フリースタイル出産
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回はフリースタイル出産について解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
アクティブバース
アクティブバースとは、リスクの低い産婦が、医療の介入を最小限にとどめ、自然な力を発揮し快適な出産ができるように、自由に身体を動かし、自分の分娩方法を見つけ出すことで、産婦主体の分娩のことをいう。
産婦自身が「産む力」を引き出すために安楽だと感じる体位や動作を自由に取り入れて行う出産のことをフリースタイル出産という。
目次に戻る
フリースタイル出産の実際
1仰臥位
利点
◎医療処置がしやすい。
◎足への圧迫が少ない(血栓症の危険性が低下)。
◎会陰保護が容易。
欠点
◎娩出力の低下。
骨盤腔の状態
◎骨盤誘導線の力の方向が上向きになるため、胎児重力が無効になる。
仰臥位の普及はフランスから
Column仰臥位は、現在、病院での出産体位の主流であるが、分娩体位として導入したのは、1738年のフランスの宮廷医、Francois Mauriceauである。仰臥位が普及する以前は、分娩の進行や母体にとって安楽という理由から、座位や立膝位といった垂直姿勢での出産が主流であった。それに対し、仰臥位は、医療者にとって鉗子分娩や麻酔、会陰切開などの産科処置が行いやすい体位であること、また、Francois Mauriceauの宮廷医としての権威もあり、急速に普及していった。
2立位
利点
◎分娩第1期の子宮収縮の改善。
◎子宮動脈の血流が改善。
◎努責をかけやすい。
欠点
◎疲労しやすい。
◎子宮脱・外陰部浮腫の可能性。
◎分娩第3期の出血量の増加の危険性。
◎墜落分娩。
◎会陰保護が困難。
骨盤腔の状態
◎骨盤が前方に傾くことで子宮が前方に向き、胎児重力が有効になる。
◎骨盤誘導線の方向が下降してやや後方となる。
3膝胸位
利点
◎下大静脈の圧迫の負担が少ない。
◎臍帯下垂や脱出に対する圧迫が軽減できる。
◎会陰裂傷が少ない。
◎過強陣痛の抑制効果がある。
欠点
◎疲労しやすい。
◎出生直後に児を抱きにくい。
◎手足のけいれんが多い。
骨盤腔の状態
◎骨盤誘導線の力方向が胎児重力と反対の方向になる。
4側臥位
利点
◎会陰裂傷の防止。
◎産婦が休息しやすい。
◎後方後頭位の回転に有効。
◎子宮胎盤血流量の減少が少ない。
欠点
◎娩出力の低下。
◎産婦の表情がわかりづらい。
◎分娩時に足を保持する者が必要。
◎胎児心音が聴取しづらい。
骨盤腔の状態
◎骨盤誘導線の力方向が上向きになるため、胎児重力が無効になる(側臥位と同じ状態)。
5座位
利点
◎分娩第2期が短縮できる。
◎新生児との対面がしやすい。
◎子宮胎盤循環が良好に保たれる。
◎娩出力が有効。
◎会陰裂傷予防。
欠点
◎背中の支えが必要。
◎母体血圧が上昇しやすい。
◎墜落分娩。
◎外陰部の浮腫が生じやすい。
◎脱肛を生じやすい。
骨盤腔の状態
◎骨盤誘導線が水平に向かう。
◎骨盤径が増加する。
◎骨盤低筋群の弛緩。
体位による分娩第3期出血量
Column分娩第2期が短縮化され、娩出力が最も効果的とされる座位分娩は、仰臥位分娩に比べて分娩第3期出血が有意に少ないことが示されている(図3)。これは、分娩直後の子宮筋が十分な収縮力をもち、子宮への血液の供給量が保たれているためと考えられる。
6蹲踞(そんきょ)位
利点
◎娩出力が有効。
◎腹部内圧の増加により、胎児と骨盤誘導線が一致し、娩出しやすい。
◎胎児の下降と回旋を促す。
欠点
◎足の疲労。
◎墜落分娩。
◎母体血圧が上昇しやすい。
◎会陰裂傷の危険性の増加。
◎脱肛・子宮脱を生じやすい。
骨盤腔の状態
◎骨盤出口部の前後径が増加する。
7四つん這い
利点
◎陣痛の緩和がはかれる。
◎下半身を自由に動かすことができる。
◎子宮による大動脈の圧迫がない。
◎骨盤を自由に動かすことができるため、腹圧を調整しやすい。
◎児を股間から腹部に抱くことができるため、早期母子接触を行いやすい。
◎回旋異常が戻りやすい。
欠点
◎小陰唇の裂傷が生じやすい。
◎産婦と介助者の顔が反対であるため、互いの顔がみえない。
◎胎児心音が聴取しにくい。
◎下肢のしびれが生じやすい。
骨盤腔の状態
◎仙骨が持ち上がる。
◎骨盤出口部が広がる。
目次に戻る
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版