人工呼吸中の鎮静の目的は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「人工呼吸中の鎮静」に関するQ&Aです。
植村 桜
大阪市立総合医療センター看護部
人工呼吸中の鎮静の目的は?
鎮静は、患者の苦痛を軽減し、快適さを確保することで、安全で効果的な人工呼吸を行うことを目的に行います。
〈目次〉
人工呼吸中の患者の苦痛
人工呼吸中の患者が抱える身体的苦痛には、疼痛・呼吸困難感・気管チューブの不快感・口渇感・嚥下困難感などがある。
人工呼吸中の患者が抱える精神的苦痛には、コミュニケーションの障害・睡眠障害・不安・緊張感・恐怖感・抑うつ感・孤独感・コントロール感の欠如などがある(図1)。
人工呼吸中の患者の身体的苦痛と精神的苦痛は相互に影響し合っている。
苦痛に伴う頻呼吸や交感神経刺激は、呼吸仕事量や酸素消費量の増加を招き、人工呼吸の目的達成を阻害する要因となる。
人工呼吸中の患者の苦痛は、不穏やせん妄の促進因子であり、事故(自己)抜管のリスクを高め、患者の長期予後にも影響を及ぼす可能性があるため、適切な鎮痛・鎮静が重要である(『人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、なぜ重要なの?』鎮静・鎮痛の目的)。
鎮静管理の考え方の変遷
従来の鎮静管理は、人工呼吸中の苦痛を患者に自覚させないことが基本であり、深い鎮静レベルを維持することが目標とされてきた。
しかし、過剰な鎮静によるVAP(人工呼吸器関連肺炎)*などの合併症の増加、人工呼吸器装着期間・ICU入室期間の長期化が問題となっている(『人工呼吸中の鎮静は、患者の予後に、どんな影響を及ぼすの?』)。
近年の鎮静管理は、過剰鎮静による弊害を避けるため、十分な鎮痛を基盤として、早期に鎮静を中止するか必要最低限の浅い鎮静状態を目標とする考え方(analgesia-based sedation:鎮痛重視型鎮静)が主流となっている(『人工呼吸中の鎮静管理のポイントは?』)。
- VAP(ventilator-associated pneumonia):人工呼吸器関連肺炎
[文献]
- (1)日本集中治療医学会:ICUにおける鎮痛・鎮静に関するアンケート調査. 日集中医誌2012;19:99-106.
- (2)日本呼吸療法医学会人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン. 人工呼吸2007;24:146-167.
- (3)Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al. Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation,and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med 2013; 41: 263-306.
- (4)飯田有輝, 坪内宏樹:ICU患者の早期運動療法の効果. ICUとCCU2012;36:407-413.
- (5)臼杵理人, 松岡豊, 西大輔:集中治療室における急性ストレス障害(ASD)と心的外傷後ストレス障害(PTSD). ICUとCCU2012;36:181-187.
- (6)古賀雄二, 若松弘也:ICUせん妄の評価と対策:ABCDEバンドルと医原性リスク管理. ICUとCCU2012;36:167-179.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社