ハンセン(Hansen)病|抗酸菌症②

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回はハンセン(Hansen)病について解説します。

 

石井則久
国立療養所多磨全生園

 

 

Minimum Essentials

1らい菌による、皮膚と末梢神経を主病変とする慢性感染症である。

2痛覚、温度覚などの低下した皮疹である。

3ハンセン病薬を用いた多剤併用療法(MDT)を行う。

46ヵ月~数年間の内服治療を行い、後遺症を残さないようにする。

 

ハンセン病とは

定義・概念

ハンセン病はらい菌によって発症し、末梢神経を障害する。治療薬がなかった時代には、目に見える後遺症を残すことがあり、天刑病、業病などとよばれ、患者は偏見と差別にさらされてきた。

 

日本では「らい予防法」のもと、患者は収容・隔離され、家族や友人からも引き離された。病名や実名を伏せる者も多く、帰る家のない者も多かった。人権に配慮しない「らい予防法」は1996(平成8)年に廃止されたが、彼らの故郷は療養所にしかなかった。

 

医療関係者は、一般市民への啓発活動、偏見・差別の解消と病気の理解に努めることが求められる。国立ハンセン病資料館(東京都東村山市)で歴史を学ぶこともできるので、訪れてみてほしい。

 

原因・病態

らい菌が皮膚と末梢神経に浸潤し、皮疹や知覚障害、運動障害を起こす。らい菌の感染力はきわめて弱いため、乳幼児期の長期にわたる呼吸器感染以外はほとんど発病の可能性はない。

 

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

皮疹は紅斑、白斑、丘疹、結節、環状の紅斑など多彩である(図1)。かゆみはなく、知覚の低下などを認め、気付かないうちに外傷や熱傷などを負ってしまうこともある。

 

図1 ハンセン病(多菌型)

中央治癒傾向のある皮疹で、皮疹部の痛覚温度覚は低下している。

ハンセン病(多菌型)

 

検査

かゆみのない皮疹部の神経学的検査(触覚、痛覚、温冷覚、神経肥厚など)や、運動障害の検査を行う。次に皮疹部から皮膚スメア検査を実施する。皮膚や神経の病理組織学的検査(抗酸菌染色を含む)も行う。

 

らい菌は現在まで培養に成功していない。臨床、神経学的所見、皮膚スメア所見、病理組織学的所見などを総合して診断する。

 

ハンセン病は、多菌型(らい菌が多く、皮疹が多い)と、少菌型(らい菌が少なく、皮疹が少ない)に分類する。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

外来にてWHOの推奨する多剤併用療法(multidrug therapy:MDT)を行う。なお、外来での感染対策は標準予防策で良い。

 

合併症とその治療法

治療の前〜後のいずれの時期においても、急性の反応が出現する場合がある(らい反応)。皮疹の増悪とともに、神経痛や発熱などが出現する。後遺症を残すことがあるので、すみやかに医療機関に連絡するよう指導する。

 

治療経過・期間の見通しと予後

診断や治療が遅れると手・足などに変形・後遺症を残すので、早期診断、早期治療を心がける。

 

治療薬の内服は6ヵ月間(少菌型)から1〜2年間(多菌型)行う。治療を開始すると急速に菌が減少し、多菌型患者でも感染力はなくなる。

 

看護の役割

治療における看護

ハンセン病は、いまだ偏見・差別される場合がある。看護師はその点に配慮し、精神的なケアとプライバシーの保護をする。

 

年間数名の新患発生であるが、外国人患者もいるので、疾患の特徴(世界的に偏見・差別されている)や動向などを把握し、患者へ熱傷やケガの予防などの指導をすることで相互の信頼関係を築き上げる。

 

フォローアップ

ハンセン病は治癒する病気であるが、治癒後も皮疹の再燃、らい反応、神経障害などのフォローのため定期的(数ヵ月ごと)に通院するよう指導する。

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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