心筋血流予備量比(FFR) /冠攣縮薬物誘発試験|左心カテーテルの検査
『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は心筋血流予備量比(FFR) と冠攣縮薬物誘発試験について解説します。
湯浅 雪
新東京病院看護部
〈目次〉
心筋血流予備量比(FFR)
心筋血流予備量比(fractional flow reserve;FFR)は、圧センサーつきガイドワイヤー(プレッシャーワイヤー)で、冠動脈内圧を測定し、狭窄部位の遠位部(Pd)と近位部(Pa)の圧を比で算出し、評価します(図1)。
アデノシン(ATP)を投与し、毛細血管を最大拡張して行います。冠動脈造影検査(CAG)にて狭窄の程度が中等度の場合、狭窄が心筋虚血をきたしているか否かを客観的に評価することができます。
FFR値(Pd÷Pa)0.80以下は心筋虚血があると判断されます。
大動脈弁狭窄症(AS)では遠位部(Pd)、大動脈弁閉鎖不全症(AR)では近位部(Pa)が正確に測定されない場合があります。また、頻脈や心房細動(AF)では拍動の影響により、圧が不安定となる場合があります。
カフェインは、アデノシンの効果を減弱させてしまいます(カフェインとアデノシンの構造体が類似しているため)。FFR施行が予測される場合、術前24時間のカフェイン摂取を禁止する必要があります。
アデノシンの代わりにパパベリン塩酸塩の冠動脈注入を行うことがありますが、この場合、QT延長による心室細動の出現に注意する必要があります。
冠攣縮薬物誘発試験
狭心症が疑われるが、冠動脈造影検査(CAG)にて有意狭窄が認められない場合、冠攣縮が関与している場合があります(冠攣縮性狭心症〈CSA〉)。アセチルコリンまたはエルゴメトリンを冠動脈内へ投与し、冠攣縮(spasm)を誘発する試験を行い、造影することで診断できます。造影画像、心電図変化、自覚症状として変化が現れ、血管拡張薬の投与で解除されます。
アセチルコリン負荷では高度徐脈になる可能性があるため、一時的ペースメーカを留置する必要があります。
強陽性で高度狭窄となる場合があるので、薬剤準備など十分な注意が必要です。
文献
- 1) 山名比呂美:特集 60問トライアル ハートナース検定.ハートナーシング 2016:29(12):40-41.
- 2)循環器用語ハンドブック:僧帽弁閉鎖不全[症].(2020.01.10アクセス)
- 3)日本循環器学会:弁膜疾患の非薬物治療に関するガイドライン(2007年改訂版).(2019.09.01アクセス)
- 4)齋藤滋監修,高橋佐枝子,島袋朋子編:やさしくわかる心臓カテーテル 検査・治療・看護.照林社,東京,2014.
- 5)尾辻豊:心臓弁膜症・心内膜炎.医療情報科学研究所編,病気がみえる vol.2 循環器 第4版,メディックメディア,東京,2017:202-230.
- 6)長沼亨:弁膜症 実地医療で実践すべき診療のプロセス弁膜症 実地医家が知っておくべき現代の弁膜症 経カテーテル僧帽弁逆流症治療MitraClipとは.Medical Practice 2017;34(12):1999-2005.
- 7)高谷陽一,赤木禎治:はやわかり! Amplatzerの実際と必要な看護.ハートナーシング 2015;28(7):710-712.
- 8)日本メドトロニック株式会社:ペースメーカって、何ですか? 2013年12月改訂版.(2019.09.01アクセス)
- 9)吉川糧平,岡村篤徳,南口仁 他:第6章 心臓カテーテル治療.粟田政樹,田中一美編,はじめての心臓カテーテル看護 -カラービジュアルで見てわかる!.メディカ出版,大阪,2013:65-87.
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社