看護師の業務は療養上の世話と診療の補助! 緊急時には例外も
看護師さんにとって、医療事故や医療訴訟は決して他人事ではありません。
ここでは、医療事故を起こしてしまったときに看護師さんが知っておくべき医療に関する法律の知識を解説します。
第2話では、「誤嚥によって窒息死してしまった事例」から学ぶ、「看護師として求められる医行為」についてのお話です。
大磯義一郎、森 亘平、谷口かおり
(浜松医科大学医学部「医療法学」教室)
第1話では、『誤嚥によって窒息死してしまった事例』を紹介しましたが、ホームヘルパーの真由美さんが誤嚥に気付き、それ相応の処置をすべきだったか、看護師である咲子さんに早期に連絡をすべきだったかが、問題になりました。
大切なポイントは、専門職によって求められている医療水準が異なるという点でしたよね。
その通りです。
それでは、看護師の皆さんには、看護師としてどのような行為が求められているのでしょうか?
今回は、その点を確認してみましょう。
〈目次〉
- 看護師の業務は、「療養上の世話」と「診療の補助」
- ・看護師が行える「診療の補助」はどんなものがあるのか?
- 保助看法に記載された業務以外にも、例外がある
- ・緊急の場合や助産師の業務
- ・特定行為研修を受けて行う特定行為
- まとめ
看護師の業務は、「療養上の世話」と「診療の補助」
看護師さんの業務は、『保健師助産師看護師法(保助看法)』に定められていますが、大きく分けると、2つになります。
1つは、何ら制限なく行うことのできる「療養上の世話」です。そして、もう1つは、あくまで補助としての制限が加わる「診療の補助」があります。つまり、「療養上の世話」は看護師が独断で行うことができるのに対して、「診療」はあくまで補助としてしか行うことはできません。
看護師が行える「診療の補助」はどんなものがあるのか?
保助看法では、医師や歯科医師の指示があった場合を除き、看護師さんが単独で、患者さんの身体に危害が加わる可能性がある行為を行うことを禁止しています。つまり、裏を返せば、医師や歯科医師の指示があれば、看護師さんが行うことのできる医行為自体には、制限がありません。
なお、看護師さんが行った医行為が「診療の補助」にあたるかどうかは、その行為を全体として評価して、判断する必要があります。医師が行っている診療の補助と評価できるか否かがポイントになります。そのため、あくまでも医師の補助であれば、臨床現場での行為は「診療の補助」に該当します。
memo看護師の医行為について記載された保助看法第37条
主治の医師又は歯科医師の指示があった場合を除くほか、診療機械を使用し、医薬品を授与し、医薬品について指示をしその他医師又は歯科医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為をしてはならない。
保助看法に記載された業務以外にも、例外がある
緊急の場合や助産師の業務
看護師さんが医師の指示がなく単独で医行為を行うことは保助看法(第37条)で禁止されていますが、例外が認められている2つの場合があります。
①臨時応急の手当て時
②(助産師の場合)へその緒を切り、浣腸を施し、そのほか助産師の業務に当然に付随する行為の時
上記のような場合には、医師や歯科医師の指示を必要としません。このような緊急の場合には、看護師は医師と同等の行為を行うことが可能です。
特定行為研修を受けて行う特定行為
また、緊急時や助産師の業務以外でも、例外があります。それは、特定行為です。
特定行為は、あくまでも診療の補助ですが、「看護師さんが手順書により行う場合には,実践的な理解力,思考力及び判断力並びに高度かつ専門的な知識及び技能が特に必要とされるものとして厚生労働省令で定めるもの」と規定されています。
特定行為の内容は多岐にわたりますが、具体的には、以下のような行為などが該当します。
①経口用気管チューブ、または経鼻用気管チューブの位置の調整
②経皮的心肺補助装置の操作、および管理
④硬膜外カテーテルによる鎮痛剤の投与、および投与量の調整
⑤抗けいれん剤の臨時の投与
上記の手技の内容を見て、高度な医療だと感じる人もいるかもしれません。
これらの手技は、看護教育において十分な教育がされていないため、研修が義務付けられています。そして、この研修を受けた看護師さんであれば、手順書(医師が看護師に診療の補助を行わせるために、その指示として作成する文書)に基づいて特定行為を行うことが認められています。
なお、これらの特定行為については、保助看法第37条に定められています。
まとめ
保助看法では、あくまで医行為の範囲を広く規定し、看護師さんは「診療の補助」ができるという原則が設定されています。緊急時や特定行為などは、看護師さんが行う医行為として認められています。
もし、保助看法に違反した場合は、刑事罰や行政処分が科される場合もありますので、日常の臨床現場で普段行わない行為をする場合には、医師に指示を求めるか、先輩看護師に相談するようにしましょう。
[次回]
⇒『ナース×医療訴訟』の【総目次】を見る
[執筆者]
大磯義一郎
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 教授
森 亘平
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員
谷口かおり
浜松医科大学医学部「医療法学」教室 研究員
Illustration:宗本真里奈