点滴ルートの固定方法【5】|小児の手背に固定する場合
前回までは成人の場合での点滴ルート固定方法を取り上げました。
今回は、小児の場合についてご紹介します。
Vol.5 小児の手背に固定する場合
〔執筆〕 白石弓夏 看護師
〔監修〕 中谷佳子
聖マリアンナ医科大学病院
感染制御部 副師長
〔イラスト〕 かげ 看護師
点滴ルート固定で外せないポイント
さまざまなバリエーションを見ていく前に、今回も点滴ルート固定で最低限必要な条件を見ていきます。
- 針とラインがしっかり固定される
- ラインが閉塞しない
- 刺入部の観察ができる
これに加えて、小児の場合に留意すべきことは何でしょうか。
なぜ小児のルートは手背にとるのか
小児(特に、乳幼児~未就学児)のルートは手背にとるのが一般的です。
皮下脂肪が厚いため、前腕などの静脈がわかりづらいこと、血管が細いことが理由です。
また、前腕の神経に触れてしまったとしても、しびれや麻痺などの訴えがうまくできないため(刺入時に泣く場合が多いので)、手首付近は避けることも重要です。
(参考記事:手首付近はキケン? 静脈注射で6100万円の支払い命令)
小児のルート固定が成人よりも厳重になる理由
手背にルートをとると、手首を動かすことにより点滴が落ちにくくなるリスクや、針が抜けるリスクがあります。
そのため、関節を厳重に固定します。
小児の固定方法については現在も検討中
これまで、固定には主にシーネが用いられてきましたが、小児の行動を制限してしまうことや、拘束感による苦痛、皮膚トラブルのリスクなどから、「シーネが最善の方法なのか」については長年議論がなされています。
しかし、上述の原則である「針とラインがしっかり固定される」「ラインが閉塞しない」「刺入部の観察ができる」といった条件を満たし、費用面の課題も解決できる方法は、シーネのほかに多くはありません。
固定バンドなど、シーネを使わない方法をとれればいいのですが、そうもいかない現状を鑑みて、シーネを使う場合に推奨される方法を紹介していきます。
なお、シーネの交換時期等を含め、病院の方針やマニュアルを確認した上で実践してみてください!
シーネ選び
シーネ選びのポイントは、
・腕と同じくらいの太さ
・指先から肘の手前までの長さ
であることです。
手首の関節を固定するためには、手首から前腕にかけてある程度の長さがないと、シーネが不安定になります。
しかし、肘にかかると肘の可動域を狭めてしまうので、指先から肘より短い長さのシーネを選びます。
そして、手首の部分で少し折り曲げておきましょう。
手首の良肢位を保つための工夫です。
実際に患児の手に当てて、長さや角度を調整しましょう。
テープ固定
テープ固定のポイントは、
・針の部分は細いテープをたすきがけにするなど、抜けづらい工夫を
・刺入部にはガーゼクッション材を使用(角度が変わらないように/摩擦による痛みの緩和)
・ドレッシング材で補強
です。
刺入部は、無菌操作が原則です。
しかし小児の場合、透明ドレッシング材だけでは、刺入部を触ったり管を引っ張ったりして針が抜けるリスクがあります。
そのため、細いテープをたすきがけにして補強するケースもあります。
その後は、接続部のところにガーゼやクッション材を敷き、成人と同様に、透明ドレッシング材やテープなどで固定します。
シーネ固定1)基本
シーネで固定する際のポイントは、
・指の付け根、手首、肘の順番に、3点で固定すること
・親指はシーネから出し、ほか4本の指をシーネとの隙間がないように固定すること
・皮膚に過度なつっぱり(テンション)がかからないように注意すること
です。
3点をテープで固定したあと、シーネにズレがないか確認します。
シーネ固定2)ロールガーゼの使用
シーネを固定する際、テープのみで固定すると皮膚トラブルの原因となる場合があります。
そこで、肘側と手首はガーゼなどを当ててからテープで固定する方法も考えられます。
また、肌に当たる部分のみテープの裏面にさらにテープを貼るなど、粘着面が直接皮膚を傷つけない工夫をする病院もあるようです。
シーネは平らですが、腕は円形です。
そのため、腕とシーネが接する面に隙間ができやすいので、その隙間を埋めるようにガーゼを使う方法です。
シーネ固定3)包帯の使用
長期間、シーネをテープで固定していると蒸れて皮膚トラブルにつながるリスクがあります。
そこで、親指と指先が出るように包帯で巻いていきます。
包帯ではなく、イラストが入ったカバーなどを使う施設もあるようです。
シーネを使用しない場合
シーネを使用せず、点滴固定専用バンドを用いる方法があります。
点滴固定専用バンドを用いる場合には、シーネよりも行動が制限されず、皮膚トラブルのリスクが減ると言われています。
施設の方針を確認してみてください。
自己抜去防止のさまざまな工夫
小児の場合、自己抜去の防止も重要な観点です。
刺入部をいじってしまう患児も多いので、市販のプロテクターなどを使用する方法があります。
そのほかにも、包帯がずれて刺入部が見えないようにテープをたてに貼る方法や、自作のカバーを用いる方法など、施設によってさまざまな工夫がなされているようです。
おわりに:強く固定しすぎることにも注意を
小児の場合、発達段階などによって個人差が大きく、施設ごとにさまざまな工夫をしているのが現状です。
しかし、ガイドラインに沿った無菌操作と、最初に挙げた「外せないポイント」は守る努力をする必要があります。
また、自己抜去や患児の動きによって抜けてしまうことを恐れるあまり、強く固定しすぎなることにも注意が必要です。
行動制限につながっていないか、拘束感による苦痛を感じていないか、などに注意しながら実践してみてください。
■参考文献
1)日本褥瘡学会:医療関連機器圧迫創傷の予防と管理.第10章 小児:点滴固定用シーネ,2016年5月25日発行
2)山内紀代美・竹内恵子・神農祐子,他:小児の持続を点滴固定法の改良―シーネを使用しない固定法―,第38回日本看護学会論文集(小児看護),2007: p206-208.
3)名合理栄・中新美保子・鶴岡裕美,他:国内文献の概観からみた小児の点滴固定方法に関する検討,第38回日本看護学会論文集(小児看護),2007:p41-43.
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【監修者 プロフィール】
中谷 佳子(なかたに・よしこ)
1997年 聖マリアンナ医科大学病院 入職
2006年 川崎市立多摩病院(指定管理者 聖マリアンナ医科大学)へ異動
2008年 感染管理認定看護師 取得
2008年~ 感染対策専従看護師
2013年 東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科 修了(感染制御学修士)
2019年 聖マリアンナ医科大学病院 へ異動
2019年~ 感染制御部 副師長
2019年9月 特定行為研修修了
※最終更新日 2019/09/20
【イラスト:かげ】Twitter
総合病院で働き、絵を描く看護師です。医療の勉強に役立つ(てほしい)絵や仕事でのほっこり話などをTwitterでつぶやいています。
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
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