「良い思い出」をつくる力になりたい。ラグーナテンボス(複合リゾート施設)の看護師の仕事とは?|病院以外のレア職場(6)
さまざまな場所で働くナースを紹介する連載「病院以外のレア職場」。
第6回は、愛知県にある複合リゾート施設「ラグーナテンボス」で働く、Tさんにインタビュー!
ラグーナテンボスは、グルメ、ショッピング、テーマパーク、夏にはプールも一気に楽しめる施設です。その救護室で働くTさんに、仕事内容や看護師としてのやりがいについて、たっぷりお話を聞いてみました。
取材・文 トヤカン(元看護師・フリーライター)
ラグーナテンボスで働く看護師の仕事って? Tさんの場合
――今日はよろしくお願いします! さっそくですが、お仕事の様子についてお聞きしたいです。まず、患者さんの人数は1日だいたいどれくらいなんでしょうか?
平日は多くても3人ほど、土日・祝日は5人前後です。年代は、子どもが中心かな。施設内全域の患者さんに対応しているんですが、テーマパークから来る方が一番多いです。
ただ、夏はプールでの体調不良や怪我も多いですし、熱中症の患者さんが増えるので、1日20~30人ほどになります。毎年、目が回るような忙しさですよ。
――30人は多いですね……! 看護師さんは何人で対応するんでしょうか。
基本的には、看護師1人で、常駐の医師はいません。ただ、夏は1人では到底対応しきれないので、看護師2人体制になっています。
――どんな患者さんが救護室を訪れるんですか?
年間を通して多いのが、アトラクションでの乗り物酔いや、体調不良、転倒による捻挫や擦り傷ですね。
夏になると熱中症が最も多いですが、プールサイドで転んだとか、プール内で人とぶつかって鼻血が出たとかで、外傷も増える印象です。
患者のためにとった異例の判断。ラグーナテンボスで印象に残っている患者の話
――Tさんが今まで対応した中で、印象に残っている患者さんはいますか?
コロナ禍以前に、寝不足による体調不良で救護室を訪れたお父さんのことをよく覚えています。
お子さん2人と来場していたんですが、その日に休むために仕事を頑張りすぎてしまったそうで、当日に体調を崩してしまったんです。
――あらら…。どんな処置を行ったんですか?
ひどい寝不足で、ものすごく疲労がたまっていたので、休養が必要だと判断してベッドで寝てもらいました。
ただ、お子さんたちは元気なので、しばらくしたら遊びたがってしまって…。
――たしかに、お子さんは元気ですよね。でも、お父さんを無理やり起こすわけにはいかない……。
そうなんです。でもお子さんたちのことを思うと、いてもたってもいられなくて。
そのときは夏だったので看護師が2人いて、珍しく救護室も混雑していなかったので、一緒に勤務していた看護師に相談した上で、上司に「私がお子さんたちと一緒に少し遊んできてもよいか」と打診したんです。
状況を説明したら、上司も「少しの間なら」と許可してくれたので、一緒に遊びに行きました。
――なるほど…! とはいえ繁忙期の夏ですし、現場を離れることに不安はありませんでしたか?
もちろんありました。私が現場を離れている間に、1人じゃ対応できない数の患者さんが来る可能性もありましたし…。
でも、お子さんたちの「今日を楽しみにしていた」「目いっぱい遊びたい」という気持ちもわかるし、「自分のせいで遊べなくなった」とお父さんが気にしてしまったら、ゆっくり休めないだろうと思って。
もう1人の看護師も同じ思いだったようで、「患者さんのためにも、行っておいで!」と送り出してくれたのもありがたかったですね。
――患者さんと患者さんの家族のことを思っての行動だったんですね。その後、お父さんはゆっくり休んで元気になられたんでしょうか?
はい。しばらく休んで、元気になりました。普段めったにない異例の対応でしたし、テーマパークもあるラグーナならではという感じがして、とても印象深かったです。
幼い頃からの憧れが決め手。ラグーナテンボスで働き始めたきっかけ
――ラグーナテンボスの看護師として働き始めたきっかけは、どんなことだったんでしょうか?
新卒から5年目くらいまでは、名古屋市内の病院で勤務していたんですが、家庭の事情で地元に戻ることになりまして。次の勤務先を探しているときに、この仕事の求人を見つけたのがきっかけです。
求人の条件では、「いつどんな人が救護室を訪れるか分からないから、内科と外科どちらも経験がある看護師さんが望ましい」となっていて。総合病院の内科や、皮膚科や形成外科のクリニックで働いていた自分にぴったりだなと思ったんです。
ただ、もうひとつ大きな理由があって…。
――大きな理由、というと?
幼い頃、あるテーマパークの救護室でお世話になったことがあるんです。
当時小学生だった私は、そのテーマパークに遊びに行けることをすごく楽しみにしていて。前日も、車でそこに向かう道中も、楽しみすぎて眠れなかったんです(笑)。
当然ながら、寝不足の状態で到着しまして。しばらくは楽しく遊んでたんですが、アトラクションの列に並んでいるときに限界がきたのか、倒れかけてしまったんです。
「楽しみにしてたのに…!」と無念な思いを感じつつ、救護室で少し寝かせてもらい、そのおかげで元気になってまた楽しく遊べたんですよね。
――救護室のおかげで、体調を崩してしまっても、テーマパークを楽しめたんですね。
そうなんです。
大人になってから、ふと当時のことを思い返したとき「救護室があったおかげで、体調が悪くて楽しみきれなかった悪い思い出ではなく、力いっぱい楽しめた良い思い出になったのかな」って思って。
「助けてもらったからこそ、いつかそういうところで働いてみたい」とずっと憧れていたんですよね。
――そうだったんですね。とはいえ、今まで働いてきた病棟やクリニックとは異なる場所で働くことに、不安はありませんでしたか?
もちろん不安はありました。救護室に医師は常駐していないと聞いて「責任重大かも……」と思いましたし。
でも1回しかない人生だから、今までとは違う所で働いてみたいなって。ずっと前からの憧れもありますし、不安よりも「働いてみたい」という気持ちのほうが強かったですね。
「楽しかった思い出」にしてほしいから。ラグーナテンボスの看護師としてのやりがい
――最後に、ラグーナテンボスの看護師のお仕事のやりがいを教えてください。
患者さんを送り出す時に、「いってらっしゃい!」と言えるところですね。
ラグーナテンボスの看護師は必ず「いってらっしゃい!」と言っているんですが、笑顔でそう言って患者さんを見送るのがとても好きなんです。病院で言っていた「お大事に」とは、また違った温かさを感じています。
幼い頃の経験があるから特に思うんですが、私が働いている場所は、患者さんにとっては「非日常」で、来場した日は「ずっと楽しみにしていた日」なんですよね。まさか自分が体調を崩したり、怪我をしたりするなんて想定していないんです。だからこそ、いざそうなってしまうと、その日が一気に嫌な思い出に変わりやすい。
もちろん、万全の体調で安全に楽しんでもらえるのが一番です!でも、万が一のときに私たちが救護室でしっかり対応して、元気になってもらえたら、嫌な思い出にならずに済むかもしれません。
「いろいろあったけど楽しかった」と思ってもらえるよう、患者さんの力になれたらいいなと思っています。
ライタートヤカン
大学病院の正看護師として働いた後、フリーライターに転身。
『まいにちdoda』『ダ・ヴィンチニュース』『bizSPA!フレッシュ』にて記事を執筆。エンタメ、社会問題、はたらくこと、看護に関するジャンルを中心に幅広く活動中。
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