認知症患者に"ケアを拒否された"場合にどう対応する?
『エキスパートナース』2016年7月号より転載。
認知症者に"ケアを拒否された"場合の対応について解説します。
西沢幸子
聖路加国際病院
〈目次〉
はじめに
認知症の人にとって、身体的な不調を抱えたうえに、病院という慣れない環境に適応するのはとても大変なことであると考えられます。
これまで営んできた生活にはないルールや設備の中で過ごすこと、疾患やその治療のために起こる身体的な変化を十分理解できないことにより、不安や恐怖を感じ、混乱しやすい状態になります。
このような認知症の人に対してケアを行おうとしたとき、「家に帰って自分でやります」「けっこうです」と言って拒否され、どうしたらよいのかとまどった経験はないでしょうか?
①“拒否”の理由を考える
「ケアを拒否する」と一言でいっても、本当にやりたくないと思っている場合もあれば、遠慮や羞恥心の現れであったり、お腹が痛くて休んでいたいなど身体的不調を抱えていたり、いま自分がここにいてよいのかわからず不安でいっぱいだったから……など、そのとき、その人なりのさまざまな理由が必ずあります。
まず「認知症の人にとって何が起こっているのか」、本人に聞いたり観察することを通して、さまざまな視点から考えてみることが重要です(図1)。その人の理由に近づくことができたとき、どう対応すべきかがおのずと見えてきます。
図1ケアを拒否するとき認知症の人に何が起こっているのかを考える視点(例)
② 拒否の理由と考えられる部分に可能な限りアプローチする
そして、拒否の理由と考えられる部分に可能な限りアプローチします。このとき、できる限り皆が同じ認識でその人を捉え、安心感をもたらす援助方法につなげられるよう、見えてきたことをスタッフ間で共有していくことが重要です。
[事例]“ケアを拒否する”認知症者への対応を考える
事例として、シャワー浴とパウチ交換を拒否する認知症の人への対応を示します。
- Cさん・70代、女性
- 大腿骨頸部骨折により、入院し、手術を施行
- 既往にアルツハイマー型認知症。40年前に尿管皮膚瘻を造設し、パウチを使用。以来、自己管理していた
- 術後、シャワー浴が許可されたため、シャワー浴と、その際にパウチ交換することを提案したところ、「昨日やったからいいわ」「自分でやるから大丈夫」と言い、連日、ケアを拒否している
1Cさんの“ケア拒否”の理由は?
Cさんに何が起こっているのかを、下記のように推察した
対応のポイント
「認知症の中核症状」と「身体的・心理/社会的・物理的環境要因」から、理由を推察して対応する
2考えられる理由をもとにアプローチする
- a(この人は誰?)に対し:まずあいさつ・自己紹介を行い、笑顔で迎え入れてくれたことを確認し、目線の高さを合わせてから、「お加減いかがですか」などと会話を始めた
- b(記憶・見当識障害)に対し:会話の中で入院していることをさりげなく伝え、記憶・見当識障害を補い、安心感をもってもらった。Cさんからは「手術の傷もだいぶよくなりました」と発言があり、入院していることや手術をしたことを認識している状況になった
- c(なぜシャワーに?)に対し:「歩行訓練をがんばられたので、シャワーを浴びてさっぱりしたらどうかと思って誘いに来ました」と切り出した
- d(手伝ってもらうなんて申しわけない)に対し:「術後であり、歩行に介助が必要なため少しだけ手伝いをさせてほしいと伝えた。「あら、いいの? 手伝ってくれるの? 浴びましょうか」と返答があった
- シャワー浴に同意した記憶を保持するため、着替えやシャワー椅子などを用意している間は、「着替えはどれにしますか?」「さっぱりしましょう」などと、シャワー浴に関連する内容のコミュニケーションを図るようにした
- e(実行機能障害、どこに何があるかわからない)に対し:実行機能障害や、自宅環境とは異なる点に配慮し、脱衣する場所、移動する場所など逐一説明しながら浴室へ案内した
- 脱衣をしたのち、「せっかくシャワーを浴びるので、パウチも交換してはいかがですか」と提案すると、「それもそうね」と交換することができた
[参考文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2016照林社
P.54~55「“ケアを拒否された”場合にどう対応する?」
[出典] 『エキスパートナース』 2016年7月号/ 照林社