レーサーの安全を守る! サーキット会場で働く看護師の仕事とは?| 病院以外のレア職場(5)

写真は全て(株)オートポリス提供。

 

さまざまな場所で働くナースを紹介する連載「病院以外のレア職場」。

 

第5回は、オートバイや自動車のレースが行われるサーキット会場で働いている、看護師Wさんにインタビュー!

 

看護師として、レースを影で支えるWさんに、たっぷりお話を聞いてみました。

 


取材・文 トヤカン(元看護師・フリーライター)

医務室にはエコーやモニターも! サーキット会場で働く Wさんのお仕事

――今日はよろしくお願いします! まず最初に、サーキット会場の医務室では、どんな処置を行うんでしょうか?

 

レーサーが転倒したときの裂傷や擦過傷など、軽症の場合は、消毒や傷口の保護といった基本的な処置をしています。

 

私が勤務しているサーキット会場では、小規模レースとか一般客の走行がほとんどで、そういうときは私ひとりで対応していますね。

 

レース開催時やリスクの高い走行会のときは、外部から派遣された医師・看護師と一緒に、協力して処置を行っています。

 

大きな事故がセンセーショナルに報道されてしまうこともあって、そういったイメージもあるかもしれませんが、命にかかわるような大きな事故はごくまれなんですよ。

 

――そうだったんですね。 処置をするための物品などは揃っているんでしょうか?

 

基本的な物品は揃っていると思います。それ以外にも、重症患者さんが運ばれてきたときのために、超音波検査診断装置(エコー)やモニターも置いています

 

重症患者さんがきたときには、医師がそれらの機器を使うので、私はそのサポートをしています。場合によっては、胸腔ドレーンを入れて搬送することもありますね

 

医務室内の様子。基本的な物品のほかに、処置に必要な医療機器も多数揃っている

 

――万が一のためとはいえ、エコーやモニターまで揃えているんですね。

 

やっぱり、どんなに安全に配慮しても、大きな事故が起こる可能性をゼロにすることはできない現場なので、いざというときのための機器が揃っているのは、心強いですね。

 

できる処置の幅も広がりますし、結果的により多くの患者さんの救命につながりますし。

 

医務室前のヘリポート。重症度が高い患者さんをドクターヘリで搬送することもあるそう

 

サーキット会場のお仕事、1日の流れは?

――Wさんの1日のお仕事は、どのような流れですか?

 

レースや一般客の走行がある日は9時に出勤して、医務室を開ける準備をします。医療機器の点検や消耗物品・薬剤の在庫確認、足りない物品や薬剤の発注などですね。

 

準備が終わったら、呼び出しがくるまでは総務の仕事をするので、事務所でデスクワークです。

 

呼び出しがあったら手を止めて、事故状況を確認してから医務室に移動し、搬送されてきた患者さんの対応をする、といった流れです。

 

17時くらいにはレースや走行が終了するので、その時点で事故がなければ、医務室の片付けをして、17時30分ごろに退勤しています。

 

――看護の仕事の他に、総務の仕事もしているんですか?

 

はい。看護師と総務を兼任しています。年の瀬が近づくと、年末調整の取りまとめなんかもやっていますよ。

 

というのも、安全性に配慮してレースを行っているので、事故が起きることはそんなになくて。看護師としての仕事は機会が限られているので、それ以外の時間で総務の仕事をしているんです。

 

――そうなんですね! 呼び出しがあるまではデスクワークとのことでしたが、その呼び出しはどのようにくるのでしょうか。

 

現場のスタッフとつながっている無線機を通じて、呼び出しがくるようになっています。

 

何かあったらすぐに対応できるよう、無線機は始業から終業までずっとつけていますよ。

 

医務室外観。サーキット会場からは少し離れた場所にあり、救護車も完備

 

――医務室への搬送は、誰が担当しているんでしょうか。

 

重症患者さんの場合は、常駐しているレスキューさんが搬送してくれています。

 

ただ、彼らは救急救命士の資格を持っているわけではないので、搬送のみの担当で、医務室に運ばれてからは私が対応しています。

 

――搬送専門のスタッフさんがいるんですね。事故状況の確認は、どのように行うんですか?

 

事務所に事故の状況を映し出すモニターがあるんですよ。

 

呼び出しがきたら、まずモニターで事故発生時の状況を確認して、どんな症状が考えられるかを想像しつつ、医務室へ向かうようにしています。

 

事務所内にあるモニター。コースの様子や事故当時の状況を確認できる

 

サーキット会場の医務室に来る患者さんとは?

――医務室には、どのような患者さんがいらっしゃるんですか?

 

ドライバーやライダー、スタッフ、観客など、さまざまな方が医務室にいらっしゃいますよ。

 

1日あたりの患者数でいうと、だいたい1カ月で20人前後、年間で200~250人くらいだと思います。誰も訪れない日もあれば、多い日もありますね。

 

スタッフや観客に比べると、ドライバーとライダーが多いと思います。

 

ただ、どちらも防具をつけて走っていますし、コースも日々しっかり整備されているので、軽症の患者さんがほとんどですね。

 

2019年、全日本ロードレース選手権開催時の写真。日本屈指の大規模レースでは、全100人以上ものライダーが一堂に会する

 

――事故の場合、ドライバーとライダーでは、怪我の種類は違うんですか?

 

大きな違いはありませんが、ドライバーは首の捻挫、ライダーは脳震盪を起こす方がいます。

 

雨の日は路面が濡れるので、スリップ事故が起こりやすくなるかな。

 

――天気によっても怪我の種類が変わるんですね。観客やスタッフは、どんな症状で医務室にくるんですか?

 

観客の方だと、夏場は熱中症疑いで来られる患者さんが多いですね。また、場内がかなり広いので、歩いているうちに靴ずれを起こしてしまう方もいます。

 

スタッフも夏場の熱中症が多いです。あとは、タイヤ交換などをするピットロードで、走り出した車と接触して怪我をするケースも、稀にありますね。

 

「今までとは違う職場で働きたい」サーキット会場で働くきっかけ

――サーキット会場で働こうと思ったきっかけは、どんなことだったんですか?

 

前職は精神科病院で11年間働いていたんですが、退職することになったとき、Webでたまたま求人募集を見たのがきっかけかな。

 

距離的に通えないこともないし、車も好きだし。それに、今までとはぜんぜん違う職場で働きたいなと思っていたので、なんとなく応募したんです。

 

――精神科病院では、外傷処置をあまり行わないイメージがありますが、技術面の不安はありませんでしたか?

 

もちろん不安はありました。精神科での勤務経験しかないので、救急分野に関しては素人同然でしたし

 

しかも、採用されたときから看護師は私だけだったので、頼れる人もいなくて

 

総務の仕事と兼任するというのも、最初聞いたときはびっくりしましたね。看護師としてしか働いたことがなかったから、総務なんて自分にできるんだろうか…って。

 

――それは大変そうです…。

 

大変でしたよ(笑)。

 

でも、1人だったからこそ、「サーキット会場に関わるみなさんの安全を守るためには、私がやるしかない」と踏ん張れたところもあるかもな、と今となっては思います。

 

看護師としての業務はもちろん、総務の仕事も、並行して少しずつ身につけていきました。

 

 

――精神科病院での経験が生きたこともあったんでしょうか?

 

少ないんですが、意外とありますよ。

 

最初にそう感じたのは「褥瘡の処置」ですね。サーキット会場の仕事でも処置頻度の高い、裂傷や擦過傷の処置と、かなり似ているんです。

 

褥瘡の処置は前職では日常的にしていましたし、ケアの中でも好きな方だったので、似ていると気づいてからは、裂傷や擦り傷にもスムーズに対応できるようになりました。

 

あと、ごくまれにですが、てんかんの発作を起こした観客の方の対応とか。

 

既往や基礎疾患がわからない中で突発的に対応することになるので、前職で経験していてよかったなと思いました。

 

――意外なところに共通点があったんですね。

 

安心・安全に走ってもらうために。Wさんが感じるお仕事のやりがい

 

――最後に、いまのお仕事のやりがいについてお聞きしたいです。

 

レーサー、スタッフ、お客様の安心・安全を守るために働けることですね。

 

サーキット会場って「危険な場所」と思われがちなんですが、実はすごく安全に配慮されている場所なんです。個人的には、一般道で走るよりもよっぽど安全だと思っています。

 

そういった環境は、従業員はもちろん、レースの日に参加してくださるボランティアのみなさんも一丸となって作り上げているんです。

 

私も看護師としてその一助となって、サーキット会場に関わるみなさんの安全に貢献していきたいと思っています。

 

サーキット会場全景。広大な敷地を走るレーサーや、観客の安心・安全を、Wさんをはじめとしたスタッフ全員で守っています

 

執筆

ライタートヤカン

大学病院の正看護師として働いた後、フリーライターに転身。
『まいにちdoda』『ダ・ヴィンチニュース』『bizSPA!フレッシュ』にて記事を執筆。エンタメ、社会問題、はたらくこと、看護に関するジャンルを中心に幅広く活動中。

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