その症状、もしかしたらクラゲかも?!|キケンな動植物による患者の症状【11】
「クラゲ」と聞いて何を思い出しますか? 海になじみのない人はクラゲ=観賞用、もしくは食材を想像するかもしれませんね。しかしながら、クラゲは海水浴時などに刺されると、赤く腫れてヒリヒリ痛みを伴うものから、非常に毒性が強いものまで、生息する地域によって種類も毒性も違います。当然のことながら、刺されたクラゲの種類によっては、対処方法も違ってきます。今回はクラゲについて解説します。
守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授
〈目次〉
クラゲとは?
クラゲとは、刺胞動物門に属する淡水・海水中に生息する種の総称で、ゼラチン質の体と、触手が特徴的な生物です。ちなみに、クラゲ以外の刺胞動物門は、サンゴやイソギンチャクなどがおり、世界には約10,000種類が生息しています。
クラゲは、非常に原始的な生物で、約6億年前から大きく変わらず生息しているといわれています。触手は捕食と防衛の機能を持っており、クラゲの毒はこの触手にあります。
ちなみに、これまで、「ハチ=刺す」や「ヘビ=咬む」わけではないと説明しましたが、クラゲは一部を除き、触手には毒があり、基本的に刺します。もちろん、人間にとって無毒とされる種類も生息していますが、クラゲに刺されたことで、アナフィラキシーになることはあるので注意が必要です。
クラゲに刺される仕組み
前述した通り、クラゲの毒は触手に触れる(刺される)ことで体内に入ってきます。簡単に説明すると、触手にスイッチボタンのようなものがあり、そこに触れるとスイッチが入り毒針を飛ばします。この毒針が皮膚に刺さり、この毒針を介して毒胞から毒が体内に注入され、症状が出現するのです。
クラゲは非常に多くの種類が生息していますが、一部を除いて致死的な毒は少ないため、医学的見地からの研究はされていないことが多く、未だ不明な点が多いです。ちなみに、海洋生物の毒の多くはタンパク毒であり、クラゲの毒の多くもタンパク毒が主成分になっています。クラゲの毒性はさまざまですが、致死的になることは多くはありません。
ただオーストラリアやフィリピンなどには猛毒を持ったクラゲも生息してます。オーストラリアなどでは抗血清が作られていることもありますが、クラゲに対する抗血清を作成しているのは世界的にまれです。致死的になる症例は体の小さい乳児・小児症例や、成人であればアナフィラキシーとなった症例と考えられます。
地域によって違う、クラゲ刺傷の対処法
沖縄や海外のビーチに行ったことがある人は見たことがあるかもしれませんが、ビーチの各所にお酢がおいてある場合があります。そこには「クラゲに刺されたらお酢を使ってください」と書かれていたりします。奄美群島や沖縄諸島の人は「何が不思議なの?」と思うかもしれませんが、本州の多くの海水浴場では見慣れない光景です。例えば、湘南のビーチにも多くのクラゲが来ますが、お酢はどこにも置いていません。イギリスのビーチでは「お酢を使用するな!」と看板がある場所もあります。なぜこのような違いがあるのでしょうか?
実は、これはそのビーチに生息するクラゲの種類による違いのためです。奄美群島や沖縄諸島などではハブクラゲ(図1)が多く、これらのクラゲの毒胞はお酢をかけることで毒を凝固させ、体内への注入が軽減できるのです。
逆に、その他の地域のクラゲに刺された場合は、お酢をかけると毒胞が破裂し、症状を悪化させる可能性があるため、使用しない方が安全です。つまり本州より北のクラゲに刺された場合にはお酢は使用しない方がよいと考えられています。
クラゲに刺されたら温める?冷やす?
クラゲに刺されたら患部を温めるほうがよいのでしょうか、もしくは冷やしたほうがいいのでしょうか?
これまで、いろいろ議論がされましたが、前述したように海洋生物毒の多くはタンパク毒です。タンパク毒は60度で分解されます。「じゃあ60度で温めればいいね!」なんて思わないでくださいね。60度で温めると、火傷します。
つまり、総合的に考えれば、刺された直後は温めます。もし、病院を受診した場合は、それ以降は冷やすことをお勧めします。
クラゲ刺傷の処置・治療法
クラゲ刺傷の場合、基本的には対症療法です。患部に毒針が残っていることが多いですが、目で見ることはできないくらい小さなものです。そのため、一般的には患部にクリームを塗って舌圧子などでクリームを皮膚に沿わせると、毒針を効率的に除去できます。
患部の痛みが強いなどの症状があれば、抗炎症薬や鎮痛剤の処方と患部の冷却を促します。もし、アナフィラキシー症状があれば、アナフィラキシーに準じた治療を行ってください。その場合、アドレナリンの投与と気道確保が大切になります。
納豆とクラゲの意外な共通点
2014年に横浜市立大学医学部皮膚科学の猪又先生らから、興味ある報告がありました。クラゲ刺症と納豆アレルギー患者に共通点があるというのです。(1)
猪又先生が経験した納豆アレルギー17例のうち、14例はマリンスポーツをしており、その際にクラゲに刺されたことがあり、それ以降、納豆アレルギーになったというのです。
実は、クラゲの触手の一部に「ポリガンマグルタミン酸」という物質があり、納豆のネバネバにも「ポリガンマグルタミン酸」が含まれているとのこと。つまり、クラゲに刺されたことがある人は納豆アレルギーになりやすいという報告でした。なお、重症例では、アナフィラキシーにもなるようです。
納豆もマリンスポーツも大好きな筆者としては、これは悩ましい報告です。もし、納豆が原因のアナフィラキシー患者に対応することがあれば、「クラゲに刺されたことがあるのかも?」なんて考えてしまいそうですね。
[Design]
ロケットデザイン
[Illustration]
山本チー子