電解質異常の心電図|各疾患の心電図(10)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、電解質異常の心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
電解質異常とは何か
電解質はいわゆるミネラルで、体内にはナトリウム、カリウム、カルシウム、リンなどさまざまな電解質が存在していますが、心電図に影響が大きく、かつ日常問題になる電解質として、ここでは、カリウム(K)とカルシウム(Ca)について説明します。
体内の電解質には、適正な濃度があって、増えすぎたり減りすぎたりすると、生命活動がうまくいかなくなります。通常は腎臓を中心にこの適正濃度を維持していますが、腎機能低下やホルモン異常などで、電解質濃度に異常をきたすことがあります。
電解質異常の心電図所見は
高カリウム血症(血清カリウム>5.5mEq/L)
高カリウム血症では、心筋の興奮からの回復時間が短くなり、QT間隔が短縮するとともに、特徴的なテント状T波が出現します(図1)。
これは字のごとくで左右対称の尖った背の高いT波で、カリウム濃度がさらに増加すると、心臓内での電気信号の伝導も悪くなり、心房での伝導障害によってP波が小さくなってやがて消失してし、徐脈となります。心室内の伝導障害を反映してQRS波の幅が広くなります。幅広QRS波の徐脈から心停止に至ることがありペーシングが必要になります。
低カリウム血症(血清カリウム<3.5mEq/L)
低カリウム血症では、U波の出現、増高が特徴的です。T波の平坦化、陰性化が見られます。またSTも低下し虚血性心疾患と紛らわしい場合もあります。カリウム濃度が著しく低下し、U波が大きくなり、U波がT波と融合してしまうと、QT間隔とU波の区別がつかないTU波となります(図2)。このQT間隔(U波)の延長は、トルサード・ド・ポアンツや心室細動などの重症不整脈を誘発するので要注意です。
高カルシウム血症(血清カルシウム>10mg/dL)
高カルシウム血症では、高カリウム血症と同様QT時間が短縮しますが、T波の幅は変化せず、ST部分がなくなってしまうのが特徴です。つまり、QRS波からそのままT波に移行します(図3)。心筋の興奮性が高まって期外収縮は増えるかもしれませんが、通常は重症不整脈には至らないようです。
低カルシウム血症(血清カルシウム<8.5mg/dL)
低カルシウム血症では、低カリウム血症と同様QT延長が特徴ですが、違いは、低カリウム血症ではT波全体が延長しU波とともにQT(U波)延長として見られるのに対して、低カルシウム血症ではT波の幅は変化せずST部分が延長するQT延長です(図4)。QTの延長自体は低カリウム血症と同じく、致死性の心室性不整脈を起こしやすいので注意が必要です。
電解質異常の注意点は
電解質濃度の補正が治療になりますが、合わせてモニター心電図を注意深く観察し、不整脈対策が必要です。高カリウム血症で徐脈が高度なら、一時的なペースメーカーを行います。低カリウム血症、低カルシウム血症はQT延長から致死性の心室性不整脈(トルサード・ド・ポアンツ)をきたすことがあるので、注意しましょう。
電解質異常(カリウム、カルシウム)の心電図
- 高カリウム血症:QT間隔の短縮、T波増高(テント状T波)、伝導障害(心房、房室結節、心室)
- 低カリウム血症:QT間隔の延長、T波平坦化・陰性化、ST低下、U波の増高
- 高カルシウム血症:QT間隔の短縮(T波幅不変・STの短縮)
- 低カルシウム血症:QT間隔の延長(T波幅不変・STの延長)
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版