P波の幅と高さを見る|心疾患の心電図(1)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回から、心疾患の心電図について解説します。
〈目次〉
はじめに
不整脈は、心房の興奮・心室の興奮・両者の関係という3点を押さえれば解読できました。言ってみれば、時間軸、すなわち横軸の世界でした。
今回からは、心電図から心臓の状態を読み解くというテーマに挑戦しましょう。時間軸である横軸はもとより、電位の強さである縦軸、さらには12方向からの心臓の興奮様式を解読することで、心臓の状態を理解するという三次元の世界です。
しかし皆さん、恐れることはありません。心電図には無限に所見があるわけではなく、先人が100年かけてみつけてきた確立された共通認識があり、それらに基づく限定されたパターンがあるだけです。たとえば、心筋梗塞の心電図所見は100年前も同じだったはずです。ただ違うことは、その心電図パターンの解釈が確立され一般化された点です。
ここでは、心電図パターンから心臓の状態、疾患を推理しましょう。
P波の幅と高さを見る
重要な大前提があります。P波の幅と高さを判定するのは、洞調律の場合つまり洞性P波の場合にかぎります。異所性のP波は判定できませんし、また、する必要がありません。
そのうえで皆さんにうれしいお知らせをお届けします。P波で判定するのは、右(心)房負荷・左(心)房負荷および両(心)房負荷の3つだけです(以下、左心房→左房、右心房→右房、左心室→左室、右心室→右室と表記します)。
心房は心室に血液を送る補助ポンプの役割を担当します(図1)。
心房に負荷がかかるということは、血液の送り先の心室の圧が上昇しているか、房室弁の逆流によって心房が送り出す血液量が増加しているか、房室弁に狭窄が生じ送り出すための圧が上昇しているかによって起こります(図2)。
たとえば、僧帽弁狭窄症があると、左房から左室へ送り出すための収縮圧が上昇し、左房負荷がかかるという具合です。
マヨネーズの容器を心房とすると、サラダの量が多すぎて絞り出しにくい(心室圧の上昇)、あるいはマヨネーズの出口が狭くて絞るのに力が必要(房室弁の狭窄)、せっかく絞ったマヨネーズが容器に戻ってしまって、より多くの量を絞り出さなくてはいけない(房室弁の逆流)という状況です。
この負荷状態が慢性的に続くと、心筋の薄い心房は拡大して心電図にも所見として現れます。ですから心房負荷=心房拡大と言い換えてもよいでしょう。
右房負荷(拡大)
P波は心房の収縮を表していますが、ご存知のように心房には右房と左房があります。心電図上のP波は、右房の収縮成分と左房の収縮成分が合体して形成されています(図3)。
右房は、左房よりも洞結節からの信号が早く伝わるので、前半が右房成分、後半が左房成分であることは、賢明な皆さんならすぐ理解できると思います。
心電図上はⅠ誘導、Ⅱ誘導、aVFでは、右房、左房とも陽性のP波ですが(図4)、V1ではどうでしょうか。
身体を水平面で切断してみてみますと、V1では、右房の興奮は後から前へ、左房の興奮は前から後へ向かいます(図5)。つまり、前半は右房成分で上に凸の陽性波、後半は左房成分で下に凹の陰性波で構成されます。
右房に負荷がかかって拡大してくると、この右房成分が大きくなって尖ってきます。右房成分がよく見える下方の誘導、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVF、右房に近いV1、V2では、尖鋭化した高いP波が見られます。高いというのは抽象的ですから、基準を決めましょう。高さが2.5mm(通常は0.25mV)以上のP波は右房負荷と考えましょう(図6)。ただし、左房の興奮終了より遅れて幅が広くなることはないので、P波全体の幅は広がることはありません。
まとめ
- 右房負荷(拡大)のP波は、Ⅱ誘導、Ⅲ誘導、aVF、V1、V2で尖って、高さが2.5mm以上
左房負荷(拡大)
左房に負荷がかかって拡大すると、P波の左房成分が大きくなります(図7)。
元来、左房成分は小さいので、大きくなっても高さに反映されることはなく、拡大による伝導時間の延長でP波の幅に現れます。
具体的には左房成分が比較的はっきりしている、Ⅰ誘導、Ⅱ誘導でヤマが2つになり(二峰性)、幅が広くなります(図8)。幅が2.5mm以上(0.1秒以上)のP波は左房負荷を疑ってください。
では胸部誘導ではどうなるでしょう。V1では左房成分である後半の陰性部分が広く深いP波になります(上下の二相になるので二相性P波といいます)(図9)。
V1のP波の後半の陰性部分(基線より下のクボミ)の幅と深さのコマ数を掛け算して、1以上なら左房負荷とします。陰性部分の、幅(秒)×深さ(mm)をPterminal force(またはMorris指数)といって、この値が0.04秒×mm以上なら左房負荷としています。まあ簡単に、幅(コマ)×深さ(コマ)が1以上なら左房負荷と覚えてください。
まとめ
- 左房負荷(拡大)のP波は、Ⅰ誘導、Ⅱ誘導で二峰性、幅が2.5mm以上。V1で二相性、後半部分が広くて深い陰性波
両房負荷
右房負荷、左房負荷両方の所見のあるP波です。左房、右房とも所見がわかりやすい誘導はⅡ誘導とV1です。心房負荷(拡大)はこの2つの誘導のP波でチェックしましょう。
まず、心房負荷について少し勉強してみましょう。
心臓のポンプ機能のほとんどは心室が担っています。心室の収縮期にはその内圧が上昇して右室の収縮圧は肺動脈弁を開放して肺循環の推進力に、左室の収縮圧は大動脈弁をこじ開けて全身に血液を送り出します。
左室の収縮期圧は、すなわち動脈圧で収縮期血圧100~150mmHg、右室では肺動脈圧となり、左室の約1/3で20~40mmHg程度です。
もしも、この収縮期に房室弁(右室なら三尖弁、左室なら僧帽弁)に逆流があれば、その程度にもよりますが、右房、左房の負荷となります。つまり、房室弁逆流があれば、肺動脈圧・大動脈圧の上昇は右房・左房の負荷になるわけです。
では、拡張期はどうでしょう。心室の拡張期圧は、心室の収縮不全・拡張不全で上昇するとともに、収縮期圧の上昇に引っ張られるように拡張期圧も上昇します。結局、心室の収縮期圧の上昇、収縮・拡張機能の低下によって心房負荷が生じるといえます。収縮期圧の上昇は右室なら、肺動脈弁狭窄や肺高血圧症、慢性閉塞性肺疾患といった病態、左室では、大動脈弁狭窄や高血圧症といった病態があります。
収縮機能の低下は、右室なら右室の心筋梗塞など、左室でも心筋梗塞のほか、さまざまな原因による左室機能不全です。
収縮機能の低下は、心室筋の筋力低下として理解しやすいと思いますが、拡張機能の低下とは要するに心室の拡張の悪さ、硬さと考えてください。ゴムも古くなると伸縮が悪くなりますよね。古いサッカーボールに空気が入れにくいのと同様に、心室筋が固くなれば拡張期の圧が高くなり、結局心房に負荷がかかります。
その他、収縮性心膜炎、心タンポナーデは、心臓の外部から両心室の拡張を制限する疾患ですし、左室肥大や拘束型心筋症は左室が硬くなって拡張が悪くなる疾患です。次にマヨネーズの出口について考えてみましょう。口が小さければ、より強い絞り出し力を必要とするように、房室弁に狭窄があれば心房に負荷がかかるのは理解できますね(図10)。僧帽弁狭窄症は、左房負荷の代表選手のような疾患です。
また、房室弁に逆流があれば、せっかく心室に送り出した血液が再度心房に戻って来ますから、心房負荷になります。三尖弁逆流、僧帽弁逆流がこれにあたります。
MEMO
①調律
洞調律はⅠ誘導、Ⅱ誘導、aVFの陽性P、PP間隔は規則正しく15~30コマの間
②心拍数
RR間隔は規則正しく15~30コマ(心拍数50~100回/分)
③P波
幅・高さ:2.5コマまで
高い-右心房負荷
広い-左心房負荷
④PQ間隔
3~5コマ。P波の後は必ずQRS波。PQ間隔は一定。延長・脱落は房室ブロック
⑤QRS波
幅:3コマまで
高さ:四肢5コマ、胸部10コマ未満は低電位
V5のR波>25コマ、V1S波+V5R波>35コマで左室(左側)高電位方向:電気軸は0°~90°が正常。移行帯はV2~V5が正常
Q波:R波の1/4の深さ、幅0.04秒以上は異常Q波
⑥ST-T
STは基線のレベルが正常。T波は高いR波で陽性T波が正常
T波はR波の1/10以下が平低T波
⑦U波
正常では小さく陽性
⑧QT間隔
RRの半分以上なら延長
P波の幅と高さでわかること
P波はⅡ誘導、V1で診断。
Ⅱ誘導:幅も高さも2.5コマまで(増高・尖鋭:右房負荷、幅広・二峰性:左房負荷)
V1:高さ2.5コマまで、後半の陰性部分をチェック(増高・尖鋭:右房負荷、二相性、深い広い陰性波:左房負荷)
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版