敗血症の定義が変更。 臓器障害の有無が重要に

『エキスパートナース』2017年2月号より転載。
敗血症の定義変更について解説します。

 

井上茂亮
神戸大学医学部附属病院先進救急医学部門特命教授/外来医長

 

敗血症の定義 ここが新しくなった!!

  • 「重症敗血症」という用語がなくなり、「敗血症」と「敗血症性ショック」のみに
  • ICUではSOFAスコア、ICU外ではqSOFAスコアで敗血症かどうかをすばやくアセスメント

 

〈目次〉

 

敗血症の定義は、どこが変わった?なぜ変わった?

敗血症の定義は、どこが変わった?なぜ変わった?

 

敗血症の定義が“感染症に起因する臓器障害”に変更(Sepsis-3)

 

「敗血症」と「敗血症性ショック」に大きく分類された

米国集中治療医学会/欧州集中治療医学会は敗血症の新定義と診断基準を策定し、2016年2月22日、第45回米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine、SCCM)にて、敗血症の新しい定義(Sepsis-3)を発表しました(図1-①)。また同時に新定義の論文(1) とその関連論文(2),(3) がJAMA誌に掲載されました。

 

Sepsis-3では、これまでのSIRSの基準と「重症敗血症」という用語が消滅し、「敗血症(sepsis)」と「敗血症性ショック(septic shock)」の2つに簡略化されました。また、敗血症性ショックの定義(図1-②)も新しくなりました。

 

図1 敗血症・敗血症性ショックの新定義(2016年3月~)

敗血症・敗血症性ショックの新定義

 

研究が進み、敗血症の説明が従来のものでは難しくなっていた

1)そもそも「敗血症」とは?

敗血症とはすなわち、感染によるさまざまな臓器障害(臓器不全)です。字面では、「血が負ける病気」であり、「血が負ける→"菌血症[memo]"??」とイメージしがちですが、決してそうではありません。
敗血症は英語でsepsisと呼ばれていますが、古代ギリシャ時代sepsisとは、「腐る」「腐る過程」という意味で用いられていました(4)(pepsis〈消化〉から語源変化したようです)。

 

「腐る」とは、微生物により有機物が貪食・消化・分解されることであり、ここから敗血症とは、「生体内における病原微生物による病的な生体反応をきっかけに、循環不全に陥り、臓器障害に至ること」、と考えることができます。

 

memo【菌血症】

血液から菌を検出する症状。

 

2)感染による全身の炎症反応がなくても、敗血症である場合が多かった

①1992年の定義
1992年、「敗血症症候群(sepsis syndrome)」という概念を提唱したBoneらにより、敗血症とは、“感染による全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome、SIRS)”と定義されました(5)

 

この定義は全身性の炎症反応に焦点を当て、バイタルサインを中心とした簡便な基準で幅広く敗血症をスクリーニングできるという利点があり、「感染症+SIRS」が敗血症の診断基準として広く用いられることとなりました(図2)。

 

図2従来の敗血症の定義(1992年~2016年2月)

従来の敗血症の定義

 

②最近指摘された旧定義の問題点
しかし、敗血症の基礎研究が進み、SIRSに引き続いて“代償性抗炎症反応症候群(compensated anti-inflammatory syndrome、CARS)”という免疫抑制も生じることがわかり、敗血症の病態では炎症と抗炎症(免疫抑制)が混在することが判明してきました。

 

このため炎症だけで敗血症を説明するのは難しくなり、宿主との免疫応答に伴う臓器障害に主眼を当てる必要性が指摘されていました。

 

また軽症患者でも拾い上げてしまうことや、診断基準の特異度も高くないことがSIRSの問題として指摘されました(7),(8)
1992年以来、敗血症は「感染+SIRS」と定義されていましたが、この診断基準は感度が高く、種類の異なるさまざまな患者が入り混じった「ごちゃまぜ」になってしまうため、新規敗血症治療薬の臨床治験ではほとんど効果を得ることができていない状況です(9)

 

加えて2015年に発表されたオーストラリア・ニュージーランドからの敗血症患者11万人をもとにした報告では、重症敗血症患者のうち8人に1人がSIRSの診断基準を満たしていないことが明らかになりました(8)

 

ガイドラインにも注目!

『SSCG2016』(Surviving Sepsis Campaign)『日本版敗血症診療ガイドライン2016』(日本集中治療医学会、日本救急医学会)

 

●2016年は、国際的な敗血症診療ガイドライン(Surviving sepsis campaign guideline、SSCG)と本邦の日本版敗血症診療ガイドラインの2つがリニューアルされる

 

●『SSCG2016』はまだ公表されておらず詳細は不明だが、『日本版敗血症診療ガイドライン2016』(6)には、集中治療後に生じる筋力低下、認知・メンタルヘルス障害である集中治療後症候群(post-intensive care syndrome、PICS)や、特にICU管理で生じるびまん性の左右対称性の筋力低下であるICU-AW(ICU-acquired weakness)など、患者の長期予後にも注目したコンテンツが独立した章として、最新のエビデンスとともに掲載される

 

●このような点からまもなく刊行される『日本版敗血症診療ガイドライン2016』は、世界に先駆けた日本独自のガイドラインになると思われる

 

敗血症の定義変更について理解しておきたいポイントは?

敗血症の定義変更について理解しておきたいポイントは?

 

ICUとICU以外で最初に用いるスコアが異なる

 

一連の敗血症および敗血症性ショックの診断アルゴリズムを図3(1)に示します。 

 

図3敗血症および敗血症性ショックの診断アルゴリズム

敗血症および敗血症性ショックの診断アルゴリズム

 

今回の改定のポイントは、臓器障害の指標としてICUではSOFA(sequential organ failure assessment)スコアを用い、ベッドサイドや一般病棟、救急外来、急性期病院以外などのICU外ではqSOFA(quickSOFA)スコアを用いることが診断基準に盛り込まれたことです。

 

ICUではSOFAスコアで臓器障害を評価する

SOFAスコアは呼吸や循環、凝固障害など6つの独立した臓器・器官系からなる重症度スコアであり、ICUでの臓器障害の重症度を簡便に評価でき、表1-①(1)に示した基準が2点以上増加した場合に敗血症が疑われます。しかし動脈血液ガスを含めた採血検査が必須であるため、ICU以外で敗血症の可能性をすばやく判断することには適していません。
そこで、SOFAスコアを用いることが困難と想定されるICU外で、敗血症を疑うためのより簡便なツールとして,qSOFAスコアが考案されました(表1-②)(1)

 

表1敗血症の新しい診断ツール

敗血症の新しい診断ツール

 

ICU外ではqSOFAスコアで敗血症をすばやく疑う

qSOFAスコアは呼吸・意識・循環の3項目を用いた敗血症を疑うためのツールで、「呼吸数22回/分以上」「GCS(Glasgow Coma Scale)14点以下」「収縮期血圧100mmHg以下」を各1点ずつで評価します。ICU外では、qSOFAスコアが2点以上であれば敗血症を疑い、SOFAスコアを用いて臓器障害の評価を行うことが推奨されています。

 

qSOFAスコアはSOFAスコアの項目に対応しながらも簡便にすばやくスコアリングできるようになっているため、ICU外でもすみやかに敗血症を疑うことが可能になると期待されています。

 

Seymourらは、約15万件のICU外の感染症が疑われる患者において、qSOFAスコアのうち2項目以上を満たす場合(2点以上)に、qSOFAスコアのほうがSOFAスコアよりも予測死亡率が優れていることを示しました(2)

 

敗血症の定義変更に対してナースはどうする?

敗血症の定義変更に対してナースはどうする?

 

スコアに捉われず、患者の様子を総合的に判断する

 

qSOFAスコアは簡便な一方、数値化できる患者のサインのみで構成されています。“なんとなく元気がない”“顔色が悪い”“チアノーゼがある”など、程度は数値化できないものの患者の急変を認知するために非常に重要なサインがいくつかあります(表2)。

 

表2敗血症の可能性のある症状・徴候

敗血症の可能性のある症状・徴候

 


このためICU外で敗血症を疑うときは、統計学的に計算されたqSOFAの3項目(呼吸数・意識レベル・収縮期血圧)のみに捉われず、ベッドサイドで患者の変化をつぶさに観察し、「この患者さん、敗血症かな?」とつねに疑い、総合的に判断することが重要です。

看護師はスコアにとらわれず、患者の様子を見て敗血症をうたがう

 

 


[引用文献]

 

 


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「重症集中(敗血症):敗血症の定義が変更。臓器障害の有無が重要に」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年2月号/ 照林社

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