その傷、もしかしたら銃創かも?!|キケンな動植物による患者の症状【4】
嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイントなどについて説明します。ぜひ、看護師の皆さんには「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。
今回は、銃器による創傷(銃創)を負った患者について説明します。この連載のタイトルにある「動植物」ではありませんが、意外な原因になり得るものです。ぜひ、頭の隅に入れておいてください。
守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授
〈目次〉
銃創って?
銃創とは、字の通り、「銃器により受けた創傷」のことです。日本は世界的に見ても銃による犯罪件数は少なく、アメリカなどと比較しても、拳銃による殺人は1/10,000以下で、年間10件程度で推移しています。ただ、狩猟での誤射などもあるため、銃創患者に遭遇する可能性があります。
当然ですが、重症度は撃たれた部位により変わりますが、銃器による創傷は、比較的重症例が多くなります。
銃器の種類
銃器は基本的に、1発ずつの銃弾でピンポイントの目標物を狙う拳銃(ピストル)やライフル、連続して複数の銃弾を撃つ機関銃(マシンガン)、多数の細かい銃弾が広範囲に飛び散る散弾銃やショットガンの3種類に大別されます。
刑事ドラマや映画などで、「口径」という言葉を耳にすると思います。口径とは、銃口の直径(ほぼ銃弾の直径)を表す単位で、口径とは「100分の何インチ(inch)か」を表したものです(1インチは、約25.4ミリメートル)。例えば、日本の警察が所持する拳銃は38口径ですが、これは、38/100 インチ=約9.6mmの銃弾を装備しているということになります。
それを知っておくと、銃創患者のX線写真などに写った銃弾の直径を測定することで、何口径の銃弾を被弾したのか推測ができますね。
また、最近では、違法に高圧ガスを使用したり、圧縮比を高めることで殺傷能力を有したモデルガンや、競技などに用いられるクロスボウ(ボウガン)などによる事件や事故もあるので注意が必要です。
memo「マグナム」の語源は酒のボトル
クリント・イーストウッド主演の映画、『ダーティ・ハリー』シリーズやスパイや狙撃手が主人公の小説などでは「マグナム」という言葉が出てきます。なんとなく「拳銃の種類や名前かな」って思っている人はいませんか? 実は、「マグナム」とは、「マグナム弾」のことを指します(マグナム弾を使用する拳銃自体を指すこともあります)。マグナムとは、もともとお酒を入れる「マグナムボトル」が語源だと言われています。マグナムボトルは、通常のボトルよりも容量が多いことから、マグナム弾とは、同一口径の銃弾に比べて、火薬の量を増すなどで威力を増強させた銃弾を指すようです。マグナム弾を使用する拳銃自体を「マグナム」と呼ぶこともあります。
ここでは、比較的、遭遇しやすい拳銃(ピストル)と散弾銃を中心に説明します。
拳銃(ピストル)
拳銃は、基本的には「人が人を殺す・倒す」ことを目的に開発・製造されているため、殺傷能力が非常に高く、恐ろしい武器です。一般人の拳銃所持は銃刀法で制限されているため、拳銃により負傷した患者は、必ずといってよいほど、何らかの事件に関係しています。
散弾銃
散弾銃は、文字通り「銃弾が飛び散るタイプ」の銃器です。拳銃とは違い、人が人を撃つものではなく、動物を狩ることを目的とした、狩猟などで使用するために開発・製造されました。日本の狩猟などでもこの散弾銃が用いられています。ただし、今は軍用やクレー射撃などでも使用されています。
散弾銃は、動きの速い動物などに対して、広範囲に銃弾が飛び散ることで、確実に被弾させる仕組みになっています。つまり、拳銃と違い、広範囲に無数の銃弾を被弾するのが特徴です。
銃創患者はこの傷が決め手!
拳銃
銃弾が体内に入った創を「射入創」といいます。殺傷能力が高い拳銃や至近距離で被弾した場合には、体内を貫通した銃弾が体外に出ることがあります。この銃弾が体外に出た時の創を「射出創」といいます(図1)。
上述したように、日本の警察が使用している拳銃の口径は約1㎝程度です。したがって、射入創は1㎝程度になります。「銃創」なんて聞くと、「大きな創(傷)」と考えてしまうかもしれませんが、実は射入創はちょっとした小さな創です(図2)。
筆者は実際に、頭部に被弾して倒れていたところを搬送されて来た患者を診た経験があります。当初、救急隊から「転倒して頭部をぶつけたようで…。」と説明されたこともあり、頭部CT検査を行ったところ、「あれ?銃弾?」なんてこともありました。なかなか日本では銃創を第一に考えることは難しいですが、頭の片隅に鑑別の1つとして入れておきましょう。
次に、銃弾ですが、ものすごく硬い材質ではなく、やや柔らかい材質を使っています。柔らかいといってもフニャフニャの素材であれば、殺傷能力がなくなってしまうので、適度に柔らかい材質です。 「なぜ適度に柔らかい必要があるの?」と思うかもしれませんが、もし、ものすごく硬い材質の銃弾が体内に入れば、銃弾は、そのまままっすぐの弾道で体外に出ていきます。これでは殺傷能力は上がりません。適度に柔らかい材質であれば、体内に入った瞬間から、抵抗で銃弾が変形していきます(図3)。
抵抗で銃弾が変形し、進入面積が広くなることで、殺傷能力が高まります。したがって、射入創は小さくても、射出創は大きくなります(図1)。
散弾銃
散弾銃の創は、拳銃などとは違って、多数の射入創があります(図4)。散弾銃は、小さな動物用~大きな動物用があり、殺傷能力はさまざまです。小さな動物用であれば被弾距離によりますが、皮下のみに銃弾がとどまる場合が多く見られます。一方で大きな動物用であれば体内にまで達することが多く見られます。ただ、銃弾は体内にとどまることが多いため、射出創を認めることはほとんどありません。
銃創患者の問診のポイント
特徴的な問診ポイントはありませんが、(患者が明らかに反社会勢力であるなどの)状況が状況であれば、付添人などへの問診自体が危険な場合もあるので、注意してください。原因が何か分からず、外傷痕に対して重症度が高い場合には、積極的に銃器による損傷を疑う必要があります。
銃創患者の処置・治療法
銃器の種類や撃たれた部位により、重症度や治療方法は変わります。拳銃と散弾銃に分けて説明します。
拳銃
頭部
致死率は他部位に比較して高くなります。基本的には緊急開頭を行い、銃弾の除去・血腫除去・止血を行います。頭部への被弾は非常に緊急性が高く、脳の損傷程度で予後が左右されますが、救命できても高度の後遺症が残ることが多くなります。
体幹
部位により予後が左右されます。基本的には緊急開胸・開腹手術を行います。胸部であれば開放性気胸となり、初療でドレナージが必要になります。
心大血管損傷は、早期に心肺停止に陥る可能性が高く、場合によっては初療室で側方開胸し、一時止血や縫合を行い、手術室に向かう必要があります。
腹部に被弾し、大血管損傷を合併している場合には、急速に腹腔内出血となり、緊急度は高くなります。他臓器の損傷であっても、緊急開腹を行い、止血操作と臓器修復が必要となります。
四肢
四肢は頭部や体幹への被弾に比べると比較的重症度が低くなる場合がありますが、血管損傷や骨折を合併している場合には重症度が上がります。海外では皮下のみの貫通創であれば、そのまま外来帰宅なんてことも多いようです。
散弾銃
散弾銃で被弾すると、多数の細かな銃弾が皮下~筋肉内に残存することとなります。威力の強い散弾銃では胸腔・腹腔内に達することもあるので、CT検査で銃弾の部位を確認する必要があります。皮下~筋肉内の銃弾はすべて除去することは不可能で、すべて除去しようとすると出血量を増加させてしまいます。ある程度の除去は行いますが、除去が難しいものは無理しないのが鉄則です。
銃創患者はここにも注意!
どのような状況であっても、銃器による受傷であると診断した場合は、早期に警察の介入を要請してください。スタッフなどへの二次被害などは注意が必要です。
[参考文献]
- (1)警察庁刑事局組織犯罪対策部薬物銃器対策課.平成27年における薬物・銃器情勢確定値(2017年3月閲覧)
- (2)15 Shocking Gun Statistics You Won’t Believe.(2017年3月閲覧)
[Design]
ロケットデザイン
[Illustration]
山本チー子