その症状、もしかしたら有毒植物かも!【遭遇頻度が高い有毒植物】|キケンな動植物による患者の症状【5】
嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイントなどについて説明します。ぜひ、看護師の皆さんには「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。
守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授
〈目次〉
山菜の時期は、有毒植物による中毒の季節でもある
春~初夏にかけて、多くの美味しい山菜が採れる時期になります。しかし、言い換えれば、それは植物性自然毒による中毒の季節でもあります。
植物性自然毒とは、文字通り植物などに含まれる毒のことです。その毒を有する植物を、有毒植物と言います。
近年、アウトドアブームにより、その有毒植物による中毒が増加傾向にあります。春~初夏にかけては山菜採りに関連した事故、秋はキノコに関連した事故が急増します。
有毒植物にはさまざまな種類があり、すべてを紹介することは無理なので、今回は中毒患者の発生数が多い有毒植物を、次回は間違って食すと致死的となる有毒植物について解説します(キノコに関しての解説は、秋ごろまでお待ちくださいね)。
中毒発生頻度の高い有毒植物=遭遇する可能性が高い有毒植物
山菜とは自然界に自生している食用の植物の総称です。つまり、「食用に栽培されてはいないけれど、食べられる自然の植物」のことです(一部食用に栽培されているものもあります)。
「食用なら毒はないでしょ」と思うかもしれません。正解です。基本的に、山菜であれば毒はありません(ただし、食べ方によっては、中毒症状が出るものもあります)。問題は、山菜だと思って採った植物が、実は山菜ではなく、毒がある植物だった場合です。その有毒植物を食べたことにより、中毒症状が発生します。
有毒植物による中毒患者のほとんどは、山菜と間違えて食べたというものですが、まれに殺人などの事件に使われるケースもあります。有毒植物の毒物は、普通の毒物より検出されづらい場合が多く、なおかつ青酸カリなどの中毒物質に比べると入手しやすいことも一助となっているようです。
まずは、「中毒発生頻度の高い有毒植物=遭遇する可能性が高い有毒植物」として、中毒患者発生数を表1に紹介します。実際に臨床の場で遭遇することがあるため、しっかり覚えておきましょう。
表1過去10年間の有毒植物による中毒患者発生数(平成18年~27年統計より)
ジャガイモ(図1)
危険度 1~2点(5点満点)
ジャガイモは山菜ではありませんが、日常、よく食材とされる野菜なのでランキングに入れました。
親芋で発芽しなかった芋や日光に当たって皮が薄い黄緑になった部分、芽が出てきている部分には毒があります。ここには、ソラニン・チャコニンなどのステロイドアルカロイド配糖体という毒があります。神経毒の一種ですが、毒性は強くはありません。頻脈・頭痛・消化器症状が出現します。
基本的には対症療法しかありません。ただし、大量摂取例では死亡例の報告もあります。ジャガイモは一般的な食材なので意外に問診で聞き逃してしまうことが多く、診断がつかないこともあります。「ジャガイモ=毒」と考える必要はありませんが、疑うことは大切です。
スイセン(図2)
危険度 1~2(5点満点)
スイセンは綺麗な花を咲かせます。なので、「スイセンなんて食べるの?」と思う方もいるかもしれません。しかしながら、表1のランキングでは2位となっています。
もちろん、スイセンの花が咲いていれば食べる人はいないでしょう。しかし、花が咲く前はニラやノビルに似ており、間違えて食べてしまうようです。毒としては、リコリンやタゼチンなどのアルカロイド系の毒性を持っています。彼岸花などにもある毒で、矢毒としても使用されていたこともあります。
スイセンによる中毒の症状は、嘔吐などの消化器症状が中心となります。基本的には対症療法しかありません。図2は道端に生えていたスイセンです。確かに花がないとニラに見えますね。
バイケイソウ(図3)
危険度 2~3(5点満点)
バイケイソウは、あまり馴染みはないかもしれませんが、オオバギボウシやギョウジャニンニクと間違えて食べてしまうようです。
バイケイソウは、プロトベラトリンやベラトラミンなどのアルカロイド系の毒性を持っています。非常に苦く、食べるとすぐに吐き出してしまうために重症になることは少ないですが、みそ汁などに入れて煮てしまうと汁内に毒が入り、容易に摂取してしまうことがあります。摂取してしまった場合には循環動態が不安定となり、致死的になり得る植物です。
チョウセンアサガオ(図4)
危険度 2~3(5点満点)
皆さんも知っているアサガオはナス目ヒルガオ科サツマイモ属ですが、チョウセンアサガオはナス目ナス科チョウセンアサガオ属となります。これは根をゴボウと間違えたり、ツボミをオクラと間違えたり、種子をゴマと間違えたりするなど、間違って食したという報告例は多岐にわたります。
チョウセンアサガオは、ヒオスチアミンやスコポラミンなどのアルカロイド系の毒性を持っています。間違って摂取すると、意識障害や幻覚症状が出現します。基本的には対症療法しかありません。
クワズイモ(図5)
危険度 2~4(5点満点)
クワズイモと聞いてもピンとこないかもしれませんが、写真を見れば知っている人も少なくないかもしれません。日本では観賞用植物として扱われていますが、自生もしています。
このクワズイモを何と間違えるの?と思うかもしれませんが、根をサトイモと間違えて食べてしまうようです。クワズイモは、シュウ酸カルシウムという毒性を持っています。毒物および劇物取締法で劇物に指定されているほど毒性が強い物質です。
食べた直後から、口腔内に痛みと腫脹を伴い、摂取量によっては消化器・呼吸器症状が出現し、死に至ることもあります。
有毒植物の効果的な使い方?
季節は違いますが、彼岸花って知っていますか?秋に咲く赤い花です(図6)。
彼岸花は鱗茎(根)にリコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンなどのアルカロイドの毒を多く含んでいます。経口摂取すると、消化器症状が出現し、重症例では中枢神経症状が出現することもあります。
さて、彼岸花ってどこに咲いているイメージがありますか?水田の畦道(あぜみち)や墓地のイメージはないでしょうか(「そんなイメージなんてない」と言われてしまうと話は終わってしまうのですが…)。実際、彼岸花は、水田の畦道や墓地に多く植えられています。
なぜでしょうか?
昔の人は、水田の作物や墓地の死体などがモグラなどの動物に食い荒らされてしまう被害に悩んでいました。そこで、根に毒を持った彼岸花を水田や墓地の周囲に植えることで、モグラなどが嫌がって近寄らないようにしたのです。人間は昔から毒と上手に付き合って利用してきたんですね。
有毒植物による中毒患者の問診のポイント
植物性自然毒は無数にあるため、どの植物性自然毒による中毒なのかの確定診断は非常に難しくなります。実際には、毒性や臨床症状が解明されていないものも多く、患者の主訴だけで診断するのは不可能に近いのかもしれません。
「じゃあ、どうすればいいの?」と思いますよね。他殺や自殺目的は別として、通常、植物性自然毒による中毒は、本来食べられる何かと有毒植物を間違えて食べて発生することが多いのです。誰も知らない植物を採って食べることはまずないでしょう。
そのため、問診のポイントとしては、「何という山菜だと思い食べたのか?」という質問が重要になります。この答えと患者の症状を合わせて考えると、かなり絞り込むことができます。
中毒物質を絞り込むことは、予後の推測や次の対処がしやすくなるため、必要になります。表2に、間違えられやすい代表的な植物の一覧と症状を示しますので、参考にしてください。
有毒植物による中毒患者の処置・治療法
残念ながら、植物性自然毒による中毒への特徴的な治療はほとんどありません。症状に合わせた対症療法を行うしかないのです。
[Design]
ロケットデザイン
[Illustration]
山本チー子