南インドの医療現場に行ってきた!【とある新人看護師の体験レポート】
先日お伝えした、タンザニアで活躍する助産師のマガフ範子さんや、シンガポールで准看護師として働くやぁぎぃさんのように、近年は、海外を舞台に活躍するナースが増えてきています。
とはいえ、海外の医療機関で働くのは、実際にはなかなか難しいもの。
でも、現地の医療スタッフの話を聞いたり、患者さんと触れ合うなど、日本の医療現場や学校ではできない体験をしてみたい…と思う方もいるのではないでしょうか。
そんな気持ちを叶えてくれる”短期留学”に参加してきた方にお話を伺ってきました。
お話を伺ったのは、明松真喜(かがり・まき)さん。現在は、がん専門病院で勤務する新人ナースです。
明松さんが参加したのは、南インドの地域保健医療を体験する旅。JOCSが主催する『スタディツアー』。
大学4年の夏休みに、8泊10日の日程で参加されたとのこと。
参加を決めたきっかけは何だったのでしょうか。
「学生のうちに、海外の医療現場を見ておきたかったんです。働き始めたら、なかなか長期の滞在は難しいとう思いもあって。4年生の夏に、就職活動と国家試験の勉強の合間に参加しました」
8泊10日の日程のうち、6日間は、南インドにある『クリスチャンフェローシップ病院』(以下CFH)の病棟見学を見学します。CFHは、300床以上を構える地域の大きな病院で、産婦人科をはじめ、外科、内科、小児科などがあります。
自分の目で初めてみる海外の医療現場は、明松さんにとって驚きの連続だったと言います。
「まず驚いたのは、入院病棟の病室。約10個のベッドが、無造作に並んでいていました」
インドの病室は、日本の病院のように個別化されていません。また、食事介助などもすべて家族の仕事。
患者さんのベッドの周りには、常に2~3人の家族が付き添っています。
「個別化されてない分、患者さんや患者さんの家族同士の交流が多くて、まるで病室全体が1つの家族のような暖かい雰囲気でした」
スタディーツアーの参加者と、産婦人科病棟のみなさん
次に驚いたのが、インドの医療現場の器具や物品などの不足状況。
写真は「内視鏡室」。必要最低限の器具だけが並んでいます。
「日本だと、あらゆる物品はあって当たり前という感覚ですが、逆に南インドでは、なくて当たり前なんです。日本の環境は恵まれている・・・ということは、南インドに来なければ実感を持てなかったと思います」
そんな状況の中でも嘆くことなく、患者さんに対して明るく、真剣に看護をしているCFHのナースの皆さんの姿に、明松さんは強い感銘を受けたそうです。
南インドの看護学生の情熱に触れて
当時学生だった明松さんにとって、もっとも刺激的だったのが、CFHで働いている看護学生との交流でした。
CFHの看護学生は、実習ではなく、実際に病棟に勤務しながら看護を学んでいきます。バイタルサインのチェックなど、先輩看護師の指示にしたがって、機敏に働いている姿は、今も明松さんの目に焼き付いているといいます。
「CFHの看護学生のみんなは、1人1人が『看護師になりたい!』という強い思いを持っていました。それをきちんと言葉にして周囲に伝えていることも、その言葉に従って、時間を惜しんで勉強をしたり、病院での仕事に全力で励んでいることも、同じ看護学生として刺激を受けました」
また、CFH付属の看護学校の見学をしていた際にも、刺激を受けたという明松さん。
「授業中は、学生のみんなの集中力がすごくて、先生が質問をすれば、全員が手を挙げているほどに白熱していました」
「その時に偶然、以前行われていたテストが返却されたのですが、私の隣にいた学生さんが、テストの結果に悔し涙を流していました。看護師になりたい強い思いがあるから、目の前の1つ1つの結果に、真剣なんだと感じました」
当時、就職活動と国家試験を控えていた明松さんにとって、自身の看護師としての将来を考える上でも、貴重な体験だったといいます。
インドで触れた「地域医療」の1つの理想形
CHFのある南インド・タミルナドゥ州オダンチャトラムでは、インドが独立する1947年以前は、病院などの施設はなく、治療として祈祷や呪術が行われていました。
独立後も、しばらくオダンチャトラムに診療所はありませんでしたが、1955年にインド人のクリスチャン医療チームにより、「自分たちの健康は、自分たちで守る」をモットーに創立されました。
創立当初は、人々のなかには診療所という治療の概念がなく、なかなか診療所に来てもらえませんでしたが、村民の帝王切開を成功させたことから、徐々に「診療所」や「医療」というものが村民に認知されるようになりました。
村にたった一つの診療所は、現在ではスタッフ300人以上、1日の外来者数が1,500人以上の規模の総合病院となり、村民から絶大な信頼を集めています。
他にも、信頼の理由は、徹底的に村の人々の生活に寄り添った運営がされていることにありました。
村の人に何かあればすぐに医師が駆けつけたり、村の外に働きに出ている人の帰宅時間である17時~20時の間の診療にも対応しています。診療所の設備では治すことのできない症例については、CFHのような、都市部の病院への紹介もすぐに行ってくれます。
元より、地域医療や在宅医療に関心のあった明松さんは、そのホスピタリティの高さに驚かされたそうです。
「日本の地域医療よりも個別性が高く、多くの人に行き届いている様は、1つの地域医療のあるべき姿だと感じました。これを同じように日本で実現することは難しいですが、CFHの人々の取り組みや、診療所の医師の姿勢は、見習いたいと思いました」
立場を越えた、医療者としての交流
明松さんが参加した短期留学には、医師や休職中の看護師、夏休みを利用して参加した理学療法士の方など、様々な人が集まっていました。
「それぞれ立場は違うので、もし病棟で出会っていたら、『医師と看護師』の関係だったかもしれません。だけど、南インドで、同じ体験を共有したことで、医療について同じ目線でディスカッションをすることができました。立場を超えた医療仲間に出会えたことも、短期留学に参加してよかった!と思える出来事の1つでした」
短期留学を経て、現在の看護師としての目標
南インドでの刺激的な日々を終えて、日本に戻った明松さん。
その後は、就職活動、国家試験を経て、晴れて看護師としての道を歩き始めました。
明松さんが選んだのは、がん専門病院。
将来、緩和ケアに携わりたい思いから、様々ながんの症例を経験するために選択した進路です。
現在は新人ナースとして、1人前を目指し、多忙な日々を送っているそう。
「まだ今は、1つ1つの業務をこなすため、覚えることが多く、目の前のことに必死です。忙しいとつい目の前のことにとらわれて、将来の目標を忘れてしまうこともあります。そんな時に、CFHで出会った、看護師や看護学生のみんなの情熱を思い出して、自分を奮い立たせています」
最後に、明松さん。また南インドに行きたいですか?
「はい! CFHのみんなにも会いたいですし、学生のときは、CFHの病棟で何が行われているかわからなかった部分も、病棟勤務を経験した今ならわかるような気がするんです。物品の少ないなかで工夫をしていることも、もっとはっきりとわかるような気もします。ぜひ、もう一度行きたいですね!」
■取材協力:公益社団法人日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)
明松さんが参加した「スタディーツアー」を企画しているJOCSでは、インドまたはバングラデシュを訪れる度を毎年企画しています。ご興味のある方は、JOCSまで是非お問い合わせください。
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