開胸術後の患者が心停止。「胸骨圧迫は禁忌」なら、何をすればいい?

『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載。一部改変。
今回は開胸術後の心肺蘇生について解説します。

 

松下聖子
済生会熊本病院 集中治療室主任/集中ケア認定看護師

 

開胸術後の患者が心停止。「胸骨圧迫は禁忌」なら、何をすればいい?

原因が心室性不整脈なら除細動、徐脈性不整脈ならペーシングを行います。これらが1分以内に実施できない場合は胸骨圧迫が必要です。

 

 

通常、CPA(心肺停止)であれば、胸骨圧迫の実施を最重要視します。しかし、開胸術後患者への胸骨圧迫は、胸郭内構造物や心血管縫合部の外傷リスクが高くなるため、必要最小限にする必要があります。

 

欧州心臓・胸部外科学会(EACTS)では、心臓術後に特化した蘇生ガイドライン(EACTSガイドライン)を発表しています(図1)。

 

図1 EACTSガイドラインにおける心停止への対応

EACTSガイドラインにおける心停止への対応

Dunning J, Fabbri A,Kohl PH, et al. Guideline for resuscitation in cardiac arrest after cardiac surgery. Eur J Cardiothorac Surg 2009;36:3-28.

 

開胸術後の心肺蘇生のポイント

1 胸骨圧迫を即座に行うべきではない

胸骨圧迫に伴う二次性外傷(血管縫合部の破裂、大量出血)を最小限にするため、即座に胸骨圧迫を行うことはありません。

 

ただし、1分以内に除細動またはペーシングが行えない場合、また緊急再開胸が行えない状況であれば、胸骨圧迫を躊躇すべきではありません。心停止後は分単位で神経学的転帰が悪化するためです。

 

2 心室性不整脈からの心停止では、まずは除細動を行う

除細動は、回数を増すごとに成功率が下がります。最大3回が望ましいとされています。

 

3 徐脈性不整脈からの心停止では、まずはペーシングを行う

心臓術後患者の多くには、心外膜ペーシングリードが挿入されています。高度の徐脈心静止では、すぐにペースメーカを装着し、ペーシングを行えば、心拍出量が回復する可能性があります。

 

4 ルーチンでアドレナリンを投与しない

盲目的なアドレナリン投与は、自己心拍再開後、重度の高血圧から大量出血を引き起こす危険性があるため、実施を避けます。

 

5 蘇生の見込みが乏しい場合、早期に再開胸またはVA-ECMOを行う

再開胸のメリットは、構造的な原因(心タンポナーデや出血など)が早期に解除できること、また、胸骨圧迫と比べて開胸心マッサージの有効性が高いことが挙げられます。

 

心肺蘇生が5~10分以上必要と予測される場合、緊急再開胸やVA-ECMO[ブイエーエクモ](体外式膜型人工肺)を選択肢の1つとして考慮します。

 

ワンポイント

●医療現場では、電気的除細動のことをDCと呼ぶことが多いです。カウンターショックという言葉も用いられますが、これは「除細動(defibrillation)」と「カルディオバージョン(cardioversion)」を合わせた意味で用いられています。

 

●JRC(日本蘇生協議会)の蘇生ガイドラインでは、除細動を電気ショック、カルディオバージョンを同期電気ショックと表記しており、近年は、このガイドラインに沿った表記に統一されつつあります。

 

 

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引用・参考文献

1)神尾直,松永渉,大塚祐史:胸骨正中切開術後の心肺蘇生.インテンシヴィスト 2016;8(1):49-59.

2)Dunning J,Fabbri A,Kohl PH,et al. Guideline for resuscitation in cardiacarrest after cardiac surgery. Eur J Cardiothorac Surg 2009;36:3-28.

3)American Heart Association:心肺蘇生と救急心血管治療のためのガイドライン アップデート2015ハイライト.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社

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