無国籍のロシア人医師がマイケル・ジャクソンからヘビ遣いまで診るクリニックって?

コミックエッセイ「患者さまは外国人」の原案者で、外国人専用のクリニックに勤務しながらエスコートナースとしても活躍する看護師の山本ルミさん。前回は山本さんが働くインターナショナル・クリニックについて伺いましたが、今回は院長のエフゲニー・アクショーノフ氏についてお話ししていただきました。

 

 

看護師・山本ルミさんインタビュー【2】クリニックの院長エフゲニー・アクショーノフ氏のこと

 

【前回のインタビューはこちら】

【1】外国人専用、パスポート不要の「インターナショナル・クリニック」で働く看護師・山本ルミさん

 

院長は「無国籍」「元俳優」のドクター

インターナショナル・クリニック院長のアクショーノフ氏は、1924年生まれの無国籍のロシア人です。ロシア革命で亡命した両親の元、旧満州で生まれました。家を間借りしていた日本人家族に言葉を教わり、視察で訪れた華族の通訳をしたことがきっかけで18歳のときに来日。日本で医学を学んでいるときに満州国が崩壊し、そのとき国籍を失いました。外国人役で日本の映画に出演するなどして苦学しながら医師免許を取得し、国境のないクリニックを開業したのは半世紀以上前の1953年です。

 

医師としての高い力量と患者への慈愛、その合間に見えるお茶目な人柄に、人々は敬意と親しみをこめてアクショーノフ氏を「ドクター」と呼びます。

 

患者さんはマイケル、ブラピからへび使いまで!?

ドクターの患者さんは、旅行者から日本で働くビジネスマン、政府要人や海外の大物歌手・俳優と幅広く、その国籍は100を超えるとのこと。クリニック界隈のホテルから求められて、来日中の外国人の往診に行くことも少なくないそうです。中でも来日するたびにホテルに呼ばれていたという、マイケル・ジャクソンとの交流は知る人ぞ知る事実。

 

往診に訪れたホテルでマイケル(!)と一緒に

 

「初めはマイケルが風邪で熱を出したってホテルから往診の依頼があって、ドクターと一緒に行ったんです。握手した手が女性のようにソフトだったのを覚えています。ドクターが芸能関係に疎いので『ルミちゃんは知ってる人?』なんて聞いてきて、こっちがドキドキしちゃいました(笑)。それからは仕事じゃなくても来日するとよく呼んでいただきました。小さい頃のプリンスくんとパリスちゃんにも会いましたよ」

 

キング・オブ・ポップを知らない人がこの世の中にいたとは…。ドクターはその後もマドンナとバックダンサーの区別がつかなかったり、ブラッド・ピットに職業を聞いたりと、山本さんをヒヤヒヤさせ続けているそうです。

 

宗教や文化のちがいも尊重した治療

「本当にいろいろな方がいらっしゃいます。『ヘビ使いをしてたときにコブラに噛まれた傷が痛む』なんて、日本の病院ではなかなか聞かないですよね。

 

以前、診察に来た患者さんが「今朝これが出た」ってジャムのビンを差し出してきたことがあったんです。ドクターと「何?」って覗き込むと、もちろん中身はジャムじゃなくて、何か茶色いのとそこにうごめく白い何か。あとはご想像にお任せします(笑)。そういうのも、教科書でしか見たことのないような病気も、ドクターには分かるんです」

 

日本だとなかなか見ないような病気も、ドクターはピタリと当てて適切な治療を行います。それだけではなく「断食中だから日没まで薬は飲まない」「自分の国にはないから座薬は入れられない」などの、日本人からするとわがままに見えてしまいそうな患者にも、宗教や文化の背景を尊重して彼らが受け入れられる治療を提案することもします。

 

パスポートなし、治療費なしでもいい。「一人の医師」として

「ドクターは無国籍ということに不便は感じていないようです。『僕は誰より自由だよ』ってよく言ってます。最初はびっくりしましたけどね。無国籍もですけど、スパイ容疑で収監されたことのある医師なんてそうそういないでしょう(笑)」

 

いずれもすぐに釈放されていますが、ドクターは戦後、無国籍なことで各国からスパイの嫌疑をかけられ、何度か勾留されたことがあります。それはどこの国にも所属しない、単なる「一人の医師」として生きていくと決める一因になったかもしれません。

 

「パスポートなんて僕だって持ってないもん」。ドクターはそう言って、パスポートはもちろん、身分証明書の提示を求めません。時には不法滞在の外国人なども訪れることもありますが、どんな背景があろうとドクターの前では「一人の患者」。患者を分け隔てることなく、貧しい人からは治療費を取らないその姿勢から、ドクターは「青い目の赤ひげ」の別名を持っています。

 

ドクターの米寿を祝うパーティーの写真。各界からたくさんの人が駆けつけた

 

「お金がもらえないときは『代わりに学んだ』ってドクターは言いますね。すごくポジティブなんです。『その人の病気を勉強させてもらったんだからいいじゃない』って。ドクターは医師という仕事を心から楽しんでいます」

 

外国人に対しては、まだまだ不十分な日本の医療。その溝を埋めてくれる存在のドクターには、まだまだがんばってもらいたいところです。

 

次回は山本さんのもう一つの職業「エスコートナース」について伺います!

 

【山本ルミさんインタビュー】

【1】外国人専用、パスポート不要の「インターナショナル・クリニック」で働く看護師・山本ルミさん

【2】無国籍のロシア人医師がマイケル・ジャクソンからヘビ遣いまで診るクリニックって?

【3】海外からの患者搬送に付き添う「エスコートナース」の仕事とは

 

※院長のエフゲニー・アクショーノフ氏は取材後の8月5日にお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。


【山本ルミ】

大分県出身。93年より六本木のインターナショナル・クリニックに勤務。98年よりエスコートナースとしても活躍している。著書に「患者さまは外国人(山本ルミ・原案 世鳥アスカ・漫画)」など。

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