呼吸とは何だろう?|呼吸器に関するQ&A(1)

『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。
今回は「呼吸」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

呼吸とは何だろう?

呼吸というと、鼻腔や口腔からの空気の出入り、あるいは胸郭の呼吸運動などを思い浮かべますが、こうした単なる空気の出し入れは換気(かんき)といいます。生理学では、空気中から酸素を取り入れ、細胞の代謝によって生じた二酸化炭素を排出するガス交換を呼吸といいます。

 

空気の流れをたどってみましょう。鼻腔や口腔から取り込まれた空気は上気道に入り、さらには下気道から気管へと運ばれます。気管は心臓の後方で左右2本の気管支に枝分かれし、肺に達すると20回以上の枝分かれを繰り返しながら、最終的に空気は肺胞へと送り込まれます(図1)。

 

図1気管と肺胞

気管、気管支と肺

 

 

肺胞は直径0.2~0.5mmの半円形で、ブドウの房のようになっています。肺胞の数は成人で3億個で、両肺の肺胞を広げると約70m2にもなります。これは、2~3LDKに匹敵する広さです。

 

酸素と二酸化炭素のガス交換は、肺胞と、その周囲を取り囲むように走っている毛細血管との間で行われます。すなわち、酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するやり取り(呼吸)が行われるのです。呼吸には、このように外界と生体との間で行われる外呼吸(がいこきゅう)と、身体のなかで行われる内呼吸(ないこきゅう)があります。

 

COLUMN気管支の左右差

気管支は左右で太さや傾きが異なっています(図2)。右気管支のほうが左気管支より分岐する角度が小さく、右気管支は25度、左気管支は45度です。左気管支が急角度で曲がっているのに対し、右気管支は緩やかに曲がっています。加えて、右気管支のほうが太くて短いため、異物が右気管支に入りやすいという特徴があります。

 

こうした特徴を理解していないと、気管挿管でチューブを深く挿入しすぎ、右気管支に入り込んでしまう片肺挿管を起こしてしまいます。右気管支にチューブが入ると、右肺だけで呼吸を行うことになります

 

図2気管と気管支

気管と気管支

 

外呼吸と内呼吸って何が違うの?

肺で空気と血液との間で行われる酸素と二酸化炭素のガス交換を外呼吸(肺呼吸)といいます。この外呼吸にかかわるのが呼吸器系です。外呼吸によって血液に取り込まれた酸素は、全身の組織、器官の細胞に運ばれます。細胞に取り込まれた酸素は、個々の細胞の活動に利用されます。その結果生じた二酸化炭素は、血液によって肺に運ばれます。このように細胞と血液との間で行われるガス交換を内呼吸といいます(図3)。

 

図3外呼吸と内呼吸

気管、気管支と肺

 

肺はどのようにして空気を取り入れるの?

呼吸運動の中心になるのは肺の動きです。それでは、肺はどのようにして膨らんだり縮んだりするのでしょう。

 

感覚的には、空気の出し入れで膨らんだり縮んだりすると思われがちですが、肺は心臓のように、自ら伸縮して空気を出し入れすることはできません。大変弾力に富んだ膜でできているとはいえ、何かほかの力を借りないと伸縮できないのです。

 

肺の動きを支配しているのは、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋です。これらの呼吸筋が収縮・弛緩を繰り返すことで、肺を囲む容積が変化し、その結果、肺に空気が出入りします。横隔膜の働きで行う呼吸が腹式呼吸、肋間筋の働きで行う呼吸が胸式呼吸です。

 

横隔膜や外肋間筋(がいろっかんきん)が収縮すると、胸郭が拡大して空気が取り込まれ、反対に弛緩すると胸郭が狭くなって息が吐き出されます。

 

腹式呼吸と胸式呼吸の違いは?

ガラス瓶を胸郭、瓶の底のゴム膜を横隔膜、瓶内の風船を肺に例えたものを換気の模型といい、腹式呼吸の仕組みを説明するときによく用いられます(図4)。

 

図4換気の模型

 

図4のように、風船(肺)はガラス管(気道)によって大気とつながっています。この状態で、瓶の底のゴム膜(横隔膜)を下に引く(収縮させる)と、瓶とゴム風船の間(胸膜腔)の容積が増えます。この空間は密閉されていますので、胸膜腔の圧は大気に比べて低く(陰圧に)なります。その結果、瓶内の風船(肺)は受動的に膨らみ、それに伴って大気が入り込んできます。これが吸息です。

 

次に、先ほどまで伸ばしていたゴム膜を緩めて元に戻す(横隔膜が弛緩する)と、瓶とゴム風船の間の空間の容積は小さくなります。ゴム風船にかかる圧が上がるため風船は押しつぶされ、その結果、大気が押し出されす。これが呼息です。このように、横隔膜の伸縮によって行う呼吸を、腹式呼吸(ふくしきこきゅう)といいます。

 

一方、胸式呼吸で肺の伸縮にかかわっているのは肋間筋(ろっかんきん)です。外肋間筋が収縮すると肋骨が上方に上がり、胸郭が前後左右に拡大します。胸腔内は陰圧になり、空気が取り込まれす。これが吸息(きゅうそく)です。息を吐くときには逆に、外肋間筋が弛緩して胸郭が収縮し、肺が押しつぶされて空気が押し出されます。これが呼息(こそく)です。このように、肋間筋の働きによって行う呼吸を胸式呼吸(きょうしきこきゅう)といいます。肋間筋には外肋間筋のほかに内肋間筋があり、これは外肋間筋と反対に作動します。

 

メモ人工呼吸器の原理

人工呼吸器は気管挿管、気管切開、マスクなどを通し、圧をかけた状態で酸素を肺に送り込みます。肺を人工的に膨らませることにより、ガス交換を促しています。

 

※編集部注※

当記事は、2016年4月8日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

深呼吸をすると呼吸が楽なのはなぜ?

 

⇒〔解剖生理Q&A記事一覧〕を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ