人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、なぜ重要なの?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「人工呼吸中の鎮痛・鎮静」に関するQ&Aです。
古賀雄二
川崎医療福祉大学保健看護学科准教授
人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、なぜ重要なの?
薬理学的・非薬理学的ケアにより患者の苦痛緩和と快適性を保持し、人工呼吸との同調性を高めるために重要です。
人工呼吸中の鎮痛・鎮静
鎮痛と鎮静の失敗は、患者に即時的な影響や、ICU退室後までも含めた影響を及ぼすことがある。
即時的影響としては、日本呼吸療法医学会の「人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン」にある「鎮静・鎮痛の目的(表1)」が達成できないことが挙げられる。
1 | 患者の快適性・安全の確保
|
2 | 酸素消費量・基礎代謝量の減少 |
3 | 換気の改善と圧外傷の減少
|
他の影響としては、直接的に不穏やせん妄のリスクファクターとなるだけでなく、その結果として人工呼吸器離脱や早期離床の妨げとなり、負のサイクルの一端を助長することが挙げられる。
人工呼吸中の鎮痛・鎮静は、薬理学的ケアだけではなく、非薬理学的ケアを伴うことが重要である。「鎮静の前に考慮すること(表2)」を人工呼吸管理中一貫して行うことが必要である。
a | 患者とのコミュニケーションを確立する 非言語的コミュニケーション技術(筆談・読唇術・文字ボードなど)を用いて、患者の意思やニードを明らかにする |
b | 患者の置かれた状況の詳しい説明を行う 患者の理解度に合わせ、現状の説明や処置・ケアについて説明を行い、現状が理解できるように働きかける。「期間」「予定」など具体的に説明を行うことは、患者の目標やはげみになる。また、人工呼吸器装着による弊害(声が出ない、気管チューブ留置による違和感、器械による換気のイメージ)および鎮静薬の使用が可能であることなどを説明する |
c | 安静による苦痛を取り除くため、体位交換、除圧マット類などを用いることによって体位を調節する |
d | 気管チューブによる疼痛や術後疼痛など、疼痛はスケールによる評価を行い、積極的に取り除く 〈解説〉人工呼吸中の患者は、気管チューブそのものによる疼痛や人工呼吸器装着による不快感、気管吸引や体位変換にともなう苦痛、創部痛などさまざまな苦痛を感じている。それらの苦痛を軽減させる鎮痛を行うことは、患者のストレス反応を減少させ、咳嗽や深呼吸を容易にし、呼吸器合併症の予防にもつながる。適切な鎮痛が行われれば、鎮静を行う必要性も少なくなり、過度の薬物投与を避けることができる |
e | ベッド周辺の環境を整える 音・照明の調節、プライバシーへの配慮を行う。医療者の足音や話し声にも配慮を行う 医療スタッフとの人間関係(信頼関係)も重要な環境のひとつである |
f | 日常生活のリズムと睡眠の確保を行う 日時を伝え、光の調節や睡眠リズムを整える |
g | 患者家族の面会を延長し、家族とともにいる時間を多くする |
ABCDE+αの視点で医原性リスクを低減することが重要である。
[文献]
- (1)Barr J, Fraser GL, Puntillo K, et al. Clinical practice guidelines for the management of pain, agitation, and delirium in adult patients in the intensive care unit. Crit Care Med 2013; 41: 263-306.
- (2)Vasilevskis EE, Ely EW, Speroff T, et al. Reducing iatrogenic risks: ICU-acquired delirium and weakness--crossing the quality chasm. Chest 2010; 138: 1224-1233.
- (3)Schefold JC, Bierbrauer J, Weber-Carstens S. Intensive care unit-acquired weakness(ICUAW) and muscle wasting in critically ill patients with severe sepsis and septic shock. J Cachexia Sarcopenia Muscle 2010; 1: 147-157.
- (4)ICU Delirium and Cognitive Impairment Study Group: Bedside Treatments for ABCDE Protocol. http://icudelirium.staging-vh.mc.vanderbilt.edu/ docs/ABCDEF_Education_Handout.pdf(2014年11月18日閲覧).
- (5)日本呼吸療法医学会 人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドライン.人工呼吸 2007;24:146-167.
- (6)Gélinas C, Fillion L, Puntillo KA, et al. Validation of the critical-care pain observation tool in adult patients. Am J Crit Care 2006; 15: 420-427.
- (7)古賀雄二:Analgesia Based Sedation(ABS). 呼吸器ケア2013;11:24-25.
- (8)古川力丸:人工呼吸管理中における鎮痛・鎮静.急性・重症患者ケア2012;1:115-122.
- (9)磨田裕: ICUでの一般的な鎮痛薬の使い方(硬膜外鎮痛を含む).布宮伸,鶴田良介特集編集,鎮静・鎮痛管理Q&A−日本呼吸療法医学会のガイドラインを踏まえて-. 総合医学社, 東京, 2009.
- (10)Page V, Ely EW著, 鶴田良介, 古賀雄二監訳:ICUのせん妄. 金芳堂, 京都, 2013.
- (11)日本呼吸療法医学会・多施設共同研究委員会:ARDSに対するClinical Practice Guideline 第2版.人工呼吸2004;21:44-61.
- (12)ICU Delirium and Cognitive Impairment Study Group: Bedside Treatments for ABCDE Protocol. http://icudelirium.staging-vh.mc.vanderbilt.edu/ docs/ABCDEF_Education_Handout.pdf(2014年11月18日閲覧).
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社