人工透析のしくみ |いまさら聞けない!ナースの常識【28】

毎日の業務の中で触れているけど、『いまさら聞けない』ことってありませんか?

知ってるつもりで実は説明できない基礎知識や、ちょっと気になるけど調べるほどでもないな、なんてこと。

そんな看護師の素朴な疑問を、元看護師ライターがこっそり教えます。

 


 

Vol.28 人工透析のしくみ

近年の日本では人工透析を導入する患者が増えている。

今後は、腎泌尿器科など、透析を専門に扱わない診療科においても、人工透析を実施している患者と接する機会は増えると予想される。

 

そこで今回は、「人工透析の基礎知識」についておさらいをした上で、人工透析の主な方法である、「血液透析」と「腹膜透析」について、しくみや使用患者のケアのポイントなどをみていきたいと思う。

 

【目次】

透析患者は増加の一途

人工透析の基礎知識をおさらい

イラストでわかる!血液透析のしくみ

イラストでわかる!腹膜透析のしくみ

ここだけは押さえたい!透析患者ケアの3つのポイント

 

透析患者は増加の一途

日本透析医学会によると、2012年では、30万9,946人の患者が透析を受けており、1990年以来、増加の一途を辿っている。

 

資料:慢性透析患者数の推移

(出展:一般社団法人日本透析医学会)

 

透析患者の内訳としては、かつては大多数を占めていた慢性糸球体腎炎患者は減少傾向にあるが、その一方で、糖尿病による糖尿病性腎症の患者数が増えている。

 

ちなみに、糖尿病を発症すると、およそ10年で糖尿病性腎症となり、人工透析が必要となるケースが多いといわれている。

 

日本のような高齢化社会では、今後もますます糖尿病性腎症の患者は増えるであろう。

 

人工透析の基礎知識をおさらい

本題に入る前に、人工透析の知識をさらっとおさらいしよう。

 

人工透析は、腎不全などで衰退した腎機能を補うために行われる。腎臓の機能は大きく3つある。

 

(1)老廃物の排出 

(2)身体の水分量や様々な成分量の調整

(3)赤血球および血圧調整ホルモンの生成

 

これらの機能が低下すると、十分な濾過機能が働かなくなり、身体中に老廃物が溜まり、尿毒症になる。

尿毒素を取り除くために、透析が必要となってくる。

 

血液透析のしくみ

まず、血液透析は、どのような順序で行われるかを押さえよう。

 

【血液透析の実際図】

血液透析とは、ダイアライザーと呼ばれる機械に血液を通して、濾過をする方法である。

 

 

【血液透析の順序】

では、血液はどうやって濾過されるのかをみてみよう。

 

(1)患者の前腕などに、動脈と静脈をつなぎ合わせた内シャントを作る

 

=ここがポイント=

●どうして内シャントをつくるのか?

人工透析では、体内の老廃物を出すために、1分間に200mL以上の血液を体外へ流す必要がある。

動脈と静脈をつなぎ合わせることで、静脈の中に勢いの良い動脈血が流れ込み、透析に必要な血液量を確保できる。

 

・内シャントを作成してから実際に透析で使用できるようになるまで2週間程度必要

・内シャントは血液透析患者にとって命綱であり、日常生活でも注意点が色々ある

 

(2)静脈から血液を体外へ出し、透析回路から戻った血液を静脈から体内へ戻す

 

(3)汚れた血液を体外へ排出させ、人工腎臓(ダイアライザー)を通過させることで、血中の老廃物や余分な水分を除去。キレイになった血液を体内へ戻す

 

=ここがポイント=

●ダイアライザーの中には無数の細いストロー状の管があり、血液はこの中を通り、外側に透析液を流すことで血中の老廃物などを濾過させることができる

●合併症として、心不全、動脈硬化、栄養障害などが起こりやすい

 

【血液透析のメリット】

●老廃物や余分な水分を一定時間で濾過できる

→腹膜透析よりも、確実に老廃物などを排出することができる

 

【血液透析のデメリット】

●時間的拘束が長くなる

腎不全の状態にもよるが、通常は2~3回/週のスパンで、1回あたり4~5時間かけて行われるため、社会生活に大きな影響を及ぼす。

 

腹膜透析のしくみ

腹膜透析とは、自分自身の腹膜を透析膜として利用する透析療法。主に在宅で行われる。

実際に、どのようにして行われるのだろうか。血液透析と同様に、こちらもしっかりおさえたい。

 

【腹膜透析の順序】

患者の腹部にカテーテルと呼ばれるチューブを留置し、そこから透析液を注入。一定時間おいてから排液する

 

 

 

=ここがポイント=

●患者の血液中の老廃物などは、腹膜の血管を通じて透析液に滲み出してくる

●透析液の注入・排液は落差を利用して行われ、注入におよそ10分、排液におよそ15分程度かかる

腹腔内に留置したチューブからの透析を行うが、1日かけて3~5回透析液を入れ替える方法(CAPD)と、専用の機械を使って夜間に自動的に透析液の入れ替えを行うため睡眠中に完結できる方法(APD)がある

●合併症として、被嚢性腹膜硬化症がある

●血液透析と比較し、心負荷は小さく、残腎機能は比較的温存しやすい

 

【腹膜透析のメリット】

●CAPDもAPDも基本的には自宅で行うことができる

 

【腹膜透析のデメリット】

●血液透析に比べると、体液量の管理があまり厳格ではない

●自己管理能力が要求される

 

●腹膜透析の合併症である被嚢性腹膜硬化症は、長期間の腹膜透析や繰り返す腹膜炎により腸管表面の変性や腸閉塞を来し、場合によっては命に関わることもある。およそ8年以内なら発症率が低いとされるが、日ごろの自己管理も重要となる疾患である。腹膜透析は、腎移植を受けるまでのつなぎの療法ともいえるだろう。

 

ここだけは押さえたい!透析患者ケアの3つのポイント

(1)内シャントは血液透析患者にとって命綱であることを意識し、その扱いには注意する

 

(2)週に15時間ほど拘束される苦痛や食事の制限・安静度の制限があることなどを考慮し、その患者にとって最適な方法は何かを常に考えよう

 

(3)患者の混乱にきちんと対応しよう

 

例えば、腎不全の症状が出る以前は、低カロリー高たんぱく食であった入院食が、腎不全を発症すると、たんぱく質は制限され、糖質脂質を推奨される食事メニューに変わる。

 

さらに、発症前までは、毎日運動するよう言われていたのに、たんぱく尿が出ると安静にするよう言われる。患者は混乱を来す可能性が高くなるだろう。

 

看護師として透析の必要な患者と接する際には、上記3点に注意したい。

 

【岡部美由紀】

 

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