異なる血液型を輸血してはいけないのはなぜ?
『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。
今回は輸血の注意点について説明します。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
異なる血液型を輸血してはいけないのはなぜ?
輸血できる血液型は、本人の血液型と同じ血液型か、輸血しても異常反応が現れない血液型に限られます。
例えば、同一血液型の血液が得られない緊急時には、A型、B型の場合、О型の血液を輸血することが可能です。また、AB型の人は、すべての血液型の血液を輸血することができます。しかしО型の場合は、О型の血液しか輸血を受けられません。これは、なぜなのでしょう。
ABO式の血液型はA型、B型という2つの抗原によって分類されていると、Q18で記しました。この抗原は凝集原(ぎょうしゅうげん)ともいい、凝集する性質をもともと持っています。
一方、血清のなかには、凝集原(ぎょうしゅうげん)を凝集させる物質が含まれています。これを凝集素(ぎょうしゅうそ、抗体)といいます。
A型の血清には、B型の凝集原と反応して血球を凝集させる凝集素があり、これを抗B凝集素といいます。同様に、B型の血清にはA型の凝集原と反応して血球を凝集させる凝集素があり、これを抗A凝集素といいます。О型には両方の凝集素があり、AB型にはどちらもありません。
A型の血液をB型の人に輸血したと想定してみましょう。B型の人の血清中には抗A凝集素がありますので、A型の凝集原と反応して血球が凝集してしまいます。同様に、輸血したA型の血液の血清中には抗B凝集素がありますので、B型の凝集原と反応して血球が凝集してしまいます。すなわち、2つの方向から血液を凝集させてしまうのです。
AB型の人にすべての血液型の血液を輸血できるのは、凝集素が全くないからです。О型の人にほかの血液型の血液を輸血できないのは、A型とB型の双方の凝集素を持っているためです(表1)。
Rh(−)型への輸血の注意点
Rh(−)の人にRh(+)の血液を輸血してしまうと、どうなるでしょう。
Rh(−)の人は、もともとRh因子を持っていませんので、輸血された血液のRh因子を抗原とした抗Rh凝集素という抗体が作られます。輸血が1回ですめば何の問題も起きないのですが、もう一度輸血しなければならない時、問題になります。Rh(−)の人にRh(+)の血液を再輸血すると、ただちに血球の凝集や溶血などの反応が現れ、命に係わるからです。
こうした反応は、輸血だけでなく妊娠時にも現れる可能性があります。例えば、男性がRh(+)で、女性がRh(−)という組み合わせで妊娠が成立すると、胎児がRh(+)の血液型になることがあります。分娩時、胎児のRh(+)の血液が母親にも流れ込むことがあり、この時、母体内では抗Rh凝集素という抗体が作られます。
1回目の妊娠では作られる抗Rh凝集素が少ないので、胎児に移行する心配はほとんどありません。しかし、2回目の妊娠では母体内の抗Rh凝集素が胎児に移行し、胎児内でRh因子と結びついて赤血球の溶血を引き起こします。その結果、重症新生児黄疸、全身浮腫などをまねくことがあります。
現在では、1回目の出産の後に抗Rhの抗体である免疫グロブリンを注射することで、こうした発症を防ぐことができます。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
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[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版