EPA外国人看護師と日本人看護師。時間にルーズなのはどっち?

私が勤務している病院では、2010年よりEPA外国人看護師の受け入れを開始し、2018年5月現在、8名のEPA外国人看護師が働いています。

 

この連載では、私がEPA外国人看護師と協働して感じたことやそのエピソードをお伝えし、読者の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

【文:小林ゆう(看護師)】

 

外国人看護師と共に働く現場から

Vol.8 時間にルーズなのはどっち?

時間を守るがなかなかできないEPA外国人看護師のホセに対して、時計を指差しながら焦った素振りを見せる日本人看護師のイラスト

 

 

時間に対する考え方の違い

私は急性期の病棟で、マリアとホセ、2人のフィリピン人看護師と共に仕事をしています。

協働する中で「時間」に対する考え方の違いを痛感します。

 

検査の時間になっても患者さんを検査室に連れて行かず、検査室から催促の電話が来ることもしばしば。

 

すっかり忘れていることもあり、指摘すると「少しくらい遅れても大丈夫」というような反応を示すことも。

 

5分前行動などの概念がない彼らに、時間を厳守することを教えることはとても大変です。

そのため、EPA外国人看護師のフォローを担う看護師は、自分の業務の中で、時間通りに決められたことができているか、チェックする必要があります。

 

しかし、マリアとホセは「日本人って変!」と言います。

 

与薬や検査の時間に細かいので「時間にうるさい」という意味なのかと思っていたのですが…。

そうではなかったようです。

 

 

“前残業”の慣習

私が働く急性期病棟では、申し送りの前に必要な情報収集を済ませ、その日の検査や手術前後などの準備をするという風潮があります。

 

そのためには、始業時間の30~40分前にはナースステーションにいないと間に合いません。

誰かにやれと言われたわけではなく、昔ながらの習慣が伝統のように引き継がれています。

 

もちろん中には、いつも申し送り時間ギリギリに来て、慌ただしく情報収集している人もいますが…。

 

 

職場の同僚からクレーム発生

始業ぎりぎりにくるEPA外国人看護師のマリアに対して、前残業ができないか師長と話し合いを行うマリアのイラスト

マリアはいつも始業時間ギリギリに出勤していました。

日勤の場合、いざ受け持ち患者さんへのケアが始まると、情報が取り切れていなかったり、午前中の検査や手術前の準備が間に合わなかったり、ということが続いていました。

 

就業時間に間に合うように出勤しているだけでは、不慣れなことが多いため、仕事が始まっても追いつけないのです。

そのためいつも、フォロー担当の看護師を中心に周りが手を貸すことになっていました。

 

しかしこれには、早く出勤している他の看護師からクレームが…。

 

クレームを受けて、主任から「あと30分でいいから早く来られない?」とマリアに伝えられました。

 

伝える前には主任もさんざん悩んでいました。

私の病院では、早く出勤しても手当は出ないからです。

それなのに早く出勤しろというのはいかがなものか、と。

 

そこで師長も交えて話し合い、病棟内のチームワークのためにも今回ばかりは仕方がない、と主任からマリアに伝えられたのです。

 

マリアには「周囲に迷惑がかからなくなるまで」という条件付きで、今までより30分早めに出勤することを納得してもらいました。

 

 

「時間になっても帰れない」と涙目になるマリア

記録が終わらないと涙目で記録をつけるマリアのイラスト

マリアが早めの出勤に慣れたころ、救急搬送での入院が相次ぎ、その対応や予定外の手術・検査など盛りだくさんの日が続くことがありました。

 

もうほぼ毎日、午後3時ごろから「今日も帰れないね…」と皆が諦めムードです。

 

この時はマリアも、いつもより一部屋多く受け持ち、頑張りました。

 

しかし終業時間が近づくにつれ、ソワソワするマリアの姿を見かけるようになりました。

 

心配になり、声をかけると、

「キョウハ イソガシクテ キロクガオワラナイ」と涙目になっています。

 

「今日は忙しかったし仕方がないよね、みんな帰れないよ」と返したのですが…。

 

私たちにすれば、終業時間になっても山のような記録が終わらないことなど日常茶飯事です。

 

でも、とマリアは言います。

「なぜ、朝は早く来いというのに、帰りは時間になってもみんな帰らないのか」と。

 

う―む…そう言われましても…(困った)。

 

自分の仕事が終わらないのに帰宅する人はまず、いません。

 

普段はあまり弱音を吐かないマリアですが、この日ばかりは苦手な記録が山のように残っていることに心細さを感じたのでしょう。

 

だからといって、マリア以外の人も自分の仕事が終わっているわけではないのです。

マリア1人を残してみんなが帰ってしまったわけではないし、こういう日は皆が忙しいのです。

 

しかしフィリピンでは、忙しくても終業時間になったら次の勤務者に引き継いで帰れるのだそうです。

 

「ここまでやったから、あとはよろしく」と。

もしくは「明日またやればいい」と。

 

羨ましいと思いつつも、夜勤帯に、昼間の仕事を残されたら嫌だな…と思ってしまう私もいます。

それに、自分がやるべきことを終わらせないことには帰れないと思うのですが、単なる思い込みなのでしょうか。

 

私がフィリピンのシステムを理解できないのと同様、マリアが日本の病院の現状を理解できないのも仕方がないことなのでしょう。

 

母国でこのような経験をしていないマリアにとって、終業時間になっても帰れない日本での日常は不思議でならないそうです。

 

夕方の残業に関してはきちんと手当が支払われるため、「残業代が出るから頑張ろう!」と言うしかありません。

 

できることなら毎日、終業時間になったら、さっさと帰りたいものです。

マリアにそのことを伝えると「日本はおかしいねー」と苦笑していました。

 

 

日本人は残業が好き?

私たち日本人看護師は残業が好きなのでしょうか。

 

スムーズに仕事を始めるための前残業や、仕事が終わらず残業になることなど、「就業時間が守れない」ことがもう当たり前になりすぎて、そこに疑問を感じることはなくなっていました。

 

しかし業務内の決められた時間(与薬や検査など)に遅れると、目くじらを立てます。

 

マリアやホセは言います。

「時間を守らないのは日本人も同じよ」と。

 

私たちは「それが当たり前」の世界で過ごしているため、感覚が麻痺している部分が多々あると思うのです。

マリアやホセからしたら、「日本の変な伝統」としか思えないことでも。

 

こういった国外からの指摘は、悪しき習慣を見直していく良い機会なのかもしれません。

 


【ライター】小林 ゆう(看護師)

関東在住。総合病院で勤務する傍ら、看護師ライターとして執筆活動をしている。子育てに奮闘しながらも趣味のライブやダイビングに熱を注ぐ40代。

 

【イラスト】明(みん)

看護師・漫画家。沖縄県出身。大学卒業後、看護師の仕事の傍らマンガを描き始める。異世界の医療をファンタジックに描いたマンガ『LICHT-リヒト』1~3巻(小学館クリエイティブ)が好評発売中。趣味は合気道。

 

 

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