エンゼルケアの手順・注意点・ご家族との関わり方

エンゼルケアは、患者さんの尊厳の保持とご遺体の保護、ご家族のケアを目的に行います。

 

この記事では、看護師が行うエンゼルケアの手順と注意点、ご家族との関わり方について解説します。

 

監修:ナースの大森ちゃん(緩和ケア病棟 看護師)

 

 

エンゼルケアの手順は、1.ご家族へのエンゼルケアの説明、2.必要物品の準備、3.口腔ケア、4.医療器具(挿入物)の抜去と創傷のケア、5.眼と鼻のケア、6.洗髪・整髪、7.脱衣・全身清拭・着替え、8.肌の整え・髭剃り・化粧(エンゼルメイク)、9.冷却、10お見送りの順番で行います。この順番は、患者さんの状況・状態によって、順番が変わることがあります

 

1 ご家族への説明

Point

エンゼルケアを行う意図をご家族に説明し、同意を得る

エンゼルケアは、その方らしい顔色や装いに整えられるように、ご家族の意向を確認しながら行います。

そのため、ご家族に同席してもらうことが多いです。

 

エンゼルケアを実施する前に、ご家族に下記について説明・確認を行います。

 

説明すること

  • エンゼルケアは、その方らしさを大切にした退院の身支度であること
  • 洗髪や清拭、着替えなど、これから行うケアの内容と流れについて
  • 清拭や着替えなど、ご家族ができそうなケアを行う際には、一緒にケアすることを希望されるかどうか、看護師から声をかけさせていただくこと

 

確認すること

  • ご家族が、最期に患者さんへしてあげたいことはあるか(例:好きだったお酒で口を湿らせてあげたい など)
  • 最期に着せてあげたい衣服はあるか(お気に入りの服などを持参されているか)
  • 宗教上の理由や地域の慣習などによって、希望するケアがあるか
  • 葬儀社の手続き状況や、退院までの時間

 

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2 必要物品の準備

エンゼルケアに必要な、主な物品は下記のとおりです。

 

表1主な必要物品

エンゼルケア全般で使用するもの 看護師用のガウン、手袋、マスク、ガーゼ、タオル、廃棄物を処理する袋、ティッシュ など
口腔ケア スポンジブラシまたは歯ブラシ、ガーゼ、綿棒、水の入ったコップ など
医療器具(挿入物)の抜去と創傷のケア 創傷の手当や医療器具の抜去に必要な物品、創部保護用のフィルム材、包帯、絆創膏 など 
眼と鼻のケア 綿棒、注射器(眼内の洗浄用)、ガーゼ、お湯(水) など
洗髪・整髪 リンスインシャンプー、お湯を入れるボトル、ドライヤー、ヘアブラシ、お湯(水) など
全身清拭・着替え 清拭用のお湯、保湿剤、着替えの衣服 など
爪切り 爪切り(爪やすり)
肌の整え・髭剃り・化粧(エンゼルケア) ご遺体専用メイクキット、クレンジングクリーム、乳液、T字剃刀(電気シェーバー)、シェービングクリーム など
冷却 保冷剤、氷、ビニール袋、背部冷却用のアルミシート など

 

注意点 スタンダードプリコーション(標準予防策)による感染対策

エンゼルケアの感染対策は、スタンダードプリコーション(標準予防策)で行います。

 

ご家族がケアに参加する場合は、マスクと手袋を着用してもらうようにします。

 

なお、患者さんが新型コロナウイルスに感染していた場合は、厚生労働省・経済産業省からガイドラインが示されているため参考にしてください。

 

詳しくは→スタンダードプリコーション(標準予防策)|いまさら聞けない!ナースの常識【17】

 

詳しくは→新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方及びその疑いがある方の処置、搬送、葬儀、火葬等に関するガイドライン(令和5年1月6日(第2版))

 

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3 口腔ケア

Point

死後1~3時間1)で顎部は硬直するため、口腔ケアは優先的にする!

口腔内が出血するような強いブラッシングはしない

臭気の発生予防を目的に、口腔ケアを実施します。

 

歯ブラシやガーゼの使用など、患者さんが入院中に行っていた口腔ケアの方法を参考に実施します。

 

手順  ※義歯がある場合は最初に外しておき、口腔ケアが終わったら装着します。

  1. 1患者さんの口を開き、優しく歯(歯間)をブラッシングします。
    口腔内や歯茎から出血すると止血が難しいため、注意してケアを行います。
  2. 2スポンジブラシで口蓋、舌の表裏、喉の奥まで、きれいに汚れを取り除きます。
  3. 3指にガーゼなどを巻き、口腔内をきれいに拭き、水分を取ります。

 

詳しくは→エンゼルケアにおける口腔内ケア | エンゼルケア【1】|動画でわかる看護技術|看護roo!

 

ご遺体の口を閉じる方法

丸めたタオルを顎の下に挟む、口が閉じるように顎から支える、患者さんの状態によっては口が閉じないこともあります

 

口(口唇)だけを触って閉じようとするのではなく、顎を支えながら口を閉じます。

 

具体的には、口腔ケアを行った後、患者さんの枕を少し高くして、丸めたタオルを顎の下に挟みます

 

こうしておくと、顎部は死後3時間程度で死後硬直し、患者さんの口が閉じた状態を維持しやすくなります。

 

死後硬直となり、口が閉じているのを確認したら、タオルを取ります。

 

※以前はやむをえず、患者さんの頭頂部と顎をタオルで巻いて口を固定する方法がとられることがありましたが、顔面の膨張や身体拘束の観点から、現在では行いません。

 

 

COLUMN ご遺体の変化

ご遺体は、時間の経過とともに、死後硬直や乾燥、腐敗が進行します。

 

看護師はご遺体の変化を理解した上で、エンゼルケアを行うことが大切です。

 

ご遺体の変化と時間経過の目安は、下記のとおりです1)

 

顔の扁平化:死後直後~

蒼白化・死斑:蒼白化は30分~、死斑は1時間~

皮下出血:1時間~

顔の鬱血:3時間~

筋の弛緩・硬直:下顎は1~3時間、全身は3~6時間

乾燥:3時間~

腐敗:6時間~

褥瘡部変化:12時間~

※時間には個人差があります。

 

 

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4 医療器具(挿入物)の抜去と創傷のケア

Point

ご遺体の皮膚は脆弱で、出血すると止血しづらいため、優しく丁寧に器具を取り外す
中心静脈カテーテルの取り扱いは、施設のマニュアルに準じる

看護師は医療器具や点滴・チューブ類を取り外し、創傷部を縫合する場合は医師が行います。

 

中心静脈カテーテル

中心静脈カテーテルの取り扱いについては、「中心静脈カテーテルを抜去しない方法」と「中心静脈カテーテルを抜去する方法」があり、施設ごとに対応が異なります。

施設のマニュアルに準じて対応するようにしましょう。

 

中心静脈カテーテルを抜去しない場合2)

手順 

  1. 1フィルム材を、丁寧に剥がします。
  2. 2カテーテルは抜去せず、体表から1~2cmのところでカットし、その断面をボンドやパテなどで栓をします。

    先端1~2cmを残して切断し、切断部に栓をする、カテーテルは抜去しない出典:伊藤茂.ここを間違えない!エンゼルケア ご遺体への対応、実際はこうする!-図4 遺体からの漏液を防ぐアイデア「部分抜去法」-.エキスパートナース(2015年11月号).照林社,2015,Vol.31 No,13,p.86

  3. 3身体に残ったカテーテルをガーゼで覆い、ポリウレタンフィルム材を貼ります。
  4. 4肌色のテープを上から貼り、目立たないようにします。

 

※中心静脈カテーテルを完全に抜去すると、抜去孔が開放されたままになり、抜去部位から体外への漏液や、皮下に血液が浸潤する可能性があるため、部分抜去にします。

 

ただし、施設によっては、以下のように完全にカテーテルを抜去する場合もあります。

 

中心静脈カテーテルを抜去する場合3)

手順 

  1. 1フィルム材を、丁寧に剥がします。
  2. 2カテーテルを静かに抜去します。
  3. 3抜去部位にガーゼと幅広テープ(伸縮性粘着包帯)を当てて、圧迫固定をします。
     ※皮下に血液が浸潤し、溜まるスペースを作らないようにします。
  4. 4幅広テープ(伸縮性粘着包帯)の上に、ポリウレタンフィルム材を貼ります。
  5. 5肌色のテープを上から貼り、目立たないようにします。

 

 

末梢静脈カテーテル

手順 

  1. 1フィルム材を丁寧に剥がします。
  2. 2針を抜きます。
  3. 3刺入していた箇所をガーゼで覆い、上からポリウレタンフィルム材を貼ります。
  4. 4肌色のテープを上から貼り、目立たないようにします。

 

注意点

末梢静脈カテーテルは、穿刺孔が小さく体液の漏れるリスクが低いため、カテーテルを抜去します。

 

 

皮下埋め込み型ポート(CVポート)

手順 

  1. 1ヒューバー針が抜けてしまわないように固定しながら、フィルム材を剥がします。
  2. 2CVポート本体にあるヒューバー針を抜き、アルコール綿で拭いて消毒します。

 

 

気管切開部

手順 

  1. 1気管切開部のチューブとガーゼを外し、粘膜を傷つけないようにそっと痰を吸引します。
  2. 2創部と周囲を消毒して、切開した部分がしっかり密閉されるようにテープを貼ります。
  3. 3乾燥を防ぐために、テープを貼った箇所の上にフィルム材を貼ります。
  4. 4肌色のテープを上から貼り、目立たないようにします。

 

注意点

腐敗の進行によっては、後に肺から臭気が発生し、気管切開部から漏れることがあります。
臭気が漏れないよう、しっかりと密閉しましょう。

 

 

心電図

手順 

皮膚が剥がれないよう注意して、電極シールを外します。

 

 

ストーマ

手順 

  1. 1ストーマ袋(パウチ)を、皮膚が剥がれないように注意して外します。
  2. 2洗浄剤や泡立てた石鹸をストーマ周辺につけ、皮膚へ負担をかけないよう優しく洗浄します。
  3. 3ガーゼなどを当てて、ストーマ周囲の皮膚の水分をしっかり取り除きます。
  4. 4新しいストーマ袋(パウチ)をつけます。

 

注意点

ご家族がストーマを閉じることを希望する場合は、医師に縫合の依頼をします。

 

 

COLUMN 葬儀会社へのペースメーカ装着の連絡

ペースメーカを装着した患者さんが亡くなった場合、ペースメーカをそのまま残すか、取り外すかをご家族に確認します。

 

ご家族の希望や地域によっては取り外しを行うこともありますが、最近では、ペースメーカをそのまま残すケースが増えてきました。

 

この場合、火葬時に機器が破裂し、大きな破裂音やご遺体の骨が損傷する可能性があるため、葬儀会社にペースメーカを装着していることを伝える必要があります

 

なお、ペースメーカに関わる情報は、患者さんの個人情報にも関わるため、看護師ではなく、ご家族から葬儀会社に伝えてもらうようにします。

 

 

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5 眼と鼻のケア

眼のケア

眼脂(目やに)から臭気が発生するため、眼のケアを行います。

 

手順 

  1. 1目尻と目頭にある眼脂(目やに)を、綿棒で拭き取ります。
  2. 2まぶたを開けて、湿らせた小さいガーゼまたは水を入れた注射器などで、眼内を洗浄します。
  3. 3患者さんのまぶたを、優しく下します。

 

 

鼻のケア

手順 

鼻腔内に汚れがあれば、小さいガーゼか綿棒で拭き取ります。

 

注意点

詰め物では体液の漏れを防ぐことはできないため、鼻への詰め物は行いません。

 

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6 洗髪・整髪

Point

ドライヤーの風により頭皮や顔、皮膚が乾燥しないように注意!

洗髪・整髪は、ご家族も参加しやすいケアです。

患者さんの髪の毛の汚れをとり、清潔感のある髪型に整えます。

 

手順 

  1. 1泡立てやすいようお湯で髪の毛を濡らし、頭にリンスインシャンプーをつけます。
  2. 2頭皮を傷つけないよう注意して、シャンプーを泡立て、優しく洗髪します。
  3. 3泡と汚れをタオルで拭き、お湯で髪の毛を洗い流します。
  4. 4頭皮と髪をタオルで拭き、ドライヤーで乾かします。
  5. 5ブラシでとかして、自然な髪型に整えます。

 

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7 脱衣・全身清拭・着替え

Point

側臥位は、背中を清拭するときだけにする(体液や排泄物が漏れるのを防止)
胸や陰部はタオルで隠して、プライバシーに配慮する
圧迫によって皮膚に傷が生じることがあるため、衣服は締め付けないようにする

患者さんを清潔な身体にするため、全身清拭を行いながら、並行して着替えも行います

 

清拭はご家族も参加しやすいケアで、ご家族が患者さんに直接触れることができる、貴重な機会でもあります。

 

手順 

  1. 1仰臥位の状態で、可能な範囲まで脱衣し、清拭、陰部洗浄をします。
  2. 2着替えの衣服を、可能な範囲まで通します。
  3. 3側臥位にして、背部清拭をします。
  4. 4患者さんを仰臥位に戻して、反対側へ側臥位にして、拭けなかった部分を清拭します。
  5. 5残りの衣服を通します。

 

注意点

  • 時間の経過とともに皮膚が弱くなるため、強く拭かず、そっと当てる程度の強さで拭くようにします。
  • 清拭後は、乾燥対策のために乳液などで保湿します。
  • スーツのジャケットなど、伸縮性の乏しいものは、上半身を起こして袖を通す方が着せやすいです。
  • ご遺体の腐敗進行を抑える目的で、着替えの際か着替え後にご遺体の冷却が必要です。詳しくは冷却を参照してください。

 

 

COLUMN ご家族による背中の清拭

背中には、患者さんの体温(温かさ)が残っていることがあります。

 

ご家族が清拭への参加を希望される場合は、背中を拭いてもらうと、ご家族が患者さんの最期の温もりに触れる機会にもなります

 

 

手浴・足浴・爪切り

ご家族の希望や、患者さんが手浴・足浴を好んでいたなどがあれば、手浴、足浴、爪切り(やすり)を行うことがあります。

 

乾燥や、爪切りによる出血に注意してケアを行うようにしましょう。

 

 

着替えの衣服について

事前に確認した際に、ご家族から希望する衣服があった場合は、その服装に着替えます。

 

最近では、洋装に着替えることが一般的で、男性はポロシャツやスーツ、女性はワンピースなど、普段着を希望される方が多いです。

 

持参した衣服には、ご家族の想いや思い出が詰まっています。

大切に取り扱うようにしましょう。

 

衣服のボタンをかける、靴下を履かせるなど、患者さんの着替えは、ご家族も参加しやすいケアです。

 

注意点

患者さんのプライバシーに配慮しながら、着替えます。

 

 

COLUMN 和服(着物)の着替え

ご家族が、和服(着物)への着替えを希望することもあります。

 

その場合は、和服(着物)への着替えを経験したことがある先輩看護師にもケアに加わってもらい、着替えをするといいでしょう。

 

 

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8 肌の整え・髭剃り・化粧(エンゼルメイク)

肌の整え

Point

顔などを拭く際には、皮膚との摩擦が起こらないよう注意
水分と油分の両方を含む乳液は、ケアの時間短縮や乾燥対策にもなり便利

皮膚の汚れの除去を目的に、患者さんにクレンジングを行い、その後、乳液を塗り、乾燥を予防します。

 

クレンジングや化粧は、ご家族も一緒にできるケアの一つです。

 

手順 ※同時に髭剃りを行う場合は、⑤の手順の前に「髭剃り」の手順②から行います。

  1. 1クレンジングクリームを手に取り、患者さんの顔全体、首、耳になじませます。
  2. 2小鼻は汚れがたまりやすいため、指先で優しくクリームをなじませます。
  3. 3汚れが浮き出てきたら、ティッシュペーパーを軽く当てて、汚れを拭き取ります。
  4. 4クレンジングクリームを塗った箇所に蒸しタオルを当て、優しく拭いていきます。 
  5. 5乳液を手に取り、顔全体、耳、首になじませます。

 

注意点

ご家族に患者さんが苦しそうに見えないように、ティッシュペーパーやタオルを当てる時は、鼻孔は塞がないようにします。

 

 

髭剃り

表皮をはがさないよう注意しながら、髭の生えている方向に沿って優しく剃る、髭剃り後はタオルで拭いて保湿を忘れずに

手順 ※「肌の整え」の①~④を行った後に続けて行う場合は、「髭剃り」の①の手順は不要です。

  1. 1蒸しタオルなどを使用して、顔の表皮と髭に水分を含ませます。
  2. 2シェービングクリームを塗ります。
  3. 3刃の枚数の多い低刺激のT字髭剃りまたは電気シェーバーを使用して、髭の生えている方向に沿って髭を剃ります。
  4. 4剃った部分を蒸しタオルで拭き、乾燥しないように乳液などで保湿します。

 

 

注意点

死後の時間経過とともに、皮膚が弱くなるため、表皮を傷つけないように優しく剃ります。

 

 

化粧(エンゼルメイク)

Point

過度な化粧にならないように注意!

患者さんの顔は、死後30分経つと次第に蒼白化します1)

化粧をして血色を補い、患者さんの顔を自然な顔色に整えることで、ご家族のショックを少しでもやわらげることにつながります。

 

病院によって、化粧(エンゼルメイク)に関する方針や、準備している化粧品の種類が異なります。

ご遺体専用メイクキットがある場合はそれを使用し、ない場合は手に入りやすい化粧品などを使用すると良いでしょう。

 

患者さんによっては、自分の基礎化粧品や口紅などを持ってきている方もいます。

ご家族に確認した上で、患者さんの化粧品を使わせていただくと、より自然な顔色に整えることができるはずです。

 

詳しい手順→エンゼルメイク | エンゼルケア【2】|動画でわかる看護技術|看護roo!

 

注意点

日常的に自分で化粧を行っている方は、普段の感覚で必要以上に患者さんに化粧をしてしまうことがあります。

 

エンゼルメイクでは、自然な顔を意識しながら、化粧をするようにしましょう。

 

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9 冷却

臓器(胸部・腹部)を中心に冷却する

 

ご遺体の腐敗進行を抑える目的で、ご遺体の冷却を行い、臭気や漏液の発生を抑えます。

 

冷却のタイミング

着替えの際に、肌や下着の上に冷却材または氷を当てるか、着替えの後に、衣服の上から冷却材または氷を当てます。

 

冷却する箇所

臓器がある胸部と腹部を中心に冷却をします4)
背部の冷却には、アルミシートを使用します。

 

注意点

  • ご家族が「冷たくて可哀想」と思うことがあるため、冷却の必要性を説明し、同意を得た上で行うようにします。
  • 冷却は、ご遺体の腐敗を抑えるために早めに行ったほうがよいですが、エンゼルケアを開始してすぐに冷却剤をつけ始めると、ご家族がとまどうため、着替えのタイミングで行うようにします。

 

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10 お見送り

患者さんとご家族のお見送りをします。
葬儀会社がご遺体を引き取りに来るまでの対応は、施設のマニュアルに準じてください。

 

 

COLUMN 慣習として行われている習わしへの対応

慣習的な習わしは、ご家族の意向を確認した上で行う、死者らしい外見にする整え、顔に白い布をかぶせる、和服の逆さ合わせ、手を組ませる、胴ひもを縦結びにする

 

現在、看護師が行うエンゼルケアでは、「手を組む」「顔に白い布をかける」など、慣習的な習わし(死者らしい外見にする整え)は、行わないとする考え方が一般的です。

 

ご家族が慣習的な習わしを希望される場合は、看護師が対応するか、退院後に葬儀会社にて対応してもらうようにします。

 

 

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ご家族との関わり方

いつもよりもゆっくりとしたケアを意識する

患者さんが亡くなった直後のご家族は、現実の時間の流れよりもゆっくりとした時間の流れを体感しているといわれています。

 

看護師が普段行っているケアのペースでは、ご家族にとって速く感じることがあるようです。

 

口腔ケアは優先度を高めて速く行う必要がありますが、ご家族の様子にも注意しながら、一つ一つのケアを丁寧に行うことが大切です。

 

ご家族ができるケアを一緒にする

ご家族に、患者さんにしてあげたいことを聞いたり、ご家族ができそうなケアがあれば、一緒に行えることを伝えるようにしましょう。

 

患者さんの体温を感じることができるのは、病院(施設)だけです。

 

身体変化は箇所によって異なり、手は冷たくても、背中には体温が残っていることもあります。

 

「ご家族にとって今しかできないことは何か」「夫婦(ご家族)だけの時間をつくる」などを考えながら、エンゼルケアを行います。

 

患者さんに普段通りの声かけをする

患者さんに、これまでと同様に「温かいタオルを当てますね」「横向きにしますね」といった声かけをして関わると、ご家族にとっても嬉しく、安心にもつながります。

 

患者さんが亡くなって、「反応がなく、何を言っていいか分からない」と無言でエンゼルケアをするよりも、今まで通りの声かけ、関わり方を大切にするとよいです。

 

患者さんとのストーリーを伝える

ご家族がいないときに、入院中の患者さんとどのような会話をしていたのか、どのようなことを教えてもらったのかなどを伝えると、ご家族は患者さんの別の一面を知ることができ、大切な思い出になります。

 

エンゼルケアの最中に、ご家族と何を話したらよいか分からないという場合は、患者さんと話したことを思い出してみてください。

※ご家族が悲しんでいる最中は、無理にお話をする必要はありません。

 

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おわりに

エンゼルケアは、看護師が日頃行っている清潔ケアと大きく異なるものではありません。

 

しかし、ご遺体の変化を念頭に置いた対応や、ご家族の心情に配慮したコミュニケーションが必要になります。

 

慣れないうちは、施設のマニュアルを参考にし、先輩と一緒にエンゼルケアを行うようにしましょう。

 

手順や注意点を把握すると、少しずつご家族とコミュニケーションを取る余裕も生まれるはずです。

 

また、患者さんが亡くなることは、看護師にとってもつらい経験になることもあります。

 

つらさを一人で抱え込まず、患者さんの個人情報には配慮した上で、自身の悲しさやつらさについて話せる相手を見つけ、自分の心も大事にするようにしてください。

 

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看護roo!編集部 宮本諒介

 

 

 

 

参考文献

  • 小林光恵.ナースのための決定版エンゼルケア.学研メディカル秀潤社.2015.
  • 上野宗則編著.エンゼルケアのエビデンス!? : 死に立ち会うとき、できること.素敬.2011.
  • 安藤郁子・松尾 ミヨ子ほか編.ナーシング・グラフィカ 基礎看護学(3):基礎看護技術Ⅱ 看護実践のための援助技術.終末を迎えた後のケア.メディカ出版.2022.p.483-488.
  • 伊藤茂.ご遺体の変化と管理 : "死後の処置"に活かす.照林社.2009.
  • 伊藤茂.ここを間違えない!エンゼルケア 実際の対応はこうする!:エキスパートナース(2015年11月号).照林社.2015.Vol.31 No,13.85-96.

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