職場でいじめられないための唯一の方法|社会人から看護師へ【3】

社会人から看護師へ【3】

職場でいじめられないための唯一の方法

職場でいじめられないための唯一の方法

 

10年前、エクアドルのキトで働いていたことがありました。そのときに同じ宿舎にいたドイツ人の理学療法士とそれぞれの国の医療職の給与や待遇について話していたのですが、ドイツでは看護師が仕事を辞めるのはよりよい給与のためなのかと聞くと、彼女は言いにくそうに「看護師の退職原因のほとんどは…『他の看護師』なんですよ」と言っていました。

 

その数年後、ボリビアで看護学校の教員をしていたのですが、わたしとコンビを組んで授業をアシストしてくれていたボリビア人看護教員が「最近はそうでもなくなってきたけどね、私が新人のとき?先輩看護師が意地悪でねえ…怖かったわー、どれだけ泣いたか覚えてないわよ!」と言っていて、えっ、ボリビアもそうなの?とわたしが言うとその会話を聞いていた学生たちが一斉に「ひゃあー世界のどこに行っても逃げられないんだ!」と怯えていたこともありました。

 

また、3年前にアルゼンチンの病院で、実習に来ていた看護学生にこっそり「やっぱり臨床の看護師って怖い?」と聞くと後ろの方からその病棟の師長が出てきて笑いながら「本当のことを言ってもいいのよー!」と声をかけ、学生がすごく困った顔をしていましたが。

 

 

看護師の新人いじめ、これは世界共通の問題らしく、例えば英語でなら“nurse bullying”もしくは“nurse eat their young”というキーワードで検索してみればいくらでも論文や看護専門誌の記事が出てくるのですが、特にアメリカの看護管理学分野ではこうした看護師の職場内での「いじめ」がひとつの研究分野となっています。

 

ただ、他の仕事もしていた経験から言うと、看護師業界だからいじめが飛び抜けて多いわけではないし、女性の多い社会だから特にそれが陰湿であるとも思いません。ほとんどが男性の会社でも休職や自殺に追い込むぐらいのいじめや陰湿な報復人事などがありましたから。だからこれは特に看護業界に限ったことではなく、どの職種においてもある普遍的な問題として考えていくべきだと思っています。

 

日本では、いじめは「あってはならない」「解決すべき」問題だと言われていますし、学校などで「いじめゼロ基本方針」というものを掲げているところもあります。

しかしいじめとはゼロにできるものでしょうか?

 

諸外国の研究では集団の中では当然起こりうる「現象」と捉えられており、むしろ起きた場合にいかに迅速に公正に裁定すべきか、その方法を確立して周知徹底することが先決だというのが大前提となっているようです。

いじめがゼロになるとしたら、それはあくまで取組みの結果であり、日本のように最初に掲げる目標ではないということです。

 

 

「いじめはなくならない」でも自分は「いじめられたくない」これも至極当然の気持ちだと思います。

自分がいじめられないためにはどうすればいいか。一つ方法があります。

 

それは「自分以外の誰かがいじめられてくれる」ことです。少なくともその誰かが被害に遭っている間は自分はターゲットにされずにすみます。わたしの母の実家の方では「性根が犬」という言葉があり、犬というものは群れの中に入ると自分を下から二番目の位置に置こうとすることから、上の集団には服従しながら、自分が嫌なことを押し付けたり、見下して優越感を感じるための対象を確保することで集団内の位置を確認する人のことを言います。

 

実は一定割合でこうした「生贄」を差し出すことで自分は巧妙に逃れようとする人がいます。

自分が職場内である程度の立場になり、今まさに「こんなことを、しているのを見つけましたよ…」「…と言っていましたよ」と、その「生贄」を差し出される側になっているのですが、意外にこういう人が多いのかもしれないと思うようになりました。それもまた、その人が家庭や学校、職場でやむなく身につけてきた自衛のための手段であるのかもしれません。

 

しかしそうした「やり口」には、残念ながらかなり厳しい態度で臨むようにしています。公正ではないから、というのもありますが、なにより「いじめられたくない」が一番の目的になってしまっているのが問題だからです。

 

不快な状態は回避したい、注意されたり指摘されたり、嫌な事は言われたくない、それが目的化している人は何かミスをしたときに、誰にも知らせず自分ひとりで挽回しようとしてさらにひどい状態にしてしまったり、最悪の場合隠ぺいしようとする傾向があるからです。

医療現場ではときにそれが生命にかかわる大きな問題にまで発展することもあります。多くの場合そこまで行く前に、そうした人は誰からも相手にされなくなっていって自滅するものですが、できれば職業人として早いうちに、これは通用しないものだと気づいてもらいたいと思っています。

 

 

この4月からわたしは大学院でこうした職場内における新人への教育指導に関する問題についての研究をすることになりました。

いじめに関しては研究テーマから少し外れるのですが、それでもやはり、いじめを心配する新人看護師に言えることがあるとすれば、「いじめられないために、あなたは何もする必要はない」ということです。

 

最近になって、犯罪被害者に自衛を求めるのはおかしい、と言われるようになってきましたが、これはいじめにおいても同じことだと思います。

そして、我々先輩の顔色を窺うヒマがあるなら、患者の顔色を見ましょう。こういった「すべきこと」に専念して、専門的な学習を継続していくための段階に合った指導介入法を考え、環境を整えるのはこちらの仕事です。

 

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社会人を経て、看護師になりました。中規模病院で働いたり世界を旅したり国際支援したりしているゆるふわナース15年目です。

 

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