加入条件を解説 派遣看護師の社会保険
派遣で働く場合、看護師は社会保険への加入はできるのでしょうか。社会保険への加入条件は雇用契約期間によって定められているため、派遣の種類(期間)によっては、入れる場合と入れない場合とに分かれます。
ここでは派遣で働く場合の社会保険をはじめ、労災や看護師賠償保険への加入可否についても合わせて解説していきます。
目次
Point!
- 雇用保険は一部の単発派遣以外は加入可
- 厚生年金・健康保険は労働契約期間2ヶ月以上で加入可
- 労災は派遣でも適用される
- 看護師賠償保険は加入可
派遣看護師の社会保険(雇用保険・厚生年金・健康保険)への加入
社会保険に関しては、健康保険・厚生年金と雇用保険で加入条件が異なります。
どの派遣スタイルなら何の保険に加入可能なのか、一目でわかる表で比較してみましょう。
派遣形態別・社会保険加入の可否
雇用保険の加入条件
- 1つの派遣会社に31日以上引き続き雇用されることが見込まれていること
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
よって、一般的に派遣会社との契約が2ヶ月以上となる短期・長期・紹介予定派遣では、1週間に20時間以上働いていれば、雇用保険には問題なく加入することができます。
1日~1週間おきに派遣先が変わってしまう単発派遣の場合も、同じ派遣会社との契約が31日以上あり、かつ1週間に20時間以上労働していれば、派遣先がどれだけ変わっても、継続的に雇用保険に加入し続けることができます。
単発派遣で例外的に雇用保険の加入が認められるケース
上記の条件「1つの派遣会社に31日以上引き続き雇用されること」に合致しない場合でも、単発派遣で加入が認められるケースがあります。
11つの派遣会社との雇用契約が途切れ途切れに結ばれていて、1週間の所定労働時間が20時間以上となる場合
単発派遣の場合、派遣先が変わる(派遣会社と派遣先の派遣契約が切れる)ごとに派遣会社との雇用契約も切れてしまい、連続して31日以上、同じ派遣会社に雇用されるという条件は満たしにくいことがあります。
ですがその場合も、「所定労働時間が週20時間以上」という条件さえ満たしていれば、加入が可能になるケースがあります。
2複数の派遣会社との雇用契約を合算して31日以上となる場合
ほかにも、例えばA社との雇用契約が切れたその日にB社と雇用契約を結んで…というように、すぐ派遣会社を乗り換え、31日以上となる場合。1日も空かないことが前提ですが、この場合も雇用保険に加入することができます。
ただし、前もってハローワークに申請し、日雇手帳(ひやといてちょう)の発行を受ける必要があります。詳しくは、最寄りのハローワークに問い合わせてみましょう。
長期派遣なら失業給付金も受け取れる
1年以上雇用保険に加入していた看護師なら、万が一派遣期間満了後に次の派遣先が見つからなかった場合にも、一般的な転職の際と同様、失業給付金を受け取ることができます。
ただし、派遣期間満了は、多くの場合、ハローワークでは自己都合退職と同じとみなされてしまうため、実際に失業給付金を受け取ることができるのは、申請から約2ヶ月後になります。
良心的な派遣会社では、失業の理由を「本人の働きたいという強い意志に派遣会社側が応えられなかった」としてくれるなど、少しでも会社都合に近い扱いになるよう配慮してくれる場合もあります(※)が、最終的に自己都合・会社都合どちらにみなされるかはハローワークの判断に掛かってきます。
※会社都合等、退職を余儀なくされた場合は、ハローワークに離職票を提出した日から7日後に失業給付を受けることができます。
厚生年金・健康保険の加入条件
- 派遣会社と結ばれた雇用期間が2ヶ月を超えること
- 1週間の労働時間、および1ヶ月の労働日数が正社員の約3/4以上であること
※1ヶ月の労働日数は、登録型派遣スタッフの場合、派遣会社の所定労働時間で判断します。
厚生年金と健康保険は、派遣会社との契約が2ヶ月以上あり、フルタイム換算で概ね週4日以上で勤務していれば、加入することができます。
1週間の労働時間の目安
- 所定労働時間が8時間・週5日勤務の場合… 8×5×3/4 = 30時間
- 所定労働時間が7時間・週5日勤務の場合… 7×5×3/4 = 26.25時間
短期派遣の場合は要注意
短期派遣で、派遣期間がちょうど2ヶ月で満了となる場合は「派遣会社と結ばれた雇用期間」が2ヶ月未満となるため、厚生年金・健康保険に加入することができません。
当初から3ヶ月の契約であれば、概ね週4日以上フルタイムで働いていることで、加入できます。
また、当初2ヶ月の契約であっても、その後1ヶ月の延長が前提となっている場合でも加入可能。当初2ヶ月で満了の予定でしたがその後1ヶ月の延長が生じた場合は、その月から入れることになります(前月・前々月まで遡って入ることはできません)。
〈短期派遣で厚生年金・健康保険に加入できるケース・できないケース〉
- ○ 当初から派遣期間が3ヶ月の契約の場合
- ○ 当初は2ヶ月だが1ヶ月の延長(契約更新)が前提の場合
- × 1~2ヶ月で派遣契約が満了となる場合
- △ 2ヶ月で契約期間は満了だが、結果的に1ヶ月延長となった場合
(→3ヶ月目から社会保険に加入となる)
たまに見かける「まずは1ヶ月から始めていただき、その後延長の可能性もあります」といった求人も、契約更新が決まって2ヶ月以上の派遣が確定するまで、厚生年金・健康保険への加入はできません。
健康保険は任意継続という選択肢も
勤め先の健康保険に入れない=国民健康保険に切り替わるのは、支払額が増加するばかりでなく、下記のようなデメリットがあります。
- お子さんや配偶者などの扶養家族を持つ場合に扶養から外れてしまう
- 出産手当や傷病手当が受け取れなくなる
そこで、どうしても国民健康保険に切り替えたくないという場合には、任意継続という方法があります。
▼継続できる条件
資格喪失日(社会保険の加入状態から外れてしまう日)までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヶ月以上あれば可能。
▼手続き方法
資格喪失日(退職日の翌日など社会保険の加入状態から外れてしまう日)から20日以内に、加入している保険組合で手続きを行います。手続き方法は組合によって異なりますので、早めに確認を。
これまで加入していた健康保険は、支払額の半分を雇用者(医療機関や派遣会社など)が支払っていたため、支払額はほぼ倍額になります。
それでも、国民健康保険と比較して極端に高くなるということはありません(自治体ごとに金額が異なるため、一概に高くなるとも安くなるとも言えません)。
任意継続を選ぶか否かは、国保の金額と任意継続の金額、さらに扶養家族の保険負担額をそれぞれ考慮し、判断すると良いでしょう。
また、特に単発派遣や2ヶ月未満の短期派遣にこだわりがないのであれば、社会保険完備の短期派遣や長期派遣を選択するのがよいでしょう。
派遣看護師も労災(労働者災害補償保険)は適用される
派遣の看護師も、もちろん労災は適用されます。
労災保険への加入は、従業員を一人でも雇う経営者に課せられる義務。派遣の場合は、派遣先の代わりに、派遣会社そのものが労災に加入しています。
加入者は派遣会社ですが、その内容は直接雇用のものと変わりません。
労災法の趣旨
- 業務上の事由または通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して、迅速かつ公正な保護をするために必要な保険給付を行う
- 業務上の事由または通勤により負傷し、または疾病にかかった労働者の社会復帰の促進
- 上記労働者およびその遺族の援護、労働者の安全衛生の確保を図る
1業務上および通勤時の災害の補償内容
業務上または通勤中の災害について、下記のような補償を受けることができます。
- 療養補償給付
- 休業補修給付
- 障害補償給付
- 遺族補償給付
- 葬祭料
- 傷病補償年金
- 介護補償給付
2二次健康診断等給付
労働安全衛生法が義務づけている定期健康診断で異常が見つかったときには、二次健康診断や特定保険指導に関する給付を受けることができます(労災26条に基づく)。
▼給付対象となる異常
「過労死」等(業務上の事由による脳血管疾患及び心臓疾患の発生)に関連する異常。
▼二次健康診断と特定保健指導に関する給付の範囲
- 脳血管及び心臓の状態を把握するために必要な検査(厚生労働省令で定めるものを行う医師による健康診断。1年度につき1回に限る)
- 2次健康診断の結果に基づき、脳血管疾患及び心臓疾患の発生の予防を図るため、面接により行われる医師又は保健師による保健指導(2次健康診断ごとに1回に限る)
なお、派遣会社の労災加入は強制で、保険料は派遣会社が支払いますから、派遣看護師に請求がくることはありません。
派遣会社によっては「労災完備・保険料は全額当社が負担します」などと謳っていることがありますが、そもそも派遣スタッフ自身は加入の必要がなく、派遣会社自身が加入していることを考えると、ちょっと大げさな表現ですね。
派遣でも看護師賠償責任保険には加入できる
看護師賠償責任保険には、派遣の看護師も加入が認められています。
病院で医療事故などが起こった場合、病院や医師、看護師、その他の医療職は、安全な医療・看護を行わなかったことに対して、民事上の法的責任として債務不履行責任、不法行為責任を問われます。
こうした際、「看護師個人が訴えられたときのための保険」が、看護師賠償責任保険。保険料は年に数千円ということもあり、「これまで未加入だったが、医療事故紛争が話題になる近年になり、加入を決めた」という看護師さんも増えています。
多くの場合、医療機関ごとの団体割引が適用されるため、個人で入ると割高な印象がありますが、派遣会社によっては格安または無料で加入が可能。手続きにあたってどこかに出向く必要はなく、派遣会社とのやりとりだけで完結できる場合が多いです。
また、個人の場合は看護協会に加入しなければならないことが多いですが、派遣であればその必要もありません。
保険料や補償範囲、補償の限度額は派遣会社や契約する保険会社のプランにより異なります。気になった人は事前に派遣会社に問い合わせてみると良いでしょう。
なお、小さな派遣会社などでは、自腹で加入となるケースがありますのでご注意ください。