PaO2とSaO2の評価方法は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「PaO2とSaO2」に関するQ&Aです。
尾野敏明
杏林大学医学部付属看護専門学校非常勤講師
酸素解離曲線を用いて、SaO2によって想定されるPaO2を把握します。
ただし、想定されるPaO2が実際のPaO2とは異なることがあります(右方偏位・左方偏位している病態の場合)。
〈目次〉
酸素飽和度と酸素分圧
酸素飽和度(SaO2)は、酸素とヘモグロビンとの結びつきを表したものである。
酸素飽和度と酸素分圧(PaO2)は、S字状の曲線(酸素解離曲線)で表されるような相関関係にある(図1)。
図1酸素解離曲線(pH7.40、PaCO240Torrの場合)
つまり、酸素飽和度は酸素分圧によって規定され、酸素飽和度がわかれば酸素分圧がどれくらいなのか推測することができる。
COLUMN分圧って?
分圧は、混合気体(数種類の気体がまざった状態)において、各成分が容器中の全体積を占めていると仮定したときの圧力を指す。
同じ温度・同じ体積という状況下では、混合気体の圧力は、各成分の圧力の和に等しい(ドルトンの法則)。
空気中の酸素分圧は、ドルトンの法則から考えると、160Torr(1気圧760Torrの21%)である。大気圧より高圧で酸素を投与すると、酸素分圧は上昇する。このしくみを用いた治療法が、高気圧酸素療法である。
(道又元裕)
評価のポイント
1SaO2<90%は酸素療法の適応
ポイントは「SaO2 90%(PaO2 60Torrに相当)」である。このポイントは、呼吸不全の診断基準に該当するか否かの基準で、一般的に酸素療法の適応になる部分である。
その他、SaO298%、95%、75%のポイントも覚えておこう(表1)。これらのポイントから、計測しているSaO2がPaO2で何Torrに相当するのかを見当づけして患者を観察していくことが重要である。
SaO2では、数%の動きしかなくても、PaO2は大きく変化する。そのため、数%の変化だからOKと決めつけず、PaO2の変化としてどうなのかを考えていくことが必要である。
SaO2(%) | PaO2(Torr) |
---|---|
98 | 100 |
95 | 80 |
90 | 60 |
75 | 40 |
2「酸素解離曲線に当てはまらない」場合
「正常なPaO2やSaO2が維持されていれば絶対安心」というわけではない。
正常なPaO2やSaO2であっても、血液のpHやPaCO2 、体温異常などにより、酸素解離曲線から想定されるPaO2やSaO2が実際と乖離している場合がある。
酸素解離曲線(図1)を基準とし、右側にシフトしている状態を右方偏位、左側にシフトしている状態を左方偏位という(図2)。この基準となるのが「SaO250%時のPaO2」であり、正常では27Torrである。このポイントをP50と呼ぶ。
つまりP50>27Torrは右方偏位、P50<27Torrは左方偏位となる。
酸素解離曲線の右方・左方偏位のことも考慮してアセスメントしていく必要がある。貧血がある場合などでは、正常なPaO2やSaO2であっても、組織が低酸素状態に陥っていることもある。これは、血液自体に含まれる酸素量(酸素含有量)が低下しているためである。
したがって、酸素含有量はどうかという視点をもって患者を診ていくことが重要である。
略語
- SaO2(arterial O2 saturation):動脈血酸素飽和度
- PaO2(arterial O2 pressure):動脈血酸素分圧
- pH(pondus hydrogenii):水素イオン濃度指数
- PaCO2(arterial CO2 pressure):動脈血二酸化炭素分圧
[文献]
※編集部註※
当記事は公開時点で、図2の記載が一部誤っておりました。
2024年11月7日に、正しい情報に修正しました。修正の上、お詫び申し上げます。
(誤)右方偏位しているとPaO2 60TorrでもSaO2は高い
(正)右方偏位しているとPaO2 60TorrでもSaO2は低い
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社