小児の事故抜管を予防するための対応は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「小児の事故抜管の予防」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
小児の事故抜管を予防するための対応は?
事故抜管のリスク因子を評価し、確実な気管チューブ固定、適切な抑制を行います。事故抜管の迅速な判断には、ETCO2のモニタリングが有用です。
〈目次〉
小児の事故抜管
事故抜管は、必ずしも気管チューブが目に見えて明らかに引き抜かれている状態で発見されるわけではない。
外見上は、気管チューブは口元あるいは鼻腔に固定されているが、食道挿管になってしまっている場合がある。その原因として、口腔でのたわみ、気管チューブと固定用テープとの接触部のゆるみ、過伸展に伴う気管チューブ先端位置の変化などが挙げられる(図1)。
事故抜管のリスク因子と対策を表1に示す。
リスク因子 | 対策 |
---|---|
低年齢、後屈による過伸展、激しい体動 | 過伸展を避ける、抑制の実施 |
不適切なチューブ固定・位置 | 気管チューブの固定・位置の評価と修正 |
興奮、啼泣、呼吸器との非同調性(ファイティング) | 鎮静・鎮痛の評価、呼吸器の設定の調整、不快刺激の除去、原因の検索 |
大量の分泌物、舌による送り出し、咳き込み | 適切な吸引の実施 |
看護師の仕事量 | 看護師の適正な仕事分担と配置 |
不適切な鎮静、不適切な鎮痛 | 鎮静・鎮痛方法の検討 |
不適切な呼吸器回路の取り回し、不適切な呼吸器回路の固定 | 呼吸器回路の取り回し・固定の評価と修正 |
事故抜管時に見られる所見
患児の声が漏れて聞こえる、呼吸器の稼働と一致しない胸郭の動きや呼吸音の聴取が認められる。
自発呼吸のない患児では、胸郭の動きや呼吸音の消失が臨床的に認められる。
多くの場合、SpO2*が低下するが、感度は低く、対応が遅れる恐れがある。
常時、カプノメータによりETCO2をモニタリングしていれば、突然のETCO2波形の乱れ、減弱、消失から事故抜管が迅速に判断できる(図2)。
事故抜管の予防策
小児は、意識清明であっても、療養上の指示を守ることが難しい。鎮静・鎮痛の調整も難しく、人工呼吸中の事故抜管の予防には、適切な抑制が不可欠である。
上肢だけでなく、下肢を引っかける、首を激しく振る、体幹を激しく反る・ひねるといった動きにも注意し、砂囊、抑制用ベスト、抑制帯、抑制用シーネなどの使用を検討する(図3)。
全身の抑制は、苦痛による興奮を引き起こし、むしろ激しい体動の誘因となる。また、胸郭拡張障害や神経障害といった合併症や、成長発達の障害となることから、安易に行うのではなく、必要性を評価し、危険のない最小限の範囲で行う。
抑制を行う場合には、施設ごとの手順に則り、発達段階に応じた患児への説明と、両親に対する説明を行って同意を得ることが求められる。
[文献]
- (1)日本集中治療医学会ICU機能評価委員会:人工呼吸関連肺炎予防バンドル2010改訂版.http://www.jsicm.org/pdf/2010VAP.pdf(2014年11月18日閲覧)
- (2)中川聡:小児の人工呼吸からのウィーニング.ICUとCCU2005;30:11-15
- (3)谷昌憲他:小児呼吸不全患者の管理.急性・重症患者ケア2012;1:214.
- (4)宮坂勝之訳編:日本版PALSスタディガイド.エルゼビア・ジャパン,東京,2008:120-121.
- (5)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版.永井書店,大阪,2012:79.
- (6)木原秀樹:呼吸理学療法.救急・集中治療2010;22:339.
- (7)久保実:低血糖.小児科臨床2000;53:2217-2223.
- (8)Lucas da Silva PS, de Carvalho WB. Unplanned extubation in pediatric critically ill patients: a systematic review and best practice recommendations. Pediatr Crit Care Med 2010; 11: 287-294.
- (9)六車崇:人工呼吸器からのウィーニング.救急・集中治療2010;22:411-416.
- (10)植田育也編:小児の呼吸管理Q&A.救急・集中治療2010;22:297-305.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社