聴診の基本

『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は聴診の基本について解説します。

井熊三奈子
新東京病院看護部

 

〈目次〉

 

聴診の基本

肺の聴診の目的には、呼吸音の聴取異常心音の聴取があります。

前胸部では心音のほかに呼吸音を、背部では呼吸音を聴取するようにします。

 

聴診器のしくみ

聴診器のチェストピースには、膜面(ダイヤフラム面)とベル面の2種類があります(図1)。

膜面は、高音が聴取しやすいため、大動脈弁閉鎖不全症(AR)などで起こる拡張期逆流性雑音などの聴取に向いています。

ベル面は、低音を中心に、すべての心音を聴取する場合に向いています。III音、IV音、僧帽弁狭窄症(MS)の拡張期ランブルなどの低音が聴取できます。

図1聴診器のしくみ

聴診器のしくみ

 

呼吸音の聴診

呼吸音の聴診は、上から下に向かって、左右対称に聴診します(図2)。

図2呼吸音の聴診部位

呼吸音の聴診部位

 

呼吸音のアセスメント

呼吸器系の聴診では通常、高い音が多いため、聴診器の膜面を使用します。

正常な呼吸音は、頸部気管や胸骨周辺で呼気と吸気の両方が粗く聴取される気管音気管支肺胞音、肺野全体で吸気のときにやわらかく聴取される肺胞音があります(表1)。

表1正常な呼吸音

正常な呼吸音

異常音は、副雑音ラ音)ともいわれます。呼吸音がどこで聴取されるか、呼気と吸気のどちらで聴取されるか、音の性状(連続性、断続性、高音性、低音性)を注意深く聴取します(表2表3)。

表2呼吸音の異常

呼吸音の異常

表3副雑音の種類

副雑音の種類

 

心音の聴診

心音の聴取部位

心音を聴取するときは、仰臥位か座位で図3の聴取部位を聴取します。

図3心音の聴取部位

心音の聴取部位

僧帽弁狭窄症(MS)の場合は、左側臥位になると拡張期ランブルが増強するため聴取しやすくなります。また、大動脈弁閉鎖不全症(AR)の場合は、座位になると灌水様逆流が増強するため聴取しやすくなります。

心音の種類

心音は、弁が閉じたときに血流がぶつかることによって起こる音や、弁の閉鎖する音です。正常であれば、弁の解放時には雑音が聴こえません。

心音にはI~IV音まであります(表4)。

表4心音の種類※1

心音の種類

 

異常心音のアセスメント

心臓は、心房から心室へ血液が流れ込み、心室から全身、または肺に血液を送り出す機能をもつ臓器です。また、その流れは一方通行です。

血液をためる、一方通行の流れをつくり出すために役立っているのが心臓の弁です。弁は血液の逆流を防いでいますが、何らかの疾患により、弁がしっかり閉まらないと逆流が起こり、心雑音となって聴こえます(閉鎖不全症)。また、弁が解放することによって血液が送り出されますが、完全に開いていないと狭いところを血液が通ります。その狭いところを無理やり通ることにより、心雑音が聴こえることになります(狭窄症)

心雑音は、血管雑音のような「ザー」というような音が聴取されます(表5)。心雑音の強度のアセスメントには、Levine(レバイン)分類がよく用いられます(表6)。

表5心雑音の種類

心雑音の種類

 

表6Levine分類(心雑音の強度のアセスメント)

Levine分類(心雑音の強度のアセスメント)

 


[memo]
  • ※1 I音とII音の聴き分け方(上へ戻る
    I音は房室弁の閉鎖音のため収縮期、II音は半月弁の閉鎖音のため拡張期のはじまりといえる。I音とII音の鑑別で簡単なのは、頸動脈を触診しながら行うことである。脈拍の立ち上がりと同時に聴こえる音がI音といえる。ほかに、I音は重く「ド」と聴こえ、II音は軽く「トン」と聴こえるなど音の違いからも鑑別できる。

文献

  • 1)上田芳郎:診察と診断の流れ.吉田俊子著者代表,系統看護学講座 専門分野Ⅱ 成人看護学3 循環器 第14版,医学書院,東京,2015:48-51.
  • 2)横山正明:診察(視診・聴診),診察(聴診).落合慈之監修,山﨑正雄,柴田講編,循環器疾患ビジュアルブック 第2版.学研メディカル秀潤社,東京,2017:21-29.
  • 3)竹尾惠子監修:看護技術プラクティス 第23版.学研メディカル秀潤社,東京,2013.
  • 4)山内豊明:見る・聴く・触るを極める! 山内先生のフィジカルアセスメント 技術編.エス・エム・エス,東京,2014:24-27,34-43.

 

※編集部註※

当記事は、2020年05月23日に公開した時点で、「図3 心音の聴取部位」内の記載に誤りがございました。
2022年9月27日に正しい情報に修正いたしました。訂正してお詫び申し上げます。
(誤)僧帽弁領域(第5肋間胸骨中央線上)
(正)僧帽弁領域(左第5肋間鎖骨中線)

 


本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社

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