の投与を少量から開始する。これにより、腰部から足先までの感覚を鈍麻させる。
このとき、麻酔薬は「痛み刺激を脳に伝える神経」に作用するため、足先を動かすことは出来るし、子宮が定期的に収縮する感覚や胎児が降りてくる感覚も残るため、胎児の回旋に合わせて母体がいきむこともできる。
また、この硬膜外麻酔は、全身麻酔とは違うため、帝王切開が腰椎麻酔で行われるのと同様、麻酔薬による胎児への影響も少ない。母体側も意識があるため、分娩後すぐに胎児と対面することもできる。万が一、分娩経過の途中で緊急帝王切開が必要となった場合でも、通常の分娩よりも行いやすいという利点もある。
ただし、まれに麻酔薬投与あるいは硬膜外チューブ挿入手技における問題(有害事象、副作用)が起こる場合もある。
図:硬膜外麻酔によって起こる可能性のある問題点
そのため、この処置は基本的に産科医ではなく麻酔科医が行い、産科医に加え、麻酔科医の予約が別途必要なことが多いようだ。
今や、出産一つとっても自分なりのスタイルが選べる時代。無痛分娩あるいは和痛分娩という言葉に惹かれて出産場所を選ぶ妊産婦も増えてきている。しかし日本では、未だに普通分娩や帝王切開ほど定着しているとは言えず、定義など曖昧な部分も残っている。
自分の勤務先で行っている方法は具体的に何なのか、それが目の前の妊産婦の希望と合っているのか。妊産婦にとっては大事なライフイベントである出産に後悔がないよう、しっかりアセスメントする必要があるだろう。
【岡部美由紀】