EPA看護師との協働。「百聞は“一験”に如かず」

私が勤務している病院では、2010年よりEPA外国人看護師の受け入れを開始し、2018年4月現在、8名のEPA外国人看護師が働いています。

 

この連載では、私がEPA外国人看護師と協働して感じたことやそのエピソードをお伝えし、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

【文:小林ゆう(看護師)】

 

外国人看護師と共に働く現場から

Vol.7 EPA看護師との協働「百聞は“一験”に如かず」

入浴をすることの意味がわからず、腕をくんで悩むホセ

 

 

「入浴」に対する概念の違い

EPA外国人看護師(看護師候補生含む)は、母国で看護師としての経験をしてから来日します。

母国で経験する看護技術は、日本の方式とは文化的差異があるものです。

 

特に、入浴や洗髪・口腔ケアなどの清潔ケアに関して、半数近くの外国人看護師が未経験のまま来日します。

外国人看護師の中には、インドネシア出身の方も多くいらっしゃいますが、特にフィリピンでは、清潔ケアは家族や看護助手が行うため、看護師の仕事であるという認識はないようです。

(参考:公社 国際厚生事業団 :経済連携協定(EPA)に基づく看護師の指導者ガイドブック

 

私たちが新人看護師に指導するとき、基本的な看護技術に関しては「学生時代に学んでいる」ことが前提にあるため、現場でのやり方を教えるのが主な指導です。

 

しかし、外国人看護師にはその前提がありません。

たとえば入浴介助について、フィリピンの看護師の8割以上が母国で経験していません。

 

そもそも「お風呂に入る」という習慣がなく、基本的にはシャワーで済ませるため「入浴」という概念がないのです。

 

 

百聞は“一験”に如かず。「ホセ」の入浴体験

外国人看護師は、看護師候補生時代には看護助手として勤務します。

自分が知らない「入浴」を介助する体験は、とても貴重な機会です。

 

私の病院で働くフィリピン出身のホセは、当然ながら「どうして患者さんが浴槽のお湯に入りたがるのかわからない、シャワーでいいじゃないか」と言います。

 

看護師みんなで「説明するより体感してもらったほうが早い」と考え…。

 

寒くなってきたある日、ホセは同僚の男性看護師に連れられて、近所の銭湯へ行くことになりました。

 

EPA看護師が日本の銭湯で入浴の大切さを知る

「百聞は一見に如かず」ならぬ「百聞は“一験”に如かず」です。

自分で体験したホセは、それ以降「シャワーでいいじゃないか」とは言わなくなりました。

 

肌寒い日に湯船につかる気持ち良さ、お湯につかったときに疲れが取れるような解放感…。

これらを体験してまた一つ、日本文化を学んだホセなのでした。

 

 

新人指導とは似て非なるもの

外国人看護師にさまざまな指導を行うことは、新人看護師に指導することと似ています。

でも、文化から教えなければいけないという意味ではまったく違う側面を持ち合わせているものです。

 

就業して初めて機械浴を見たホセの、ポカンと口を開けていた姿が印象的でした。

リフトで患者さんが運ばれ、ボタン一つで浴槽につかれるシステムには非常に驚いていました。

 

また、口腔ケアについて指導すると、思いもよらない問いが飛び出します。

入れ歯の洗浄や歯磨きの介助など、「なぜこれも看護師がやる?」とマリアは言いました。

 

EPA看護師へ口腔ケアを指導する日本人看護師

 

マリアの母国フィリピンではそれは家族の仕事、もしくは看護助手の仕事で、看護師の仕事ではないというのです。

 

「なぜ口腔ケアが必要なのか」「なぜ看護師が行うのか」も含めて説ことが必要です。

 

 

日本特有の看護技術ーエンゼルケア

もっとも日本の文化が顕著な看護技術、それは何でしょう?

それはエンゼルケアです。

 

昔よりは少なくなりましたが、いまだに残る「逆さごと」(左前や縦結び等)など、日本人にしかわからないことが元となっているため、こればかりは覚えてもらうしかありません。

 

エンゼルケアに関しては指導が最も難しい技術でもあるのです。

しかも、入浴のように体験してもらうこともできません。

 

外国人看護師は、カトリックやイスラム教徒なども多く、日本人に比べ信仰心が強い方が多くいます。

そういった宗教的な違いは「文化の違い」では片づけられない問題でもあるのです。

 

マリアとホセによると、フィリピンでは死亡退院時は専門業者(日本でいう葬儀社)が病院に来てご遺体を回収するため、看護師がエンゼルケアを行うこと自体、まったく馴染みがないと言います。

いまだに土葬が残る地域もあり、葬儀の流れも日本とはまったく異なります。

 

カトリックの方々に仏教の作法を押しつけるわけにはいきません。

そのため、私の病院では死亡退院時は、宗教色の強い逆さごとなどは行わず、あくまでも「退院の準備」としてその支度を行い、お見送りには頭を下げるだけでいいということになっています。

 

マリアとホセもそういった様式でお見送りすることに納得してくれています。

 

 

“体験”は一番の異文化理解

このように外国人看護師への指導は、新人指導と似ている部分も多々あるのですが、それだけではカバーできないところもあります。

 

それはやはり文化の違いや宗教的な違いから発生しているので、指導の際にも気を遣うところです。

お互いを尊重し合わないと協働できない部分であり、指導する側も十分な理解が必要になります。
 

外国人看護師と円滑に協働するためには、こういった文化の違いを知っておくこと、その違いに理解を示すことが必要不可欠となります。

 

自国のやり方を押し付けるだけではなく、“体験”の機会があることで、納得感を感じてもらうことも大切な方法かもしれません。

 

(参考)

インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて(厚生労働省)

公益社団法人 国際厚生事業団

【小林 ゆう】

関東在住。総合病院で勤務する傍ら、看護師ライターとして執筆活動をしている。子育てに奮闘しながらも趣味のライブやダイビングに熱を注ぐ40代。

 

【イラスト】明(みん)

看護師・漫画家。沖縄県出身。大学卒業後、看護師の仕事の傍らマンガを描き始める。異世界の医療をファンタジックに描いたマンガ『LICHT-リヒト』1~3巻(小学館クリエイティブ)が好評発売中。趣味は合気道。

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