心室性期外収縮|心室起源の幅広QRS波<1>|不整脈の心電図(10)
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心電図が苦手なナースのための解説書『アクティブ心電図』より。
今回は、心室性期外収縮について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
[前回の内容]
〈目次〉
心室性期外収縮
図1の心電図はいかがですか。
全体を見ると、形の違う幅の広いQRS波が1つ混ざっていますね。
では、P波を探します。Ⅰ誘導・Ⅱ誘導・aVFで陽性P波、PP間隔は約19コマで規則正しく、PQ間隔も約3コマで一定ですね。
幅広いQRS波だけが異常のようですね。この幅広QRS波にはP波が先行していませんし、幅が広いということはヒス束~脚~プルキンエ線維を通っていないですから、心室から発生した、つまり心室起源である可能性が濃厚です。
心室から発生して、洞調律のQRS波よりも早いタイミングで出現する幅広QRS波を、心室性期外収縮(premature ventricular contraction:PVCまたはventricular premature contraction:VPC)といいます。通称“ブイ”です。
幅広QRS波の終末部をよく見ると、とくにⅠ誘導ではっきりしますが、P波があります。ディバイダーで数拍分PP間隔を合わせてみると、洞不整脈によると思われる多少のズレはありますが、ほぼ洞周期に一致して出現しているP波です。
つまり、心房は洞結節の周期で規則正しく拍動しています。幅広QRS波は心房の周期と無関係に出現していますから、この興奮は心室内で発生したと断言できるわけです。
言い方を変えれば、幅広QRS波の1拍は心房波とはリンクしていないので、この部分は心房と心室が独立して興奮している房室解離といえます。このように房室解離が確認できればそのQRS波は、心室性期外収縮と確定できます。
まとめ
- 洞周期より早いタイミングで出現する幅広QRS波
- P波が先行していない
- 房室解離が確認できれば心室性期外収縮は確定できる
アクティブ心臓病院の看護部に例えると、どうなっているでしょうか。
洞結節総師長-心房管理室は、平常どおり規則正しい周期で、命令-業務を行っています。心室病棟のスタッフが、管理室からの命令を待たずに勝手に仕事をするのが心室性期外収縮です。
通常の伝達ルートではないので業務に時間がかかります(幅が広いQRS波)。管理室の命令が届くタイミングでは、仕事が終わっていますので、心室病棟は仕事をしない不応期に入って、心房管理室の命令は伝わりません。
心室性期外収縮の原因と対応
上室性期外収縮と同様に全くの健康人でも1日に数拍から数百拍、多い人では1万拍ぐらいの心室性期外収縮が出ます。何拍出たら異常で、何発までは正常とはなかなか決められません。
心室性期外収縮の究極の悪い形は、次回記事で述べる“心室頻拍・心室細動”というポンプ機能がなくなってしまう致死性不整脈です。健康人は、心室性期外収縮があっても致死性不整脈になってしまうことは、ほぼありません。
しかし、心疾患があってそれが不安定な状態の場合や、全身状態不良や低酸素、電解質異常など心臓を取り巻く環境が悪い場合は、致死性の不整脈に移行してしまう場合があります。
基本的には、この不整脈を発見したら患者さんのもとへ走ってください。何か変化がないか、よく見て、よく話を聞いて、バイタルサインをチェックしてください。可能であれば、標準12誘導心電図をとりましょう。
医師には、以下の場合は必ず報告しましょう。
なぜなら、これらの出現は、心臓やそれを取り巻く環境に悪い変化が起こっている可能性があり、心臓が不安定になっていて、致死性不整脈の前兆の場合も考えられるからです。
- 心室性期外収縮の数が増えた(いままでなかったのが出始めたものも含めます)。
- 形の違う心室性期外収縮が出た(多源性、図2-a)。同じ形であれば、心室内の同じ部位から発生していますが、形が違うということは、違う部位からの発生を意味します。2種類以上の形の違う心室性期外収縮を多源性心室性期外収縮といいます。
- 心室性期外収縮が2拍以上連続した(連発、図2-b)。2拍連続を2連発、3拍なら3連発……といいます。3連発以上をショートランということもあります。
- 前の心拍のT波の上に出た(R on T:心室性期外収縮のR波が前のT波の上に出現、図2-c)。これは、心室の不応期終了前後つまり受攻期に発生した心室性期外収縮を意味しています。心室細動をきたす可能性のある危ないタイミングでの発生です。
「増えた(増加)・変わった(多源性)・続いた(連発)・乗り上げた(R on T)」と覚えましょう。
心室性期外収縮のその他の分類
段脈
上室性期外収縮と同様に、洞調律と心室性期外収縮が交互に出現するものを2段脈、洞調律・洞調律・心室性期外収縮を繰り返す場合、つまり3拍目に心室性期外収縮が見られるサイクルを繰り返す場合を3段脈とよびます(図3)。
心室性期外収縮のQRS波と、先行する正常QRS波の間のRR間隔を連結期といい、同じ形のPVCつまり起源が同じ部位から発生するPVCならば、連結期も同じです。
これは、心室性期外収縮の発生が、先行する心室興奮に関連して出現するためです。
副収縮
促進型心室固有調律のところで、心室に固有の調律(自動能)がある場合の勉強をしました。簡単にいうと洞結節以外に、心室内にもう1つのペースメーカーをもっていると考えてください。心室起源ですから幅広QRS波になりますね。
普通は心房からの伝導で心室が興奮すれば、このペースメーカー機能つまり自動能はリセットされて、1拍ごとにキャンセルされるはずですが、このリセットが効かない場合があります。
もしも心室固有調律の心拍数が洞調律を上まわれば、つまり心室周期が洞周期よりも短ければ、房室解離になってPP間隔とRR間隔が無関係の周期で独立して見られます。これが促進型心室固有調律(P波とQRS波が別々のリズムの心電図参照)です。
この状況で、心室側から心房側への興奮伝導がある場合つまり逆伝導がある場合(正常心臓の約半分は逆伝導があるといわれています)、心室から心房へ興奮が逆伝導して、ヒス束側から下から上に心房が興奮して、Ⅱ誘導・Ⅲ誘導・aVFでは、規則正しい周期の幅広QRS波の後に陰性P波が見られます。これは促進型接合部調律のQRS波が幅広くなったと考えてもらえればよいと思います。
では、洞周期のほうが短い場合(洞調律のほうが心室固有調律よりも早い場合)はどうでしょう。
基本的には心臓は洞周期で収縮していて心室調律が顔を出すことはありませんが、心室が不応期でないときだけ、この固有調律が出現します。しかもこの周期はリセットされていませんから、固有調律の整数倍で出現します。これが副収縮(parasystole)で、特徴は心室内の固有調律なので、前の心室興奮に影響されずに独立した周期で出現します。したがって、連結期が不定です。
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混乱したでしょうから、復習も兼ねて順を追ってまとめてみましょう。
- ①刺激伝導系には、自動能があるが下位ほど弱く調律の周期が長い。
- ②通常は上位からの刺激の通過によって下位の自動能はリセットされる。
- ③洞機能不全、房室ブロックなどで心室に達する刺激の間隔が病的に延長すると、下位の自動能が顔を出す。これが補充調律。
- ④完全房室ブロックであれば、心房と心室は独立した興奮周期で収縮する。通常は心房心拍数>心室心拍数(心房周期<心室周期)。
- ⑤下位の自動能が亢進して、その周期が、生理的な洞周期よりも短くなるのが促進型調律。
- ⑥促進型調律が接合部なら(促進型接合部固有調律)、幅が狭いQRS波になり、心室なら(促進型心室固有調律)なら、幅が広いQRS波となる。
- ⑦促進型心室固有調律が房室間を逆伝導すれば、洞調律よりも短い周期なので心房はこの調律で下から上に興奮してQRS波の後の逆向きのP波となる。この心房興奮により洞結節はリセットされ続け、洞周期は出現しない(図4-a)。
- ⑧逆伝導がない場合は、心房は洞周期で心室は固有調律の周期でそれぞれ独立した収縮周期となる(房室解離)。ただし、心房心拍数<心室心拍数(心房周期>心室周期)(P波とQRS波が別々のリズムの心電図、図1参照)。
- ⑨この心室固有調律の心拍数が100回/分以上なら、心室起源の頻拍つまり心室頻拍である(次回記事で解説します)。
- ⑩心室固有調律(自動能)の周期は、洞周期より長い場合でも、もしリセットされない場合は、心室固有調律の周期で心室は興奮する。ただし、洞調律の心室収縮による不応期の間はこの心室調律は出現できない。心室が不応期から脱している間に、この調律が出現すれば、幅広QRS波として現れる。したがって、出現間隔が固有調律周期の整数倍、連結期が不定という特徴があり、通常の心室性期外収縮とは異なる(図4-b)。原則的には治療の必要はない。
まとめ
- 連結期が一定でない幅広QRS波の出現は副収縮を考える
- 副収縮ならばその出現周期は、心室固有調律周期の整数倍になる
アクティブ心臓病院の看護部に例えると、副収縮はどうなっているでしょう。
心室病棟内のスタッフには、自発的に命令を出す能力、自動能があります。通常は上から命令が届けばその能力はリセットされて表に出ません。
ところが、リセットされないひねくれ者スタッフがいると、自分のペースで命令を出して病棟を働かせます。上からの命令で心室病棟が業務を行っている不応期の間はこの命令は、誰も相手にしませんが、不応期を脱しているとマジメに業務が行われます。この副業務の周期は、心室スタッフの命令周期の整数倍になります。
[次回]
心室起源の幅広QRS波<2>心室頻拍|不整脈の心電図(11)
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『アクティブ心電図』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版