なぜ看護師だけが社会人経験者をこれほど意識するのか

社会人から看護師へ【4】

なぜ看護師だけが社会人経験者をこれほど意識するのか

2015年3月に「看護師養成所における社会人経験者の受け入れ準備・支援のための指針」(※PDF)というガイドラインが厚生労働省から発表されました。

これは、看護師養成所に対して、社会人経験者を積極的に受け入れるためにたとえば入試や奨学金などの工夫をしましょう、という内容です。

 

この指針が出されたときには、「何をいまさら」というのが正直な気持ちでしたが、例えば医中誌webで「社会人経験」をキーワードにしてざっくり検索すると看護では100件以上の文献が出てきます。初出は2005年ごろからで、ここ10年で一気に増加しています。

 

 

看護師だけ「社会人経験者」が取り沙汰される謎

看護だけではなく、同じように社会人入学が増加している医療職には理学療法士作業療法士がありますが、理学療法士については社会人経験者に関する文献は会議録を含めわずか7件でした。

 

社会人入学者は同じように増えているのに、なぜこんなに看護にだけ研究が多いのか、非医療職の人から「看護は女性が多いから、社会人経験者のような異質なものや誰かが自分より目立つのがとにかく気に入らなくて足を引っ張って排除しようとする女性特有の陰湿なイジメ体質が原因だ」という意見があったので、同じく女性の多い作業療法分野について調べてみましたが、社会人経験者についての文献はヒットしませんでした。

 

これはまず理学療法士・作業療法士は比較的新しい資格であり、元々国家資格化の際の移行期間に、以前からリハビリ職として働いていた多様な年齢層の人達が一緒に教育を受けてきたこと、リハビリテーション(狭義での権利、名誉の回復)といったポリティカルコレクトネスが職業としての成立の過程の基軸となっていることが、社会人経験のある学生を「特に問題としない」で受け入れる考え方に影響を及ぼしているのではないか。

そして業務スタイルが全く違うことがあげられます。立案した計画を複数で交代し(一定水準のクオリティを維持し)ながら患者に対し実践していく看護師とは異なり、理学療法士や作業療法士は一人で行うことが前提なので、看護師のように「横並び」の均質性をあまり求められない傾向があるからかもしれません。

 

必要なのは社会人経験者への支援だけじゃなくて

さて、肝心の指針の内容ですが、別に社会人経験者だからといって学校側が特別に配慮しなくてはいけないような支援かというと…たとえば「入学志望者への情報提供」や「経済的支援」など、むしろどの年代であっても「学生」にとって普通に必要とされるのではないのかと思えるようなことが主だと思います。こういった支援策が、きちんと実践されることがいずれ、すべての学生にとっての学びやすい環境になっていくのではないかと期待しています。

 

ここにきて知り合った院生の中には、やはり社会人として働いた後、看護師になったという人もいます。わたしより前の、もう20年以上前に看護学校に入りなおしたという人達なのですが、今のような理解もサポートも当然なく、はるかに風当たりも強い中、ベテランの看護教員や師長になるまで続けてきた人達が「こんな支援のための指針まで出されるようになって最近の社会人入学は恵まれている、自分たちのときはあからさまに厄介者扱いされてきたのに」と言います。

わたしの頃にはもう「泣かせない指導」が言われるようになっていましたが、それ以前はもう学生や新人指導など泣かせてナンボの指導が「自分もやられてきた」という理由で受け継がれ、現役生でも容赦なくやられていたのに社会人経験者など恰好のターゲットだったわけです。自分達だってそんな「指導」でさんざん嫌な思いはしてきたはずなのですが、こうした変化を「恵まれている」と表現してしまうのはなぜなのか。実際のところ、一番考えなくてはいけないのはわたし達のこのへんの意識なのではないかと思っています。

 

 

【えぼり】 Twitter

えぼり

社会人を経て、看護師になりました。中規模病院で働いたり世界を旅したり国際支援したりしているゆるふわナース15年目です。

 

【ご意見お寄せください】

この連載へのご意見・ご感想や、お悩みなどをお待ちしております。看護師以外の社会人経験を経た方、社会人看護師を指導している方など、さまざまな立場からの声をお聞きできれば幸いです。

こちらのフォームに『社会人から看護師へ』と明記の上、どしどしお寄せください。

※お寄せいただいた内容は、連載で引用させていただく場合があります。

SNSシェア

コメント

0/100

キャリア・働き方トップへ

掲示板でいま話題

他の話題を見る

アンケート受付中

他の本音アンケートを見る

今日の看護クイズ

本日の問題

◆救急の問題◆死戦期呼吸とはどのような呼吸でしょうか?

  1. 無呼吸と浅い呼吸と深い呼吸を周期的に繰り返す呼吸
  2. 頻呼吸と無呼吸を不規則に繰り返す呼吸
  3. しゃくりあげるような不規則な呼吸
  4. 深く速い呼吸が規則正しく持続する呼吸

1334人が挑戦!

解答してポイントをGET

ナースの給料明細

8985人の年収・手当公開中!

給料明細を検索