小児の人工呼吸中の鎮痛・鎮静の注意点は?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』より転載。

 

今回は「小児の人工呼吸中の鎮痛・鎮静」に関するQ&Aです。

 

三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任

 

小児の人工呼吸中の鎮痛・鎮静の注意点は?

 

小児は安静保持が困難であり、適切な鎮痛・鎮静が不可欠です。そのため、適切なモニタリングと、発達段階に合わせた評価が求められます。

 

〈目次〉

 

小児の人工呼吸中における鎮痛・鎮静

小児の人工呼吸において、苦痛の軽減、事故抜管の予防、心的外傷の予防などのために、鎮痛・鎮静は不可欠である(表1)。

 

表1鎮痛・鎮静の目的

 

患者の快適性・安全の確保
  • 不安を和らげる
  • 気管チューブ留置の不快感の減少
  • 動揺・興奮を抑え、安静を促進する
  • 睡眠の促進
  • 自己抜去の防止
  • 気管吸引の苦痛を緩和
  • 処置・治療の際の意識消失(麻酔)
  • 筋弛緩薬投与中の記憶消失
酸素消費量・基礎代謝量の減少
換気の改善と圧外傷の減少

日本呼吸療法医学会多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2 版.人工呼吸2004;21:44-61.より引用

 

鎮痛・鎮静薬は、副作用として呼吸・循環抑制をきたすため、適切なモニタリング下で投与することが求められる。

 

小児の人工呼吸中における鎮静評価

個々の患者の至適鎮静レベルを医療スタッフで共有し、適切に鎮静度を評価するためには、鎮静スケールが有用である。

 

ただし、小児用の鎮静スケールとして、使いやすく、覚えやすいものは、いまだ確立されていない。

 

小児用の鎮静スケールとしては、SBS表2)やcomfort scale(コンフォートスケール:表3)がある。

 

表2SBS(state behavioral scale)

 

※有効な自発呼吸とは、PS0cmH2Oで一回換気量4mL/kg以上を指す。
Curley MA:Japanese Version SBS. http://www.marthaaqcurley.com/uploads/8/9/8/6/8986925/sbs_japanese.pdf(2014年 11月18日閲覧).

 

表3comfort scale

 

志馬信朗:小児人工呼吸管理中の鎮静・鎮痛.救急・集中治療2010;22:407.より引用

 

SBSでは、通常のケアの間に患者を評価する。反応を評価するために、穏やかな声かけ、やさしく触れる、侵害刺激を加える。

 

comfort scaleは、当てはまる点数を合計することで評価する。

 

小児の人工呼吸中における疼痛評価

乳幼児は、痛みを他者に伝えることができない。小児は、痛みを言語によって伝えることが、しばしば困難である。

 

人工呼吸中の小児においては、痛みに対する生理学的反応や行動学的反応を観察することが重要である(図1)。

 

図1急性疼痛に対する反応

 

鎮痛薬の効果判定や経時的変化の把握には、疼痛スケールが有用である。

 

小児に用いられる疼痛スケールには、主観的に評価できるフェイススケール(図2)や、客観的に評価できるCHEOPS(ケオプス)表4)、BPS(『人工呼吸中の鎮痛評価は、どのように行うの?』)がある。

 

図2フェイススケール(患者自身に痛みの程度を指し示してもらう)

 

表4CHEOPS(Children’s Hospital Eastern Ontario Pain Scale)

 

McGrath PJ, Johnson G, Goodman JT, et al. CHEOPS: A behavioral scale for rating postoperative pain in children. Adv Pain Research therapy1985; 9: 395-402.

 

意識が清明で、適切に表現できる学童期後半以降は、成人と同様にVヴァスAS(ビジュアルアナログスケール)やNRS(数値評価スケール)を用いることができる((『人工呼吸中の鎮痛評価は、どのように行うの?』)。

 

略語

 

  • SBS(state behavioral scale)
  • CHEOPS(Children’s Hospital Eastern Ontario Pain Scale)
  • BPS(Behavioral Pain Scale)
  • VAS(Visual Analog Scale):ビジュアルアナログスケール
  • NRS(Numeric Rating Scale):数値評価スケール

[文献]

  • (1)Lerman J,Cote CJ,Steward DJ著,宮坂勝之,山下正夫訳:小児麻酔マニュアル改訂第6版.克誠堂出版,東京,2012.
  • (2)American Heart Association:PALSプロバイダーマニュアルAHAガイドライン2010準拠.シナジー,東京,2013:46.
  • (3)Silverman WA, Dunham’s Premature Infants. 3rd ed. New York:Harper & Row;1961:144.
  • (4)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012
  • (5)日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline第2版.人工呼吸2004;21:44-61.
  • (6)Curley MA:Japanese Version SBS. http://www.marthaaqcurley.com/uploads/8/9/8/6/8986925/sbs_japanese.pdf(2014年11月18日閲覧).
  • (7)志馬信朗:小児人工呼吸管理中の鎮静・鎮痛.救急・集中治療2010;22:407.
  • (8)McGrath PJ, Johnson G, Goodman JT, et al. CHEOPS:A behavioral scale for rating postoperative pain in children. Adv Pain Research therapy 1985; 9: 395-402.
  • (9)小宮山明子,魚住知恵:人工呼吸療法中の子どもの口腔ケア.小児看護2012;35(9):1203.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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