すぐに辞める新人看護師と辞めない新人に違いはあるのか

社会人から看護師へ【5】

すぐに辞める新人看護師と辞めない新人に違いはあるのか

 

看護教育学を専攻している、と言うと「看護学校の先生になるのですか」とよく聞かれますが、わたしは看護学校での「基礎教育」ではなく、卒後いかに自律し専門性を高めるために学び続けていくか、という「継続教育」をテーマにしています。教員が学生を教育指導していくのとは異なり、臨床で働く看護師が自分で自分を教育していくための環境や制度を考えていく研究です。

 

この分野では主にキャリア形成、職業的アイデンティティの獲得過程についての研究がされていますが、新卒者の早期離職に関する研究も多くされています。

 

2010年4月から新人看護職員の卒後臨床研修が努力義務化となり、どこの病院や施設でも効果の指標としての新卒の初年次離職率を抑えることに躍起になっている影響もあるのかもしれません。その中でわたしが特に興味をひかれた研究は、『就職後1年以内に離職した新人看護師と、辞めずに続けられた看護師の仕事上の体験を比較して、どういう違いがあったのかを調べた研究 1)』でした。

 

早期離職した新人看護師を20人も集めてよく話を聞くことができたなという点だけでも十分すごい研究だと個人的には思うのですが(そして結論がそのすごさを生かしきっているかというと少しモヤっとしますが)、この研究によると、早期離職した群にも看護の達成感や承認欲求の充足、成功体験などの肯定的な体験はあり、就業を継続できた群にも無力感や支援を獲得できない困難状況などの否定的体験はあるということ、つまり体験自体は早期離職の原因とはなり得ず、離職防止の要因にもならないという結果が出ています。

 

問題を具体的にすれば解決方法を模索できる

ならば何が就労継続と早期離職を分けたのか、この研究では早期離職群は何か問題が生じたときに、その問題を抽象レベルで捉える傾向があり、就労継続群は問題を具体的なレベルまで自分の身にひきつけて考える傾向があったと考察されています。

 

例えば看護技術や知識などで同期に差をつけられていると感じたとき、「あの人は自分と違って要領がいいから…」といった「要領」という実態の曖昧なもののせいにして諦めてしまうだけなのか、その「要領」とは実際にどういう学習をして身につけていることなのか観察する、そこから(単に模倣するのではなく)自分に適した学習方法を模索する、といった違いではないかと思います。

 

そして早期離職群は、他人の言動や評価に良くも悪くも非常に左右されているということでした。

よく人に対して「自己評価が高い/低い」という評価がなされますが、「自己評価が高い」と悪い意味で評価されている人を見ていると、その人の周囲に対する期待水準が高いだけである場合がよくあります。自分に対して(理解をしてくれた上で)優しい言葉なり受容的な態度なりの言動や対応をしてほしい、という「期待」です。こういう人の自己評価はむしろ低いぐらいで、低いがゆえに防衛的に周囲に対する期待を高く設定している傾向があります。

 

研究の中でも、早期離職群の人はこの「期待」どおりの対応が得られなかったために否定的影響を強く受けてしまうことが言及されています。また、自分に対しても「あるべき姿」の期待が高いため、現実の自分の姿と乖離していることに否定的感情を持ち、退職するまでに至っていると考察されています。

 

これに対して就業継続群では、同様に否定的体験も肯定的体験もしながらも、失敗や成功体験を累積させ、効果的な役割遂行を考えていく、確固とした評価軸を自分の中に持つ、というように、自律的に学習する態度を獲得していっています。

 

最強のモチベーション「前向きに開き直る」

そしてもう一つ、これは面白いなと思ったのは「収入のために働く」という意識が就業継続群には際立って明確だったことです。

 

就業を継続できた群も、働く上での辛さは感じているのですが、その中でも「社会人として働く辛さ」と「看護師の業務内容による辛さ」とを分けて捉えているのです。このあたりが問題を抽象的にではなく、具体レベルで考える就業継続群の傾向が出ているのではないかと思います。そして看護師の業務内容による辛さは「当然」であると考え、その対価としての給与を得ることに意義を見出しています。

 

これは他の研究 2)でも立証されていて、「看護も仕事の一つ」「前向きに開き直る」と概念化されていたのですが、「やりがい」や「承認」より、ある意味最強のモチベーションなのではないかと思います。

 

 

1)    塚本友栄,舟島なをみ:就職後早期に退職した新人看護師の経験に関する研究―就業を継続できた看護師の経験との比較を通して―, 看護教育学研究, 17(1), 22-35, 2008

2)    大江真人,他:新卒看護師が職業継続意思を獲得するプロセス, 日本看護科学会誌,Vol.34, №1, 217-225, 2014

 

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社会人を経て、看護師になりました。中規模病院で働いたり世界を旅したり国際支援したりしているゆるふわナース15年目です。

 

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