手術室は患者さんがレンタル予約・カルテも自己管理―バングラデシュの医療事情

「インターナショナルクリニック」の看護師で「エスコートナース」でもある山本ルミが、患者さまとのドタバタな日常をお届けします!



こんにちは! 今回も休暇中に訪れた、バングラデシュよりリポートしたいと思います。

 

私がこの国に初めて空飛ぶナースとして訪れたのは5年前。その時に、整形外科医として活躍しているDr.Rabbiと知り合い、この国の医療の現場を見学する機会をいただくことができました。今回もDr.Rabbiを訪ね、ボランティアという名目で外来診察をお手伝い(実際は邪魔なだけ…?)してきました。

 

バングラデシュは日本の約4割しかない国土に、日本より多い1億5000万人の人達がぎゅうぎゅう詰めで生活しています。国民の約9割がイスラム教徒です。


空港に到着すると、人の多さに圧倒され思わず恐怖を感じる程ですが、街は活気にあふれ、その日一日を生きるために一生懸命な様子が見られます。

 

バングラデシュの医療事情は、日本と異なる点がたくさんあります。

 

入院待ちで廊下に寝泊りする患者さん―国営病院の実情

この国には日本でいう健康保険の制度がありませんが、国営の病院では誰でも100円以下の安い診察料で診察が受けられるそうです。しかし、どこの国でもそうですが、国営の病院は待ち時間が長い、建物が古い、衛生面や治療レベルが低いなどといった問題もあります。

 

以前、国営の病院を見学したときは、入院待ちのために廊下やホールで寝泊まりする患者さんを多く見かけました。日本では考えられないような状況に、ナースとして心を痛めたことを覚えています。


国立病院で、廊下で入院を待つ人たち

国立病院で、廊下で入院を待つ人たち

 

患者自ら手術室をレンタル予約?料金は直接交渉!手術事情

今回は初日に“Lake View Clinic”という病院に見学に連れて行ってもらいました。

 

そこにいた患者さんは8歳の男の子で、10日前に脛骨(けいこつ)の骨折をしてシーネ固定中。不安に思った父親が自分の主治医であるDr.Rabbi にセカンドオピニオンを依頼し、診察の結果、今日このクリニックでのオペが決定したそうです。
 

国立病院で働く看護師さんたちと

国立病院で働く看護師さんたちと

 

Dr.Rabbiはこのクリニックで働いているわけではなく、手術のために手術室を借りに来たとのこと。クリニックの麻酔医やスタッフを借りてDr.Rabbiが手術しますが、部屋を予約したり麻酔医を頼んだりということは患者さんが行うそうです。言ってみれば、他人の台所で、勝手に料理するようなものです。

 

まず、麻酔医がルート確保して、患者さんが眠りに入ったところでレントゲンを見ながら骨折した部位を矯正。石膏ギブスを巻いて10分ほどで終了しました。患者さんが支払う病院使用料は1万円くらいだそうです。そのほかに医師への手術代金を支払います。

 

医者への支払いは、大まかな値段は決まっているそうですが、最終的には直接交渉。

 

「手術代金はいくらなんですか?」と聞くと、

「僕は患者から『お金がないから負けてくれ』って言われたらすぐに安くしてしまうからね、全然もうからないんだ!(笑)」

とDr.Rabbi。

 

一体、手術代金は、いくらだったのでしょうね?

 

看護師の平均年収はサラリーマンの約1/3

アジア最貧国でもあるこの国の、サラリーマンの平均年収は3万円程だそうです。看護師は1万円ぐらいで、トレーニングの内容で給料が決まるらしいです。

 

医者になるには5年間学校で学び、さらに1年間研修医として勤めれば一人前になれます。看護師の育成過程は4年だそうです。

 

カルテは患者さんが自分で管理

今回もお世話になったDr.Rabbiは、各国の大使館や高級住宅街のある地区の“グルシャン”という街にある、クリニックばかりが集まっているビルの3階で整形外科の外来を営んでいます。

 

この国では女性一人で外出することがあまりなく、ご主人が仕事から帰ってから一緒に外来受診をするため、夕方から夜にかけての外来診察が多くなります。なので、毎日外来が終わると22時過ぎになりました。

 

保険制度がないからか、カルテは患者さん個人が管理しています。8つ折りにされたカルテが患者さんのお財布や服のポケットから出てくるのが見ていて面白かったです(笑)。

 

診察がすべて終了するのは22時過ぎ(!)

診察がすべて終了するのは22時過ぎ(!)

 

ドクターアクショーノフを思い出す、バングラデシュの診察室

Dr.Rabbi は医師になってもう33年、ずっと整形外科の専門医です。日本の長崎でも10年間医学を学び、Ph.D.を取得しています。

 

医者になりたての頃、救急室で夜勤をしていたらバス事故の患者さんが50人も救急搬送されてきて、一晩中治療に追われた話をしてくれました。そんな大変な状況も経験しながら多くのことを学び、患者さんを心身ともに治療する事に生きがいを見つけ、今でもバングラデシュで活躍しています。


患者さんに治療法を説明するDr. Rabbi。長崎弁がすてきなんです(笑)

患者さんに治療法を説明するDr. Rabbi。長崎弁がすてきなんです(笑)

 

この国では、今でも人口の1割が今現在も家庭の事情で教育を受けることができず、15歳以上で読み書きができるのは5割程度だそうです。Dr.Rabbiは理解に乏しい患者さんもいる中、一人ひとりの患者さんと向き合い、根気よく病気や治療の説明をしていました。


その熱意のある姿がDr.Aksenoffを思い出させてくれ、ほんのわずかな時間でしたが、インターナショナルクリニックの診察室にいるような幸せな気持ちになりました。

 


【山本ルミ】看護師・エスコートナース
大分県出身。93年より六本木のインターナショナルクリニックに勤務。98年よりエスコートナースとしても活躍している。著書に『患者さまは外国人』(山本ルミ・原案 世鳥アスカ・漫画)など。

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