気管挿管時、リドカインスプレーは、使う?使わない?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は気管挿管時のリドカインの使用について解説します。
生田正美
神奈川県立足柄上病院 看護局/救急看護認定看護師
気管挿管時、リドカインスプレーは、使う?使わない?
使用を避ける傾向にあります。
①リドカインによるショック、②過剰投与による中毒、③気管チューブの変性などが起こりうるためです。
気管挿管時、気管チューブにスタイレットをセットする際、スタイレットの滑りをよくする目的で、リドカイン(キシロカイン®)スプレーを噴霧する習慣があります。
しかし、近年、リドカインスプレーの使用は避ける傾向にあります(図1)。
リドカインスプレーを避ける理由
1 リドカインによるショック
リドカインによるアナフィラキシーショックが起こる可能性があります。
アナフィラキシーはI型の即時型アレルギー反応です。全身のアレルギー反応で、数分~30分程度で症状が現れます。死亡例の多くは30分~1時間以内に症状が出現しています。
起こりうる症状は、皮膚・粘膜症状、呼吸器症状(気道閉塞・喘鳴)、循環動態変化(血圧低下・脈の異常)、意識障害、消化器症状などです。
2 過剰投与による中毒
リドカインは、気管からすみやかに吸収されて血中濃度を上昇させ、中毒を起こす可能性があります。
リドカインによる心血管系や中枢神経系への影響として、徐脈、不整脈、血圧低下、呼吸抑制、意識障害などがあり、心停止に至ることもあります。
3 気管チューブの変性
リドカインは、気管チューブの主成分であるポリ塩化ビニルを変性させる可能性があります。その結果、カフの損傷やマーキングの消失を起こす危険があります。
加えて、変性したポリ塩化ビニルが痰と反応して気管チューブ内に付着し、内腔を狭める恐れもあります。
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以上の理由により、使用を避ける傾向にはありますが、習慣的に使われている場合もあります。看護師は危険性を十分に理解しておく必要があります。
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引用・参考文献
1)キシロカイン®ポンプスプレー8% 添付文書
2)日本中毒学会 編:急性中毒標準診療ガイド.じほう,東京,2008:130‐133.
3)卯野木健,木下佳子,水谷太郎,他:気管内吸引時のキシロカインスプレー反復噴霧は気管チューブ内壁の摩擦力を増大させる.人工呼吸 2003;20(2):146.
4)日本内科学会認定医制度審議会救急委員会 編:内科救急診療指針.日本内科学会,東京,2011:229‐234.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社