医師指示なしで、看護師が行える急変対応の範囲は?酸素投与?12誘導心電図?

『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は看護師が行える急変対応の範囲について解説します。

 

安彦 武
東北大学病院 心臓血管外科/診療看護師、救急看護認定看護師

 

医師指示なしで、看護師が行える急変対応の範囲は?酸素投与?12誘導心電図?

原則として「BLSまで」です。酸素投与と12誘導心電図は、医師の包括的指示のもとで実施します。

 

 

臨床で、患者の急変を発見する頻度が最も多いのは看護師です。急変対応の遅れは、患者の生命予後を悪化させる可能性があるため、看護師には、迅速かつ的確な対応が求められます。


では、急変時に看護師が独自の判断で行える行為には、どんなものがあるでしょうか?

 

 

目次に戻る

BLSは医師指示不要

医行為が含まれる「診療の補助」を、看護師のみの判断で行うことは禁止されています。しかし「緊急時の手当て」はこの限りではなく、急変対応そのものが禁止されているわけではありません (詳細は「医師の指示がなくても、看護師の判断でAEDを使っていいの?」) 。


とはいえ、現時点で「急変時、看護師は、どのような行為を、どの段階で行ってよいか」という全国的に統一された基準はありません。このような状況のもと、看護師のみの判断で実際に行える急変対応は、BLS(一次救命処置)と考えるのが妥当でしょう(図1)。

 

図1 BLS・ALS・ROSC後の対応

BLS・ALS・ROSC後の対応

 

1 BLSは非医療者でも実施できる

心肺蘇生法の教育は一般市民にも浸透し、患者が心停止だった場合に行われるCPR(心肺蘇生)やAED(自動体外式除細動器)使用は、一般市民でも実施できるようになりました。


よって、これらが含まれるBLSは、医療知識をもつ看護師であれば、実施して当然です。

 

2 ALSは包括的指示のもとで実施

BLSに続くALS(二次救命処置)、そしてROSC[ロスク](自己心拍再開)後のモニタリングと管理には、薬剤や高度な医療機器の使用、低体温療法や再灌流療法など、専門的な知識と高度な技術を要する行為が含まれています。そのため、看護師の判断で実施できると断言はできません。


もちろん、ALSの実践において、看護師は医療チームの重要な一員です。ALSのトレーニングを受けた看護師も多いでしょう。しかし、看護師は絶対的医行為には踏み込めません。


各施設で患者が急変した場合に、どのように対応するかを医師と決めておく、また、そのような事態に備えて患者ごとに包括的指示を受けておくなど、あらかじめ決められた方法に従って看護師が判断し、実施することが必要です。


看護師は、法律のもとで臨床看護実践を行わなければならないのです。

 

 

目次に戻る

急変時、酸素投与は必要?

心停止または低循環の場合には、酸素投与が必須です。なぜなら、酸素が細胞に行きわたらないと、生体は生命を維持できないからです。


日本蘇生協議会による JRC蘇生ガイドライン2015では「CPR中は可能な限り高い吸入酸素濃度を選択する」1)とされています。100%酸素とそれ以外の酸素濃度とを直接比較した研究はありませんが、CPR中のPaO2動脈血酸素分圧)が高いほどROSCが得られやすいためです1)


ちなみに、JRC蘇生ガイドライン2015では、ROSC後は「心停止後に自己心拍が再開した成人において、いかなる状況においても、低酸素症は回避する。また高酸素症も回避するが、SaO2(動脈血酸素飽和度)またはPaO2が確実に測定されるまで100%酸素吸入濃度を使用する」2)とされています。


つまり、高濃度酸素投与によって懸念される二酸化炭素の蓄積は、心拍が再開し、循環動態が安定した状態で考えればよい、ということです。

 

 

目次に戻る

いつ12誘導心電図をとる?

12誘導心電図は、わずか数分(計測時間は数十秒)で、皮膚に電極をつけるだけで実施できる、簡単で患者に苦痛を与えない検査です。


ただし、12誘導心電図は、あくまで心臓からの電気信号を描写するだけなので、心臓疾患か否かなどを100%診断できるわけではありません。急性冠動脈閉塞による心停止でも、ST上昇や左脚ブロックなど、典型的なSTEMI[ステミ](ST上昇型心筋梗塞)所見を示さないこともあります。


そうはいっても、突然の心停止の可逆的な原因として、ACS(急性冠症候群)や致死的不整脈の鑑別は重要です。


搬送前の12誘導心電図を記録して病院へ事前通知すると、STEMI疑いの患者の死亡率改善・再灌流までの時間短縮が可能になる3)との報告もあり、12誘導心電図検査をできるだけ早く行う必要性は、疑いようがありません。


しかし、12誘導心電図は、数分とはいえ、電極を貼付してリードを接続するまでに時間がかかります。また、検査中は、筋電図や外部からのノイズが描出されないよう、患者に刺激を与えないようにしなければなりません。


計測時間そのものは数十秒だとしても、正確な心電図を記録するために不必要な刺激を避けなければならない時間があることから、12誘導心電図をとるタイミングは「ROSC後で循環動態が保たれているとき」となります。


自己心拍が再開していないにもかかわらず、12誘導心電図を優先し、CPRを中断するようなことは、決して行ってはいけません。
 

 

目次に戻る

引用・参考文献

1)日本蘇生協議会 監修:JRC 蘇生ガイドライン 2015.医学書院,東京,2016:54.

2)日本蘇生協議会 監修:JRC 蘇生ガイドライン 2015.医学書院,東京,2016:115-117.

3)日本蘇生協議会 監修:JRC 蘇生ガイドライン 2015.医学書院,東京,2016:295-299.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

> Amazonで見る   > 楽天で見る

 

 

[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社

SNSシェア

看護ケアトップへ