子連れで世界の医療支援に行くのが夢―ママ兼国境なき医師団ナース
国境なき医師団ナースリレーコラム
ママだけど、国境なき医師団でナースやってます。
Vol.4 子連れで世界の医療支援に行くのが夢
【筆者】看護師 田岡佳子
一般企業を経て看護師に。1児の母。夫も看護師としてMSFで活動中。
国境なき医師団の「働くママナース」にとって、仕事と家庭の両立とは?これまでのあれこれをお伝えします。
これまで、国境なき医師団(MSF)の海外派遣での体験談と共に、子育てのこと、国境なき医師団で一緒に活動してきた夫のことなどお話してきました。最終回では、国境なき医師団での経験によって私がどのように変わったか、そして私たち夫婦の今後の目標についてお話したいと思います。
スリランカのプログラムにて、テントのオペ室で
日本と世界の看護の価値観は違う
私はもともと海外旅行が好きで、これまでに30カ国以上の国を訪れました。
しかし国境なき医師団の派遣は旅行とは違い、現地で仕事をして現地にどっぷりつかって生活をします。「郷に入れば郷にしたがえ」といいますが、わかっていながらもこれが意外と難しいのです。
現場には現地のスタッフだけでなく、海外各国から集まった同僚もいます。時に色々な種類の「郷」に順応しなければなりません。
私は生活に関してはわりと柔軟な方で、これまであまり問題はありませんでした。しかし仕事に関しては、日本で築いてきた看護や医療への価値観をベースとした、現地の医療環境に合っていない看護をしていることに気づきハッとしたり、一緒に働く多国籍なスタッフの仕事のやりかたに戸惑ったりしました。
検温しないナース、結論のない会議
例えばこんなことがありました。
日本の病院では入院患者は最低でも1日1回はナースがバイタルチェックし、異変に早く気づき医師に報告します。しかし派遣されたマラウイの病院では、ナースは自ら定期的に検温する習慣や役割がなく、異変や急変に気づきにくい状態にありました。
日本のやり方を促してもうまくいかず、最終的に日本とは逆に、クリニカルオフィサー(医師ではないが、診断や治療などの医療行為を行う資格を持った医療スタッフ)がラウンド時に必要な患者を検温しナースに報告、検温フォローの指示をする、というやり方が効果的ということに行きついたりしました。
また、現場ではよく会議が行われます。
会議は何かを決めたり、方向性を定めたりするイメージがありますが、スリランカ派遣の時のフランス人の上司は何時間もかけてスタッフの意見を聞き、最後は「あれ、終わっちゃったの?」と結論なく終わることが多く、最初は自分が英語を聞き取れていないのかと思い、他のスタッフに聞き回ったりしました。
MSFマラウィ派遣時現地スタッフと
姑と仲良しなのは国境なき医師団のおかげ?
派遣経験を重ねるうちに、まずは自分の固定観念を取り払い、現場の医療体制や患者さんのおかれた環境、文化や習慣などよく観察し、話をよく聞き、違いを受け入れていくことが身体に染みつきました。
そして「ここだけは!」と絶対に必要だと思うことは、時間をかけて粘り強く説明していく。この習慣は帰国後、日本の生活の中でも大変役立っています。
たとえば日本の新しい職場で、子育てセンターで、ご近所付き合いで。嫁姑の仲もMSFの経験がなければこんなにいまくいっていたかわかりません。
子連れでも医療援助活動はできる
私、正確には私たち夫婦の今の短期目標は、国際医療人道援助の仕事で家族3人一緒に渡航することです。
このような話をすると「そんな小さい子を連れて?!」と驚く人もいるでしょう。サラリーマンの海外赴任と違い、途上国の僻地での医療活動に子連れで行くことは、イメージがわきにくいためだと思います。
もちろん紛争地帯や、エボラのような感染症のアウトブレイクの現場に子連れ赴任は無理ですが、治安は安定しているけれども医療援助のニーズが高い国や地域はたくさんあります。
私たちは海外で多くの子連れスタッフと出会ってきました。国境なき医師団で初めて派遣されたマラウイでも、幼児を連れたフランス人スタッフが2人働いていて、「子供がいても、この仕事を続けていけるんだな」と思っていました。
そしてここ数年、長崎大学熱帯医学研修時代のクラスメイトのなかにも子連れで海外へ出て頑張っている人が増えてきています。
子どもを海外に連れて行くリスク
ちょうど1年前になりますが、プライベートの語学留学で、練習(?)を兼ねて家族3人、フィリピンに3カ月滞在しました。その時1歳半だった娘は現地のベビーシッターさんにも3日で慣れ、大きな病気をすることもなく元気に過ごし、娘のわりとタフな面をみることができました。
まずはこの目標を目指して!と意気込んではいますが、心配や不安もあります。
祖父母にとっては初孫である娘を、一番かわいいこの幼児期に離してしまうこと。孫はまさに生きがい、というのが痛いほど伝わってくるので、もし長期派遣となった場合を考えると心苦しいです。
また娘が小学校に行くようになったら、教育は?海外と日本を行ったり来たりでは娘が混乱してしまうのでは?イジメにあわないか?も不安のひとつ。
そして介護の問題。親に介護が必要になったらどのように仕事と両立していくかは、皆さんにとっても大きな悩みと思います。
ママとして、国際医療支援ナースのプロとして
これまで自分が実現したいことが頭に浮かぶと、行動に移すことを心掛けてきました。
これからは主語を「自分」から「家族」に置き換えた夢やチャレンジが多くなりますが、「行動してなんぼ」のモットーは変わらずに進んでいきたいと思います。そこで問題にぶつかった時は、この時こそ、日本の看護の現場で、またMSFで鍛えられた調整力が助けになり、乗り越えていけるのでないかと信じています。
私には、看護師としても国際医療人道援助のプロフェッショナルとしてもまだ多くの経験や勉強が必要です。これからも「ママ」という立場を大切にしつつ、色々な道を探りながら歩いていきたいと思います!最後まで読んでいただきありがとうございました。
【筆者】田岡佳子(たおか・よしこ)
群馬県出身、看護師。
一般企業での勤務を経て、2004年、東京都立松沢看護専門学校卒業。2004年より看護師として働き、新天本病院勤務後、2008年、国境なき医師団(MSF)の活動でマラウイへ派遣。その後、2009年にはスリランカ、2011年にはインドで派遣活動に従事した。1970年6月14日生まれ。
【協力】国境なき医師団 日本
国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、 中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体です。MSFの活動は、緊急性の高い医療ニーズに応えることを目的としています。紛争や自然災害の被害者や、貧困などさまざまな理由で保健医療サービスを受けられない人びとなど、その対象は多岐にわたります。
MSFでは、活動地へ派遣するスタッフの募集も通年で行っています。
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