N95マスク装着だけでは空気感染は防げない|院内感染対策の新常識

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

医療機関で使用されるマスクには、サージカルマスクとN95マスクがある。サージカルマスクは、飛沫の吸い込みや口腔内細菌の放出を予防するためのもの。一方のN95マスクは、結核水痘麻疹のように空気感染する疾患にかかった患者の病室に入室する際などに医療者が装着するマスク。

 

空気感染を防ぐには、N95マスクをフィットテストの上で使用する

 

ただし、N95マスクを単に装着するだけでは十分に感染を防げない。使用前に各自でフィットするマスクを探し当てる必要がある。具体的には、マスク装着状態でフードをかぶり、サッカリン入りのネブライザーをフード内に噴射して甘みを舌に感じるかを確認する「フィットテスト」や、空気を吐き出してマスク内圧力を上昇させ、マスクの周囲から空気が漏れていないかを調べる「使用者シールチェック」を行うことがCDCのガイドラインで推奨されており、必須だ。

(満武 里奈=日経メディカル)

 

浜松医療センターの矢野氏によると、結や水痘、麻疹の患者にN95マスクを装着させている様子をしばしば見かけるという。だが、N95マスクは空気中に浮遊する病原体を吸い込まないように設計されているものであって、感染者が病原体を鼻や口から空気中に飛散させないようにする設計はされていない。患者からの飛沫核を防ぐためには、サージカルマスクを装着させるのが正解だ。

 

また、サージカルマスク、N95マスクともに、濡れてしまうとフィルターが水分で詰まり、その効果を発揮しなくなるので注意が必要だ。サージカルマスクを2重装着するのもNG。「空気抵抗が増し、マスク周囲から空気が漏れ込むという結果になる」(矢野氏)。

 

手荒れすると菌が繁殖する

マスクと同じく標準予防策の1つである手洗い。新常識は手荒れによる菌繁殖に注意することだ。「石鹸と流水で手洗いした後に手指をアルコール消毒している人がいる。これでは手荒れを起こして菌が繁殖し、かえって手指が不衛生になってしまう」と矢野氏は指摘する。

 

2002年にCDCの「医療機関における手指衛生のためのガイドライン」が公開されたのを機に、国内でもアルコールによる手指消毒が手指衛生の基本であると徐々に認知されるようになった。一方で、石鹸と流水による手洗いでは消毒効果が不十分で、アルコール消毒を追加する必要があるという誤解も生まれてしまったと矢野氏は指摘する。

 

アルコール手指消毒が推奨される理由は、

(1)石鹸と流水よりも消毒効果が高い

(2)保湿剤が入っているので手荒れを防げる

(3)短時間で手指衛生ができる

(4)水道設備がない場所でも実施できる

──など。

石鹸と流水による手洗いの効果が不十分というわけではなく、あくまで手荒れ防止と実行性の高さからアルコール消毒が勧められているのだ。実際、消毒ではなく、石鹸と流水による手洗いが必要なケースも存在する(表1)

 

表1 石鹸+流水で手洗いした方がよいケース(矢野氏による)

石鹸+流水で手洗いした方がよいケース

 

ただし、手術時1回目の手洗いだけは、石鹸と流水での手指洗浄後に残留活性の高いクロルヘキシジンやベンザルコニウムなどを含有したアルコール手指消毒薬を用いる。2回目以降は、残留活性の高いアルコール手指消毒薬のみで消毒すればよい。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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