心臓手術がもたらす身体への影響

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は心臓手術による身体への影響について解説します。

 

下徳 薫
新東京病院看護部

 

心臓手術がもたらす身体への影響

手術によって身体は侵襲を受けます。特に開心術では、人工心肺・心停止による特有の侵襲から恒常性を維持しようと、さまざまな生体反応が起こります。

 

心臓手術後の生体反応を理解するには、侵襲に伴う生体反応について理解する必要があります。

 

神経・内分泌反応

カナダの生物学者であるハンス・セリエによって提唱されたものです(表1図1)。セリエはストレッサーに対する反応を「汎適応症候群」として説明しています。

 

表1セリエのストレス反応

セリエのストレス反応

 

図1神経・内分泌反応のしくみ

神経・内分泌反応のしくみ

 

免疫系の反応 (サイトカイン誘発反応)

サイトカインは炎症部位の局所で産生され、組織修復・病原体排除のために必要不可欠なものです。サイトカインには炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインがあります。この2つがバランスをとり、免疫系の生体反応をコントロールしています。

 

炎症部位において炎症性サイトカイン産生が過剰で、抗炎症性サイトカインのはたらきが弱いと局所から全身にサイトカインが回り、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS)が惹起されます(表2)。逆に、SIRSに抗する病態として、代償性抗炎症反応症候群(compensated antiinflammatory syndrome;CARS)があります。抗炎症性サイトカインの産生が過剰になり、炎症性サイトカインが抑制されると、免疫能が低下して重症感染症を合併する可能性があります(免疫抑制状態)。SIRSとCARSが同時に起こることもあり、その状態はMARS(mixed antagonistic response syndrome)と呼ばれます。

 

表2全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準(米国胸部疾患学会)

全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準(米国胸部疾患学会)

 

代謝反応

フランシス・D・ムーアは、術後の回復経過を4相に区分しています(図2)。

 

図2ムーアの回復過程とエネルギー消費量1

全身性炎症反応症候群(SIRS)の診断基準(米国胸部疾患学会)

 


文献

  • 1)Bojar RM. Manual of Perioperative Care in Adult Cardiac Surgery,5th ed. NewYork:Wiley-Blackwell;2011:347-381.
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  • 3)天野篤監訳:心臓手術の周術期管理.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2008:401.
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  • 6)山中源治,小泉雅子編:徹底ガイド 心臓血管外科 術後管理・ケア(ハンディ版).総合医学社,東京,2016.
  • 7)天野篤監訳:心臓手術の周術期管理.メディカル・サイエンス・インターナショナル,東京,2008.
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  • 11) 前田浩企画編集:特集心臓血管外科手術の術後ケア~術後に発生しやすい合併症とその対応~.Heart2014;4(8).
  • 12)道又元裕編集顧問:心臓血管外科の術前・術後管理~厳選ポイント15.重症集中ケア8・9月号 2017;16(3).
  • 13)国立循環器病研究センター心臓血管部門編:新 心臓血管外科管理ハンドブック改訂第2版.南江堂,東京,2016.
  • 14)藤澤美智子,武居哲洋:譫妄の発症メカニズム:危険因子,予防法.林淑朗,讃井將満任編集:特集疼痛・興奮・譫妄,INTENSIVIST 2014;6(1):65-72.
  • 15)古賀雄二,若松弘也:ICU せん妄の評価と対策:ABCDE バンドルと医原性リスク管理.特集ICU/CCUで遭遇する精神的問題を考える,ICUとCCU 2012;36(3):167-179.
  • 16)日本集中治療医学会J-PADガイドライン作成委員会:日本版・集中治療室における成人重症患者に対する痛み・不穏・せん妄管理のための臨床ガイドライン.日本集中治療医学会雑誌 2014;21(5):539-579.(2019.09.01アクセス)
  • 17)藤井大輔,山田亨,櫻本秀明:重症疾患後の認知機能 ICU退室後の認知機能障害の実際. ICNR 2016;3(3):60-66.

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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