「おとなしくする」「カメラ目線をする」がポイント!|セラピードッグの訓練方法

災害救助犬&セラピードッグのおさんぽ日記【4】

南園彩子(Minamizono Ayako)
日本レスキュー協会・セラピードッグトレーナー

 

前回は海音がトイレなどの基本的なしつけをどうやって身に付けたかをご紹介しました。
今回は、セラピー訪問を行う上で必要な訓練についてご紹介します。ちなみに、こういった訓練は、前回紹介した基本的なしつけと同時に平行して行っています。

 

海音、「台の上でおとなしくする」を覚える
「おとなしく抱かれる」のも訓練
カメラ目線も訓練でできるようになる!

ちょこっと豆知識

Q ドッグセラピーには、具体的にどんな効果があるのでしょうか?

Q セラピードッグになるための試験はありますか?

 

 

海音、「台の上でおとなしくする」を覚える

セラピードッグには大型犬から小型犬までさまざまな種類がいます。
しかし、大きさによって訓練や訪問時の参加者の方との触れ合う方法はそれぞれ違います。

セラピードッグが訪問を行い、施設の方と触れ合うときは、車いすやいすなどに座った状態で触ってもらうことがほとんどです。
その際、小型犬は参加された方に抱っこしてもらうか、膝の上に乗せてもらうかします。大型犬の場合は4本足で立った状態か、「お座り」をした状態で触ってもらいます。

 

ところが海音の場合、種類は小型犬なのですが、お年寄りの方や子どもたちが抱っこするには少し体重が重く、とはいえ床に立った状態で触っていただくには低く…という問題がありました。

 

そのため、小型犬用のクッション生地でできている階段や台などを試してみましたが、台の上に上がることはできても、その上に海音が留まるに幅が小さかったり、訪問時に持っていくにはかさばったりと、なかなかちょうどいいものがありません。

 

悩んでいるうち、子どものおもちゃ入れなどに使うような入れ物を見つけました。
折りたたむことができ、中に収納ができて、60キロまでならふたの上に乗せることもできます。海音が上に乗るのにちょうど良い大きさで、海音の体重も当時は6キロと、重さの問題もクリアできました。

 

海音もすっぽり入れます。「これ、ワタシの?」


それから、その台の上に海音を乗せる訓練が始まりました。
海音は、台の上に乗るのは嫌がることなく、逆に自分から飛び乗ったりしていましたが、ハンドラーの指示で乗り降りできるよう、「アップ」という指示で少しでも台に乗ろうとしたり、乗れたときは思いっきりほめました。

 

台に乗れるようになると、今度は私が事務作業をするときに台をデスクの横に置き、海音はその台の上でじっとする訓練を行いました。
セラピー訪問の際、台の上から車いすやいすに飛び乗ったりしないようにするためです。

 

そういった訓練を繰り返すうち、海音は「台の上で大人しくいていると、良いことがある」と認識できるようになり、さらにその台の上に乗せておくと、訪問先で準備をしているときにも大人しく待てるようになりました。

 

台の上で伏せもできちゃいます。「ワタシ、おとなしく待てるよ!」

 

「おとなしく抱かれる」のも訓練

海音は重たいのでセラピー訪問時に参加される方に抱っこしてもらうことは少ないですが、ご希望があればしてもらうこともあります。
しかし、最初は、海音は抱っこされるのが苦手でした。
抱っこするとすぐに「離してー!」と言わんばかりに暴れていました。でも、暴れると、人も犬もケガをする危険性もありますし、参加された方に「嫌がっている」と思わせてしまうこともあります。
そのため、おとなしく抱っこできるようにしておくことが必要でした。

 

ただ、無理やり押さえつけ抱っこしてしまうと、暴れますし、よけい抱っこが嫌いになってしまいます。そこで、海音の「何にでも上ることが好きな点」を活かすことにしました。

 

上るのが好きな海音は子犬のころはサークルにもよじ上ってました。「やった!ここまで上れたよ!」

 

たとえば、おやつで誘導して人の肩の上まで上れるとおやつが食べられるということをゲームのようにして教えると、すぐに自分から上ってくるようになりました。

 

しかし、それだけではおやつを食べてしまうとまたすぐに「離してー!」となるため、おやつをあげながら、少しずつ抱っこする時間を延ばしたり、抱っこしたまま色んな場所へ行って景色を見せるなどしました。

 

すると、だんだんと嫌がらなくなり、抱っこされてもおとなしくしているようになりました。
もしかしたら、「抱っこされているほうが自分で動かなくてもいろいろ行けてラクだ!」と気付いたのかもしれません(笑)。今では、抱っこのままリラックスしてくれるようになりました。

 

カメラ目線も訓練でできるようになる!

 

セラピー訪問をした際によく希望されることの一つに、参加者の人たちと犬たちで一緒に写真を撮ることがあります。
このとき、セラピードッグはじっとおとなしくしていることは当然ですが、カメラ目線も大切になります。
そのため、海音にカメラ目線をさせるため、初めのうちはおもちゃやおやつを持って撮影する人の後ろに回り、海音がそれを見ることでカメラ目線になるようにしていました。
そして、うまくカメラ目線ができるようになれば、写真を撮った後に必ずおやつをあげました。

 

そのうち、だんだんカメラ自体を理解するようになり、今ではおもちゃやおやつを使わなくても、名前を呼ぶだけでカメラ目線をしてくれるようになりました。
とはいえ、今も写真をとった後は必ずおやつを与えています。海音は「写真を撮った後にはおやつがもらえる!」という期待感を込めてレンズに視線を送っているようです。

 

今はすっかりカメラ目線をくれるようになりました。「それ持ってるのおやつ?」

 

さらに、周りで見ている方にも楽しめるように、犬たちにカチューシャやリボンなどを付けて写真を撮る場合があります。
最初のうちはリボンなどをつけると取ってしまったり、かじったりしていました。なので、遊んでいるときにつけたり、少しでも身に着けたままでいられたらほめるなどし、普段から慣らしておきました。

 

上で説明したような、カメラ目線の訓練で「おとなしくしてるとおやつがもらえる!」という理解も働いたのでしょうか、そのうち、リボンなどを付けても、取らずにおとなしくしているようになりました。

 

ドッグセラピーには、具体的にどんな効果があるの?

ドッグセラピーは、人とセラピードッグが触れ合ったり、交流することで人の心と身体を癒す働きをします。具体的には、以下のような効果を目的に活動をしています。

・身体的効果
脳性麻痺リハビリを必要としている方がセラピードッグと触れ合うなどのプログラムを通して自然と自発的に身体を動かすようになる効果があります。

・心理的効果
要介護者や障がいのある方など身の回りの世話を他の人にされている方の中には「自分ではもう何もできない」と考えてしまう方がいます。
そのような方々がセラピー訪問で訪れた犬におやつをあげたり、ブラッシングしたりするなどの世話を行うことにより、「自分もまだ誰かの役に立てる」と自信を取り戻す効果があります。

・社会的効果
セラピードッグが施設を訪問すると、その施設にいる方々は交流の場に出てこられます。そして、セラピードッグとのさまざまなレクリエーションを通して周囲の方々とコミュニケーションをとるきかっけとなる効果があります

 

セラピードッグになるための試験はあるの?

それぞれ団体により定められた基準はいろいろありますが、当協会の試験は潜在性テストと適正テストの2種類あります。この試験をパスすると、セラピー訪問に行くことができます。

 

当協会の試験は、まず、潜在性テストを犬のみに行い、その犬が生まれながらに持っている性格などを見ます。そして、潜在テストに合格したらハンドラーとともに適正テストを行います。

 

2つの試験の内容はほぼ同じで、以下のようなものです。

  • ・おもちゃで遊ぶ際に飛びつかないか、おもちゃで遊んでいるところに手を出しても唸ったりせず、人にわたせるか
  • ・拍手や怒声、奇声などに対してどのような反応をするか
  • ・杖や車いすを近くで見せてどのような反応をするか
  • ・おやつを与える際に飛びつかないか、「待て」ができるか、手で与える際に手にが当たらないように食べることができるか
  • ・全身を触ってもおとなしくしているか
  • ・ほかの犬と対面させるとどのような反応をするか

 

好きなおもちゃも取るときに歯が手に当たりそうなら、取らずにがまんします。「歯があたったら危ないからね!ガマンできるよ!」

 

これらの試験では、基本的に犬がストレスを感じていないか、怖がっていないか、噛んだり唸ったりなどの攻撃性はないかを見ます。
適性テストでは、潜在性テストで苦手だったことが、ハンドラーがいればできているか、ハンドラーがきちんと担当犬について理解しているかを見ます。

 

おやつはお行儀よく、手からしか食べません。「周りにおやつが落ちてるよ」

 

 

【南園彩子 みなみぞの・あやこ】

認定NPO法人日本レスキュー協会所属、セラピードッグトレーナー。
介護などの福祉の仕事と、犬と一緒に活動できる仕事に興味を持っていた。専門学校の研修で当協会のセラピードッグの活動を知り、自分のやりたいことが両方兼ね合わしている仕事だと思い、ボランティアを経て2012年入職、現在に至る。

 

日本レスキュー協会 Japan rescue
認定NPO法人日本レスキュー協会

災害救助犬(レスキュードッグ)の育成・派遣を中心に世界規模で活動するNGO団体。国際救助機関として、災害時には国内外問わず、広く活動している。
また、災害救助活動のほか、セラピードッグの育成・派遣や捨て犬・捨て猫の保護など動物福祉・愛護活動も行っている。

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