それ、都市伝説かも?!安易に信じると危ない毒キノコの見分け方|キケンな動植物による患者の症状【12】

お鍋の美味しい季節ですね。お鍋に入れる食材はさまざまありますが、キノコもお鍋に入れることの多い食材の一つです。エノキや椎茸、舞茸など定番のきのこであれば美味しいですが、中には自分で採取してきた怪しいキノコを食べて食中毒を起こしてしまう…なんて事例もあります。そんなキノコについて、2回に分けて解説します。

 

守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授

キノコ

 

〈目次〉

 

キノコは植物ではない

キノコは、植物ではなく、菌類に分類され、比較的大きな子実体を形成するものとされています。菌類とは、一般的にキノコやカビ、酵母などを指すもので、「細菌」と区別するために、「真菌」と呼ばれます。

 

キノコ雲、マッシュルームカットなど、キノコの形から派生した言葉もたくさんあるように、一般的にはキノコの形というと傘のようなイメージだと思います。もちろんそれは間違いではなく、多くはイメージ通りの形をしていますが、中には鶏冠のような形(カエンタケ)、テーブル状(サルノコシカケ類)など一般のキノコのイメージとは違うものもたくさんあります(図1)。

 

図1カエンタケ(左)とサルノコシカケ(右)

カエンタケ_サルノコシカケ

 

正確には把握されてはいませんが、国内に生息するキノコは約5,000種と言われ、そのうち分類・命名されているものが約2,000種とされています 。驚くことに半分以上は名前すらついていないのです。分かっているだけで、約100種のキノコが毒を持っていますが、毒の成分など詳細が分かっていないキノコも多くあります。また、毒性も軽微なものから致死的になり得るものまでさまざまあります。

 

都市伝説的な「見分け方」を信じてはいけない

最近はアウトドアブームで山林などでのキャンプも盛んになっています。キャンパーが増加すると同時に急増するものがあります。自然毒による食中毒です。
「このキノコ食べられそう!」なんて気軽に焼いてみんなで食べて食中毒になったり、キノコ狩りに行って自宅で調理して家族みんなが食中毒になったりします。

 

キノコ毒は解明されていないものも多く、治療法が確立されておらず、対症療法しかないものが多いのが現状です。毒キノコの見分け方などは「派手な色は危険だが、地味な色は大丈夫」「ナスと煮ると毒は消える」など、都市伝説的に間違った情報が当たり前のように流布されていることも多く、そういった間違った情報をうのみにして中毒になる人も多いのです。

 

事故防止には正しい情報の啓発が必要になります。最低限、われわれ医療者は正しい知識を持っている必要があります。

 

毒キノコの見分け方

フグ中毒の時にも説明しましたが、同種であっても個体差や地域差があり、色や形が微妙に違うことがあります。図鑑を見ながらキノコ狩りをする人もいますが、見た目だけで見分けることは確実ではありません。また、前述した通り、都市伝説的な噂も流布されており、「縦に裂ければ毒はない」「虫が喰っていれば大丈夫」などのような見分け方がネットなどでも散見されます。

 

結果から言ってしまえば、これらの見分け方はすべて間違いです。縦に裂ける毒キノコもありますし、虫にとっては毒でないけれど、人間には毒であるキノコもあります。派手なキノコで食べられるキノコもあるし、地味でも毒を持っているキノコもあります。このような間違えた情報によりキノコ中毒になる人もいるのです。

 

毎年、各地で販売されていたキノコが毒キノコだったというニュースがあるように、プロでも間違えるほど見分けるのは難しく、結果的に、素人が、食べられるキノコと毒キノコを見分ける方法はないと考えたほうがよいでしょう。

 

毒キノコ_中毒

 

「地味な色のキノコには毒はない」は間違いです。

 

キノコ中毒を疑ったら?

各自治体もキノコ狩りに関しての危険性を啓発していますが、よほど魅力的なのか、自分は大丈夫と思っているのか、毎年のようにキノコ毒による中毒患者が発生しています。

 

東京都福祉保健衛生局もネット上でも危険性を啓発していますが、毎年42~79件のキノコ食中毒、年間77~232人のキノコ食中毒患者が発生していると報告しています1)。このデータからも分かるように、多くの事例では同時に複数人の被害が発生しており、これは食中毒に特徴的です。

 

キノコ中毒では種類の特定は困難なことも多いのですが、キノコによる中毒と診断するのは状況の問診や経過から比較的簡単にわかります

 

また、キノコ中毒を疑うのであれば、直ちに保健所へ届け出なければいけません(確定診断でなく、疑いの時点で届け出る)。これは食品衛生法の第58条で「食品、添加物、器具もしくは容器包装に起因して中毒となった患者、もしくはその疑いのある者を診断し、又はその死体を検案した医師は直ちに最寄りの保健所長にその旨を届け出なければならない」と明記されており、直ちにとは診断後24時間以内とされています2)

 

次回は、キノコ毒とその症状に関して詳しく説明します。

 


 


[Design]
ロケットデザイン

 

[Illustration]
山本チー子

 


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