耐性菌とは

(『キャラ勉!抗菌薬データ』より転載)

 

抗菌薬に対して感受性が低く、高濃度の抗菌薬が存在しても生育できる菌のことを耐性菌といいます。

 

不適正な抗菌薬の使用により、耐性菌が増加することがあります。

 

〈目次〉

 

耐性菌の種類

ある抗菌薬に耐性を示した菌は、他の抗菌薬にも耐性を示すことがあり、このような菌を多剤耐性菌と呼びます。多剤耐性菌に使用できる抗菌薬の種類は限定されるので、治療が難しくなります。多くの菌で耐性菌がみられますが、特に以下のものが大きな問題になっています。

 

表1耐性菌の種類

 

耐性菌の種類 略名
①メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 MRSA :methicillin-resistant Staphylococcus aureus
ペニシリン耐性肺炎球菌 PRSP  :penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae
③バンコマイシン耐性腸球菌 VRE    :vancomycin-resistant Enterococci
④多剤耐性*1緑膿菌 MDRP :multidrug-resistant Pseudomonas aeruginosa
⑤多剤耐性*1アシネトバクター MDRA :multidrug-resistant Acinetobacter
⑥ β-ラクタマーゼ非産生アンピシ
リン耐性(インフルエンザ菌)
BLNAR:β-lactamase negative ampicillin resistant
            (Haemophilus influenzae)
⑦基質拡張型β-ラクタマーゼ*2
(産生菌)
ESBL   :extended spectrum β-lactamase
メタロβ-ラクタマーゼ*3
(産生菌)
MBL    :metallo β-lactamase

*1:カルバペネム系薬、アミノグリコシド系薬、ニューキノロン系薬の3系の薬剤に対して耐性

 

*2:基質特異性がぺニシリン系薬からセフェム系薬まで拡張したβ-ラクタマーゼ

 

*3:カルバペネム系薬を含めすべてのβ-ラクタム系薬を分解するβ-ラクタマーゼ

 

耐性菌はどうして生まれるか

耐性菌が発現するメカニズムとしては、

 

  1. 菌による抗菌薬を不活性化する酵素の産生(β-ラクタマーゼによるβ-ラクタム系薬の分解)
  2. 抗菌薬が作用する部位の変化(Ⅱ型トポイソメラーゼの変異によるキノロン耐性)
  3. 抗菌薬の作用する部位への到達の阻害(グラム陰性桿菌にみられる外膜の透過性の変化)
  4. 細菌内に入った抗菌薬の排出増加(抗菌薬の排出に関わるタンパクの産生増加)

などがあります。耐性菌感染症を増やさないためには、伝播の予防が第一です。日頃からの正しい手洗いなどの感染対策がとても重要になります。
そして、感染症を発症してしまった場合には、それぞれの感受性に合わせて適切な抗菌薬を選択し、必要な用法・用量、適切な期間使用する「適正使用」が求められます。

 

抗菌スペクトルとは

抗菌薬を一定の濃度で細菌に作用させるとその発育を阻止することができます。細菌の発育を阻止することができる抗菌薬の最も薄い濃度を最小発育阻止濃度(MIC:minimum inhibitory concentration)といいます。

 

 

この値が小さければその菌に対して強い効力(強い抗菌力)を示すことになります。抗菌スペクトルとは、このMIC に基づいて、抗菌薬が有効な菌種の範囲を示したものです。現在まで、この抗菌スペクトルの拡大(広範囲なスペクトル)を目指して、多くの抗菌薬が開発されてきました。
しかし、その一方で、広範囲スペクトルの抗菌薬を漫然と使用したことが、耐性菌の出現と増加にもつながり、大きな問題になっています。

 

耐性菌に効く抗菌薬(第2章より1剤):バンコマイシン(p.104-105)

 


[著者Profile]

黒山 政一(くろやま まさかず)
北里大学病院 薬剤部長/薬剤師/医学博士
1676年、東京薬科大学薬学部を卒業し、北里大学病院薬剤部に入職。1991年、医学博士号を取得。2003年、北里大学病院薬剤部長、現在に至る。

 

小原 美江(こはら はるえ)
北里大学東病院 薬剤部/薬剤師
1998年、北里大学大学院薬学研究科修士課程を修了し、北里大学東病院薬剤部に入職。現在に至る。

 

村木 優一(むらき ゆういち)
京都薬科大学 臨床薬剤疫学分野 教授/薬剤師/医学博士 1999年、京都薬科大学薬学部を卒業、2001年、同大修士課程を修了し、三重大学医学部付属病院薬剤部に入職。2010年、医学博士号を取得。2011年米国留学後、2013年より副薬剤部長。2017年、京都薬科大学薬学部 臨床薬剤疫学分野 教授に着任。現在に至る。

 

*略歴は掲載時のものです。

 


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[出典] 『キャラ勉!抗菌薬データ』 羊土社

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