TCA回路|栄養と代謝
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、TCA回路について解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 1. ピルビン酸は好気的条件下では、ピルビン酸脱水素酵素の作用でアセチルCoAになり、TCA回路に入る。
- 2. ピルビン酸は嫌気的条件下では、乳酸脱水素酵素の作用で乳酸に還元される。
- 3. ビタミンB1はピルビン酸をアセチルCoAに変えるために必要で、糖代謝必須ビタミンとよばれる。
- 4. TCA回路が効率よく回るためには、オキサロ酢酸の補充が必要である。
TCA回路
ピルビン酸は好気的条件下では、ピルビン酸脱水素酵素(pyruvate dehydrogenase、PDH)の作用でアセチルCoA(acetyl coenzyme A)になり、TCA回路(tricarboxylic acid cycle)に入る(図1)。TCA回路の酵素はミトコンドリア(mitochondria)のマトリックス(matrix)内にある。
図1TCA回路
嫌気的条件下では、ピルビン酸は乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase、LDH)の作用で乳酸に還元される。TCA回路は、クエン酸がこの反応系に現れる化合物の1つであることからクエン酸回路(citric acid cycle)、あるいは、この反応系を報告したH. クレブス(Hans Krebs)の名からクレブス回路(Krebs cycle) ともよばれる。
細胞内呼吸
生命維持・活動に必要なエネルギーは、栄養素を酸化(代謝)することによって得ている。栄養素を酸化するために必要なO2を取り入れ、代謝の結果、産生されたCO2を排出するというガス交換を呼吸という。
肺で行われるO2、CO2の交換を、外界とのガス交換なので外呼吸(external respiration)というのに対し、細胞内で行われるO2、CO2の交換を細胞内呼吸または内呼吸(internal respiration)という。肺で摂取したO2の大部分は、ミトコンドリアの内膜(inner membrane)で行われる電子伝達系(「電子伝導系」参照)で使われる。
TCA回路ではO2は使われないがCO2が産生される。このようにTCA回路と電子伝達系は、ともに細胞内の反応であり、このO2消費およびCO2産生を内呼吸という。
ビタミンB1の関与
水溶性ビタミンにはビタミンB群とビタミンCがあり、ビタミンB群は補酵素(coenzyme)として働く(ビタミンCは抗酸化作用〔anti-oxidant reaction〕がある)。
ビタミンB1はPDHの補酵素になっていて、糖代謝の必須ビタミンである。ビタミンB1が欠乏すると好気的条件下でもピルビン酸がアセチルCoAに酸化されず、乳酸に変化する。
高カロリー輸液(intravenous hyperalimentation、IVH)にはビタミンB1が不可欠である。IVHにビタミン B1を添加しなかったために重症のアシドーシスになり死亡した例が報告されている。
オキサロ酢酸補充経路
TCA回路は循環反応なのでアセチルCoAさえ供給されれば反応が進んでいくが、回路内の中間産物の1つであるオキサロ酢酸(oxarloacetic acid)がアミノ酸合成の原料として使われるため、オキサロ酢酸の補充が必要である。
解糖系のピルビン酸からオキサロ酢酸をつくりTCA回路に供給する反応をオキサロ酢酸補充経路という。このような補充回路はアナプロティック経路(anaplerotic pathway)とよばれており、オキサロ酢酸補充経路はその代表的なものである。なお、糖尿病や飢餓状態でオキサロ酢酸の原料であるピルビン酸が不足すると、TCA回路の進行が低下してアセチルCoAの酸化が十分行われずケトン血症をまねく。
NursingEye
アルコールは、エタノール→アセトアルデヒド→酢酸と続く酸化反応で処理されるが、大量に飲酒した場合は、アセトインを生成する反応も加わる。この反応はビタミンB1を消費するので、大量飲酒が続くとビタミンB1欠乏でウェルニッケ脳症(Wernicke encephalopathy)を発症することがある。
※編集部注※
当記事は、2016年10月28日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
電子伝達系|栄養と代謝
⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版