圧外傷ってなに?どうしておこるの?|人工呼吸中の合併症
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「圧外傷」に関するQ&Aです。
塚原大輔
日本看護協会看護研修学校認定看護師教育課程特定行為研修担当教員
圧外傷ってなに? どうして起こるの?
人工呼吸による陽圧換気に伴う気胸などの肺の損傷をVALI(人工呼吸器関連肺損傷)と呼びます。特に、肺に炎症があり組織が不均一な病態(ARDSなど)で生じやすく、多臓器障害・不全に至る危険性があるものです。
〈目次〉
人工呼吸中の圧外傷
圧外傷は、肺疾患と過膨張、圧負荷の3つの要因により引き起こされる。
急性肺疾患では機能的残気量の減少を伴うため、PEEPや気道内圧管理が必要になる。しかし、陽圧換気により生じた肺胞への過剰なストレスは、VALI(ヴァリ:人工呼吸器関連肺損傷)*が引き起こされる。
ARDS(急性呼吸窮迫症候群)*では、外からの刺激に対して過剰な反応を示す状態にあり、無気肺の形成、間質の浮腫や重力の影響により、肺では著しい組織の不均一性が生じている。
このような組織に対して人工呼吸による陽圧換気を行った場合には、肺胞に部分的に過剰な伸展が生じる。
無気肺と拡張した肺の境界線では、無気肺と再拡張を繰り返すことにより、大きな“ずり応力”が生じて肺胞壁にダメージを与える(圧損傷・量損傷)。これらの過膨張や虚脱・再開通による刺激(虚脱性肺損傷)が、肺障害をさらに拡大し、全身に炎症反応をもたらす(炎症性肺損傷)。それらの概念を表1に示す。
圧損傷 (barotrauma/バロトラウマ) 量損傷 (volutrauma/ボルトラウマ) |
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虚脱性肺損傷 (atelectrauma/アテレクトラウマ) |
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炎症性肺損傷 (biotrauma/ビオトラウマ) |
Columnずり応力って?
外力が物体に作用したとき、これに対応してバランスをとるため、物体の内部に生じた力を「応力」という。応力は、圧縮応力、引っ張り応力、ずり応力(剪断応力:shear stress)の3つに分類される。
ずり応力とは、物体内部のある面の平行方向に、すべらせるように作用する応力のことで、物体を流動させるのに必要となる体位面積あたりの力を意味する。
肺胞と肺胞におけるずり応力とは、虚脱した肺胞が過膨張することで、肺胞間相互に摩擦力が生じることを意味している。
道又元裕
杏林大学医学部付属病院看護部長
- VALI(ventilator-associated lung injury):人工呼吸器関連肺損傷
- ARDS(acute respiratory distress syndrome):急性呼吸窮迫症候群
- SIRS(systemic inflammatory response syndrome):全身性炎症反応症候群
- MODS(multiple organ dysfunction syndrome):多臓器不全
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社