人工気道留置中患者のコミュニケーションの方法は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「人工気道留置中患者のコミュニケーションの方法」に関するQ&Aです。
露木菜緒
一般社団法人Critical Care Research Institute(CCRI)
人工気道留置中患者のコミュニケーションの方法は?
筆談、文字盤、ジェスチャーなど、さまざまなコミュニケーションツールがあります。患者の苦痛を知り、声をかけていくことで、コミュニケーションは単なる情報の伝達のみでなく、患者に安心感を与えるものとなります。
〈目次〉
発声以外のコミュニケーション方法
1筆談
紙とペンを用意し、患者に書いてもらう方法である。文字が書ける状態の患者に適する。
一般的には太いペンのほうが握りやすい。インクの色が濃く見やすいものを選択する。
できるだけヘッドアップし、用紙はボードに固定するなど、書きやすい体勢を整える。
意思が的確に伝わり、後に家族への情報提供にもなるが、読めないことも多く、患者の疲労も大きい。
2指文字
看護師の手掌や宙に、指で字を書いてもらう方法である。
物品が不要で、すぐに対応できるが、一文字ずつ確認しなくてはならず、時間がかかるうえに読み間違いも多い。
350音表、文字盤(図1)
50音を書いた文字盤を見せ、患者に指差してもらう方法である。
文字盤が透明な板であるのが望ましい(対側から、患者の注視した視線が見えるため、文字を特定しやすい)。
文字を探す必要があり、見つかりにくく、ストレスになる。
4単語カード(表1)
単語カード
- 傷が痛い
- 水が飲みたい
- 声が出ない
- 動きたい
- 眠れない
- のどが痛い
- 口を拭いてほしい
- 起きたい
- (抑制を)外してほしい
- 家族を呼んでほしい
患者がよく訴える内容をあらかじめ書き出し、患者に示してもらう方法である。
看護師が言葉で伝えて確認してもいい。
5読唇
唇の動きで言葉を読み取る方法である。
物品が不要で、すぐに対応できるが、読み取りにくく難しい。
6ジェスチャー
患者の表情やアイコンタクトによって読み取る方法である。
物品が不要だが、理解できないことも多い。
コミュニケーションのポイント
1患者の苦痛を知る
人工気道を留置した患者は、多くの苦痛を抱えている。チューブの疼痛だけでなく、話したいのに声が出ないことも苦痛である。気管チューブからうまく空気を吸えない、「のどが渇いた」と言っても水をくれない、動きたくてもさまざまな管が邪魔をして動けないことも苦痛である。
シーツや寝衣のしわや、掛け物が足先まで掛かっていないことが気になったり、顔や固定テープがかゆかったりすることもある。
コミュニケーションによって患者の苦痛を知ることで、少ない情報から、患者の訴えたい情報を得ることができる可能性が高まる。
2声をかける
声をかけ、苦痛はないか問い、部屋を出るときは「また来ます」「遠慮なく呼んでください」とナースコールを渡す。
「ナースコールが鳴らないから、訴えがない」と判断してはいけない。ナースコールを押せないのかもしれないし、がまんして押さずにいるのかもしれない。ナースコールが押せるところにあるか、患者に押す力はあるかを確認する必要がある。
患者は、不安や恐怖、薬剤や環境の影響による注意力の低下などから、同じことを何度も聞いたり、せん妄を合併したりするが、これは症状であり、仕方ないことである。根気強く説明し、対応していくことで安心にもつながる。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社