治療の場での精神症状へのかかわり方|ナースができる3つの対応

『エキスパートナース』2014年10月号<精神症状への対応>(照林社)より抜粋し転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。今回は「精神症状へのかかわり方」についてご紹介します。

 

不安、抑うつ、焦燥感─。患者さんに現れる精神症状は多種多様ですが、どれも“つらさからこころを守る反応”であることに変わりはありません。
まずは基本として知っておきたい、精神症状との向き合い方を解説します。

 

宮内倫也
可知記念病院精神科

 

〈目次〉

 

精神症状とは、”つらさからこころを守る反応”

精神症状と日常生活の感情との境目は非常にあいまいです。“日常生活の感情”の1つとして、憂鬱や不安を経験したことのない人もいないでしょう。

 

それが“精神症状”になるのはどこからか、というのはなかなか難しいところです(コラム1)。

 

ナースの皆さんのかかわりとしては、日常の感情でも精神症状でも、

 

  • つらいできごとをこころが抱えられなくなって、外に出されたものが症状
  • 外に出すことで、こころが破裂しないようになんとか対処している

という2つのイメージをもつことが大切です(図1)。

 

図1症状は患者さんなりの対処

症状は患者さんなりの対処

 

よって、こちらがとるべき方針は、

 

  • 患者さんが抱えられない部分をいったんこちらで抱えておく
  • 患者さんのこころのスペースをゆっくり広げていく

ことが基本になります。これらがケアの根底になり、“支持”につながります。

 

この“支持”は使い古された言葉ですが、患者さんの“松葉杖”だと考えてみてください。患者さんが依存しすぎない程度の支えというのが大事で、松葉杖は患者さんが回復すると使われなくなりますね。もし私たちが“車椅子”になってしまったら、患者さんはそれにどっぷりと依存して立てなくなってしまうことも起こりえます。そうではなく、患者さんが回復してまた歩き始める、そんな姿を浮かべつつ現在を支えるというのが、支持のイメージです。

 

では、患者さんを“抱えて”“こころのスペースを広げる”ために、ナースの皆さんにはどのようなことができるでしょうか。

 

ナースができる精神症状への3つの対応

1安易な共感はせず、“認証する”

基本は患者さんの言葉を“なぞって繰り返す”

 

精神的な対応において、よく出てくるのは“共感”という言葉。

 

患者さんを癒すには共感をもってこちらで抱えればよいのだ、という指摘も確かにありますが、いたずらに共感してしまうのはちょっと恐い部分もあります。特に身体疾患の患者さんは「健康なあなたに、わたしのこの痛みやつらさをわかられてたまるか!」という思いを抱くことがあります。

 

医療者が支持していると思っていても、患者さんは侵襲と感じることもあるため、精神症状に安易な共感はしない。これが重要です。

 

患者さんの気持ちをなぞるように聞き、わからない部分があれば詰問調にならないように繰り返し聞いてみて理解を深めていく(“なぞって繰り返す”がポイント)。気持ちのすれ違いにならないように、「こちらの思い描いているイメージ」と「患者さんのもつイメージ」ができるだけ一致するように心がけます。

 

“認証”とは、論理的に患者さんの苦しみを理解すること

イメージの一致というのは、患者さんの背景を読みとって察した内容が患者さんの思いと重なり、それが両者で共有されることを意味します。患者さんが「つらい」と言ったとき、すぐに「そうだよね、つらいよね」と返した場合、こちらの「そうだよね」ははたして患者さんの背景と合致しているでしょうか?

 

例えば「この人はがんで入院しているからつらいんだ」と早合点していないでしょうか? ひょっとしたら違う内容でつらく思っているかもしれませんし、たとえそうであっても、それを患者さんの口から言ってもらって、それをこちらがなぞって繰り返すという行為が、イメージが一致したという思いを両者に生みだします。

 

そして「あぁそうだったの。そんな状況ならこういう気持ちになるのも無理はないですね」という“認証(validation)”を行います。この“認証”は、こちらは患者さんの苦しみを完全に追体験はできないけれども、背景を知ることで論理的に理解できるということを指します。それが“抱えること”でもあり、その繰り返しの果てに真の共感が見えてくるのでしょう。

 

早々に助言を行うと“意見の押しつけ”になってしまうため、まずは患者さんの話をなぞって繰り返して“抱える”状態にするのが大事です。

 

2“侵襲的でない空気”をつくる

 

言葉のみならず医療者と患者さんとの間の空気というのも重要で、そこにはこちらの声の音色や高さ、表情、しぐさ、視線などが含まれます。言葉というのはノンバーバル(非言語的)な要素によって意味が異なってきて、それはプラスにもマイナスにもなります。その力を知って、できるだけ患者さんに侵襲的でない空気をつくっていきましょう。

 

同じ言葉でも、目線が上からであったり、患者さんのほうを向いていなかったり、語気が強かったり。それだけで言葉の意味はきついものになってしまいます。こういった細かいところに配慮することが、空気の色合いをよくしてくれます。

 

ケアの場というものを患者さんにとって安心できるものに整えていく。そうすることが患者さんのしなやかな回復力(レジリエンス)を助け、“こころのスペース”を広げることにつながります。症状を叩くのみならず、患者さんの置かれている生活を感じてよりよくしていくことが、ケアに求められてくるのです。

 

3患者さんを“あせらせず”、“ゆとり”をもてるようにする

 

精神疾患をもっていても、増悪の理由はまず薬剤を含めた身体疾患によるものか、と考えましょう(コラム2)。

 

例えば、うつ病の患者さんにステロイドパルス療法を行っていて抑うつが悪化したなら、やはりステロイドが原因の可能性が高いです。

 

そして、そういった身体疾患を除外したうえでの精神症状の変動は、患者さんの“あせり”と“ゆとり”の言葉でまとめることができると思います。

 

患者さんが“ゆとり”をもつことができれば精神症状も軽くなりますが、“あせり”が強くなると、ぬかるみにはまるように悪化していきます。患者さんが生活の中で“ゆとり”をもてるような配慮が大切です。

 

例えば統合失調症では、幻聴悪化の要素として“不安・不眠・過労・孤立”に注目して治療を行いますが、これは“あせり”を具体化したもので、すべての精神疾患に当てはまります。患者さんが“あせり”を感じるような状況なら精神症状は悪化していきますから、当座の目標は患者さんが、自身の“あせり”に気づいて“ゆとり”をもてるようになることになります。

あせりの原因

 

あせりの誘因①:不安

身体疾患が悪化したり、治療方針がわからなかったりすることで、先行きに不安を覚えます。すると「この先わたしはどうなるんだろう?」という暗闇の中にいるようなあせりが生じます。

 

そういうときは、現在の状況と、この先にどのようなことが行われるかというのを繰り返し伝えて、前方を照らしてあげるのが適切です。1回言えばわかるというのは残念ながらなく、患者さんは往々にしてこちらがお話ししたことを忘れてしまいます。場を設けて複数回の説明が必要でしょう。

 

あせりの誘因②:不眠

不眠が続いてしまうと、それもあせりを生み、が休まらずに症状は悪化します。眠れていない原因を確かめてみましょう。日中の活動度が落ちているとか、お薬の副作用で眠くなくなっているとか、生活リズムが整わなくなっているとか、身体の痛みを人に言わずがまんしているとか……。

 

原因がわかったら、もちろん対処が必要です。例えば先に挙げた不眠の原因に対しては、表1のような対応が考えられます。

 

表1不眠の原因別対処法

不眠の原因別対処法

 

あせりの誘因③:孤立

特に入院治療という特殊な状況においては、物理的にも心理的にも孤立が生じやすくなります。当然のことですが1人だけ家から離されますし、同室者がどんどん退院していくということも関与するかもしれません。“自分のつらさなんて誰にもわからないんだ”という気持ちもあるかもしれません。

 

入院中の精神症状というのを孤立という観点から眺めてみることはとても大事で、日ごろ患者さんに接しているナースの皆さんの存在はとても心強いのです。いかにして孤立を防ぐか、つながりを再び感じてもらうか、がキーポイント。

 

そのためのヒントは、次回『うつ病/躁うつ病|精神疾患・症状の基礎と対応のヒント』(2017/7/24公開)から場面別に紹介していきます。

 

コラム1:“日常生活の感情”と“精神症状”の境目は?

日常生活の感情と精神症状を鑑別するのに、現時点で役に立つ検査というものもなく、“生活の質に支障をきたしており一定期間改善されてこない”“その症状にとらわれていて柔軟な考え方ができない”などというのを一応のめやすと考えてはいます。

 

精神科医はすごく悩むところですが、これはお薬という武器を使うかどうかということに大きく絡んできます。正常な感情にお薬を使うのはちょっとやり過ぎですよね。

“日常生活の感情”と“精神症状”の境目は?

 

コラム2:まず、“身体疾患による精神症状”を除外しよう

精神疾患、特にうつ病は身体疾患に多く合併し、うつ病そのものの改善が身体疾患の予後をよくしてくれる可能性が指摘されています1,2。「心身一如(しんしんいちにょ)」とは言いますが、身体疾患の患者さんの精神症状をきちんと把握して対処することが重要です。

 

でも大事なことは、“精神症状がある=精神疾患”ではないということです。精神疾患と判断する前に、必ず身体疾患を考えてみましょう(表2)。

 

抑うつはがんの脳転移かもしれません。不安は電解質異常かもしれません。身体疾患をまず除外する意識をもつのは、医療者なら誰だって同じ。その目線を大切にしましょう。

 

表2精神症状を引き起こす身体疾患の例3

精神症状を引き起こす身体疾患の例

 

コラム3:暴力が現れるのはどんなとき? ─考えられる原因と対応─

暴力の原因は“ゆとり”のなさ

暴力は“ゆとりのなさ”から生じてきます。背景として、精神疾患であれば“恐怖感”が多いかと思います。それは病状の不安定さが影響しているため、落ち着かなさがあったり、不眠がずっと続いていたり口調がきつくなってきたりという、ゆとりのなさを確認しておきましょう。恐怖以外では、患者さんと医療者との気持ちのすれ違いから暴力が生まれることが多いですね。

 

こちらの感情を入れず、“なぞって繰り返す”が基本

実際の場面では、すぐに謝ったり、相手の言いぶんをムキになって訂正したりしないこと。それらをするとますます攻撃を強めてしまいます。

 

こういう事態を防ぐために最低限覚えておきたいポイントは、“なぞって繰り返す”です。こちらの感情が変に入らず、相手に曲解されない優れた方法なので、これだけは覚えておきましょう。

 

病院としての姿勢を明確にし、複数人で対応を

そして、必ず逃げ道を確保し、複数人で対応します。数で優位に立つと自分の身を守れますし、相手も冷静になってくれることがあります。1人で対応すると危険で証拠も残りにくいため、複数対応としましょう。場所は防犯カメラのあるところが適切です。

 

ただし、暴力への対応は職員1人がすることではなく、必ず病院という組織がなすべきもの。対策部門を設立して病院としての一貫した姿勢をつくりましょう。そして、警備員や警察との連携を密にしておくこと。職員1人を危険に晒すわけにはいきません。

 

 


 

 

(illustration:江田 ななえ)

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2014照林社

 

P.83~「治療の場での精神症状へのかかわり方」

 

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[出典] 『エキスパートナース』 2014年10月号/ 照林社

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